第16話
レンガで造られた街。
人が住んでいる気配はしません。
もはや廃墟となった街はずっと曇のままです。
街の中心で呆然と立ち尽くす倭人男性。
「どうしてわかりあえなかったんだろうね、セツナ」
漆黒の瞳はずっと俯いたまま。
「健児!」
背後から名前を呼ばれた保住健児はゆっくりと振り返りました。
「リュウ、それに……カナン!?」
精悍な顔つきをした青年、リュウ。
そして、そのあとを着いてくるようにやってきた少女カナン。
「よかった、カナン。練成に巻き込まれなかったんだね」
嬉しそうに笑みをこぼしますが、漆黒の瞳はひどく悲観的に見えます。
まるで無理して笑っているような。
「健児、すぐに教えてくれ。エリスのことも全部知っていることを」
誰もが皆疲れきった表情で、本気で笑えるような人物はいません。
瓦礫をイスの代わりにして座り込んだ3人。
「エリスは一種の核兵器なんだ。彼女には錬金術を扱える能力がある。この国全てを破壊することの可能な力を持っている」
「……」
健児の説明にリュウは黙ってその言葉、真実を受け止めます。
「だからこそ、彼女を短命にしたんだ。彼女の力があれば死者を生き返らせることも簡単、ドイゾナーは彼女の力を使ってヘレナを生き返らせようとしている」
「そこまでしてヘレナを愛しているのか、あいつは」
「ドイゾナーは1000年前に存在した英雄だ。彼の妻はヘレナにそっくりらしいよ、本人が言うには。あまりにもそれに執着しすぎている」
「あいつらがどこに行ったかわかるか?」
健児は顎に手を当ててしばらく考え込んでいます。
「……首都だ」
「ああ? 結構遠いじゃねぇか、間に合うのかよ」
この街からかなりの距離にある首都。
車で頑張って走っても数日はかかる道のり。
「一番手っ取り早いのは車だ。電車は首都まで行ってくれない、船は倭国との以外ない。あとは運頼みだよ」
「くっそ、とにかく急ぐぞ」
「いや……俺はここにいるよ。カナンをお願いできるかい? どうなってもカナンだけは生きててほしいんだ」
立ち上がったリュウをよそに健児は座ったまま呟きました。
「俺はエリスを助ける為に行くんだ」
「だろうね……。カナンも自分の命を守れるくらいの力はあるさ。大丈夫だよ……」
健児の声が段々小さくなってきました。
内ポケットから取り出した拳銃を眺めるだけで2人を見ようともしません。
ため息を吐きそうになりそうです。
リュウは健児に背を向けて歩き出しました。
「行くぞ、カナン」
「はい」
ここにきてようやく発した言葉。
カナンは大切そうに白銀の刀を持ってリュウの背中を追いかけます。
2人の背中が遠くなった頃、俯かせていた顔をようやく健児は上げました。
「セツナ……」
もうすぐ日が暮れる時刻ですが、曇のせいか太陽は見えません。
拳銃の先端が徐々に上へ。
そして到達した先は自身の頭部。
そのまま停止したまま動きません。
街の外へ抜け出した2人は小さな貨物自動車に乗り込んでいました。
「待ってろよエリス、絶対助けてやる」
強く信念を持ったリュウの言葉と同時に車は発進。
簡易的な道路をひたすら走っていきます。
そして、同時刻。破裂したような甲高い発砲音が遠くまで広がった時、街は誰もいなくなりました。
読んでいただければ幸いです。




