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第14話

 都から湖の街に続く長い道路の上を走る1台の黒い高級車。

 運転席には人間とクローンのハーフである青年がいます。

 その隣には深緑の瞳をしたなんとも可憐な美少女がいます。

 そして、それを追うローブを被った巨体の男。

「なんで電話が繋がらないんだよ!」

 逃げろと言った倭人女性から連絡が一切無い。

 青年は届く事のない愚痴をこぼします。

「リュウ、すぐそこまで迫ってきてるよ!?」

 車の後ろには武装信者達も追いかけてきていました。

「逃げるしかないだろ。狙いは俺よりエリスだ」

 リュウは規定された速度よりも速く走ります。

 真っすぐな平坦な道路から草原が広がる道なき道を走りだしました。

 それを追って、武装信者達も道から外れました。

 ですが、巨体の男はそれを追いません。

「あのリュウという男。確か教会にいたな?」

 右目に縦の傷を持つ鬼のような男は隣にいる少年に訊きます。

「彼はクローンのハーフだよ」

 白いフードで全身を謎に包んだ少年は2本の刀を手に立ち尽くしていました。

「ほう、ハーフにでも殺意識というのは有り得るのだな」

「セツナは死んだ、そのおかげでヘレナの意識再生ができたし。あとはあの子の肉体を手に入れるだけ」

 ドイゾナーは不適な笑みを浮かべて歩きだしました。

「まずはエリスを確保し、我が愛しのヘレナの精神をその肉体に送り込む。カノンの遺伝子を繋げクローンの基本遺伝子を破壊させろ。迎え、ノザカ」

 ドイゾナーの命令にノザカはまるで霧のようにその場から消えます。

 道路から外れた場所で高級車は停車していました。

 その周辺にはあちこちから血を流している武装信者達。

 リュウはもはや木刀とは呼べない、ただの刀となった武器を手に息を整えます。

「はぁはぁ、もう終わりだよな?」

「リュウ、大丈夫?」

 エリスは思わず車から出てきました。

「ああ、すぐに逃げるぞ」

 ですが、そうは簡単に逃げれないようです。

「鬼ごっこは終わろうかな」

「!? 誰だ、お前は?」

 背後から突然声をかけられたことで慌てて振り返りながら武器を構えます。

「誰だっていいじゃない。ただ僕はその子が欲しいだけだよ」

「ふざんけな、エリスに触れさせるか!!」

「……君もセツナみたいに死にたいの?」

 面白くなさそうな声。言いたくない名前を出しては口元をきつく閉じた少年。

「……は?」

 信じられない言葉に時が止まったような感覚に襲われてしまいます。

「え、え、セツナ、死んだの? なんで?」

「そんな話全然信じられないな」

 リュウは頭を軽く横に振っては、少年が発した言葉を決して信じようとは思いません。

「君みたいな中途半端なクローンなんか相手にならない」

「さっきからイライラすることばっか言いやがって!」

「そうそう、カナンっていう子も多分死んだと思うよ」

 ふたたび笑みを浮かべて、面白そうに衝撃的なひと言を発しました。

「うそ、うそうそ!」

 エリスは今にも泣き出しそうな声です。

「お前、いい加減にしろよ」

 血管が切れてしまってもおかしくない。

 刀の柄を握り締める手に力が込められています。

「君はその子を選んだんだ。カナンもセツナも皆独りぼっちのまま」

「うるせぇ!!」

 刀を少年目掛けて振り翳します。

「我は錬金術の継承者なり」

 怒りで我を忘れた為、少年が呪文のような言葉を呟いていることに気づくのが遅かったようです。

「あ……ぅ」

 エリスの周りに突然浮かび上がった不可解な術式が書かれた文字。

 真っ白な光に包み込まれてしまいます。

 そして、眠るかのようにエリスは目を閉じ、その場に倒れ込みました。

「え、エリス!?」

 ノザカは漆黒の瞳を細めます。

 慌ててエリスの方へ体を振り返ったリュウ。

「戦うか守るかどっちかにしなよ」

「……!!」

 灰色の切っ先が、何故か左胸から突出してることに気付いたリュウ。

 口からも左胸からもこぼれ出す血液。

「じゃあね、リュウ」

 ノザカはエリスを抱き上げ、姿を消しました。

「……」

 灰色の刃が左胸に貫かれたまま、リュウは数秒だけ立ち尽くします。

 ふらふらと体を前後に揺れながらも震えた手で灰色の刃を握り締めますが、動きません。

 残念ながら力尽きたリュウはそのまま横たわるように倒れました。

 生きているような力はありません。

 呼吸をしているのかさえわからない。

 そんな時、意識すら既に失っている彼に近づいて来る足音が聞こえてきました。

「血の臭い?」

 少女の声です。

 ロングストレートの茶色い髪。

 少し釣り目の少女は比較的動きやすい服装でその上に白いエプロンを身に付けています。

「なに、死んでるの、この人?」

 慌てているような素振りはありません。

「こいつクローン……もう、いくら人間じゃなくても助けないといけないわけ?」

 不満を呟く少女は瀕死状態のリュウへ手を伸ばしました。

読んで頂ければ幸いです。


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