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第13話

 大半の建物が煉瓦で造られた街。

 太陽はまだ頂上にいます。

 季節は冬ですが、薄着でいれる程で気温が変わることは滅多にありません。

 街は鉄分の臭いで充満していました。

 小さな子供から老人まで、皆地面に仰向けだったりうつ伏せだったりで倒れているのです。

 体のあちこちに小さい穴が空いています。

 そこから吹き出る赤い液体。

 その上を踏み歩く緑の制服を着た武装信者達。

「聖女様を発見次第確保しろ」

 鍔のついたヘルメット、そして顔を隠したゴーグルで表情が見えません。

 即死能力のあるライフルを手に謎の集団は死体を踏んで行きます。

「ん? なんだ、まだ生きてる奴がいたのか」

 集団の先頭を歩く男性は言いました。

「誰でもいい、やるぞ」

 その後ろを歩く男性はライフルを構えまて目の前の誰かへ狙いを定めます。

 武装信者達の前には白銀の刃を横に構えた倭人女性。

 紅玉の瞳に表情は無く、冷酷とも言えるほど冷え切った様子です。

 風がセミロングの黒髪を揺らします。

 黒一色のブレザーとミニスカート。胸元には白いリボン。

 20歳を超えた女性が着るとは思えない服装。

 女性は静かに誰にも聞こえないような声で呟きます。

「何を理由にこの街の住民を殺す必要がある? 人間までも意味もなく殺して……」

 女性の瞳孔が一瞬にして収縮し獣のような鋭い目つきに変化。

 白銀の刃が太陽の光に反射して眩しく照り輝きます。

「あいつは……あのときの化け物だ! 撃ち殺せぇ!!」

 先頭に立つ男は大声で後ろにいる集団に命令しました。

 それと同時にライフルの銃口から弾丸の雨が降り始めました。

 無数の弾丸の雨がセツナを襲います。

 しかし、彼女の視界から映る世界ではその弾丸はまるでスローモーションのよう。

 白銀の刃は降りかかる弾丸を真っ二つに斬り、セツナの隣を通り過ぎて行きました。

 気付けばセツナは先頭に立つ男の目の前まで来ていました。

「う、ああぁ……」

 弾切れになったライフルを構えたまま後退します。

「くそがぁ!!」

 やけになった男はライフルを振り上げました。

 振り上げた瞬間、風が切れる音が聴こえ男の手元が軽くなりました。

「?」

 上を見るとなんと、持っていたはずのライフルが半分無くなっていたのです。

 顔を真っ直ぐに戻すと差別対象であるクローンの姿。

「うわぁあああ!!」

 男は思わず集団の最後尾よりも後ろまで走りだしました。

 それに続くように集団は走っていきます。

「……」

 武器を放り捨てていく武装信者達。

 大勢の人間が一気に逃げ出した為、その場はしばらく砂煙で視界が悪くなります。

 数分後、もうすぐで消えてしまうであろう砂煙。

「?」

 全員逃げたはずですが、セツナは景色が鮮明に映った時点で不審に思います。

 白い布のフードを被ったやや細身の人物が立ち尽くしていたのです。

 性別も顔も確認できませんが10代後半ほどの年齢でしょうか。

「会いたかったなぁ、ずっと」

 中性的な声ですが、少年のようです。

「誰だ?」

 眉をしかめセツナは刃先を相手に向けました。

「あれ、覚えてないんだ。君は随分忘れっぽいね、僕のこと覚えてくれてないと……お友達の仇でしょ?」

「!!」

「思い出した? 良かったなぁ、僕のこと思い出してくれないとさ、殺した意味ないんだから」

「ノザカァ!」

 怒気ともいえるしかし抑えた声を発したセツナは目にも止まらぬ速さで走り出しました。

「あはは、さっきまで仲よくあの意識とお喋りして、結局最後は自分の手でお友達を殺したんだ。あっさりと」

「黙れ! あんなふうにしたのはお前らのせいだ」

 刀身をノザカへ振りかざします。

 素早く振り下ろされた白銀の刃。

「セツナ、疲れているんじゃない?」

 フードから見えた微笑む口元は余裕です。

 刃を弾き返すために取り出した2本の刀。

「その刀はヘレナのだ」

 ノザカの両手には灰色の刃と漆黒の刃が。

 弾かれたセツナは後ろへと軽くよろけてしまいます。

「もしかして、独りぼっちになった? 可哀相だね。僕と一緒に逝けば寂しい気持ちなんてならないよ」

「私は常に独りだ。そんな覚えはない」

 何回も同じように刃同士が重なっては離れを繰り返しています。

「アハハハ、強がってるの? 面白いなぁ……そろそろ終わろうか。我は錬金術師の継承者なり」

 白銀の刀身の上に刀を2本乗せてそのまま下げさせられてしまいます。

「くっ」

 セツナの力でも微動だにしません。

 その間に呪文のような言葉を発したノザカの周りに突如真っ白な光が現れたのです。

「!?」

 地面に描かれた不可解な術式が円となって街全体に広がっていきます。

「錬金術を使ってどうするつもりだ!?」

 セツナの怒声に、

「ドイゾナーの我侭に付き合っているこっちの身にもなってほしいな。意識をもう一度蘇らすのも大変なんだ。本当は生きた人間を使った方が死人は蘇るんだけどなぁ」

 まるで気にしていない素振りで別のことを話しています。

 次第に街全てを覆うほどの光が死体へと触れ、死体は粒子となって吸収。

「……」

「アハハハ、逃げないの? セツナ」

 面白そうにただ黙って光の行方を眺めているセツナに声がかけられます。

 全ての死体を粒子にさせた光はやがて2人のところまでやってきました。

 あともう少しで光が迫ってくるというのにセツナは何故かゆっくりと瞳孔を元の形に戻してしまいます。

 そして、目を閉じました。

「君が望むようにすればいいよ。いいよね君だって死のうと思えばいつだって死ねるんだから」

 その言葉を最後にノザカは姿を霧のように消します。

 街の中心でただ1人残されたセツナ。

 溜め込んだ透明な雫が頬をつたって地面に落ちてきました。

 手から離れた白銀の刀は音も立てずに落下。

「カナン、クローンは……」

 呟いた声が掻き消され光がセツナを覆いつくしたのでした。

 その瞬間真っ白な光がフラッシュのように眩しくさせて、気付いたときには普段と変わりない街へと戻っていました。

 ただ、転がっていた沢山の死体はありません。

 街の中心に残された白銀に光り輝く刃。

 静まり返った街はまるで廃墟そのもの。

 街の端に建てられた豪邸。

 その邸宅の3階には倉庫が設置されていました。

 室内は豪華な物品だらけの倉庫に1人蹲って眠っている少女の姿。

「!」

 体をビクつかせ、目を覚ましたようです。

 純白のワンピースを着こなすか細い白い肌に聖女のような可愛らしい少女は重たそうに体を起き上がらせます。

 少女の瞳は血のように濃く、かつての青い瞳はどこにもありません。

 微笑みを忘れたように辺りを見回してゆっくり歩き出しました。

「セツナ、どこ?」

 

 続

読んで頂ければ幸いです。

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