表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/26

第1話

 季節は冬。

 厚着をするほどの寒さはなく、暖かい気候です。

 ある日の夜両側に髪を結んだ少女が街灯を頼りに道を歩いていました。

 チェック柄のマフラーを首に巻き、白のミニワンピース。

 その上に黒いカーディガンを羽織り、下には黒のスカートを穿いている可愛らしい少女です。

 瞳は深緑で澄んだ色。

 そんな少女が1人で治安の悪い夜道を歩くのはとても危険です。

 それでも少女は臆せず、どんどん前へと歩いていきます。

 



 場所が変わり、他の建物より一際大きい教会。

 その周りを巡回している1人の青年がいました。

 短い茶髪に教会から支給された肩に白いラインがある緑の制服と黒のズボン。

 腰には漆黒の木刀が吊るしてあります。

 足場がわからない暗さでも関係ありません、足は止まることなく進みました。

「ん?」

 青年は視力がいいのでしょう、暗闇の中に誰かがいるのを見つけました。

 警戒しつつも武器を構えることはしません。

 そのまま近づきます。

 1歩、また1歩と足音がする度に何者かは後ろへ下がっていくようです。

「危害を加えるつもりはない、さっさと出てこい」

 青年の声に誰かが出てきました。

 それは、なんと、先程夜道を歩いていた深緑に輝く瞳を持つ美少女です。

「この敷地内は人間以外立ち入り禁止だ。クローンが何用だ」

 少女は口を小さく丸くさせ関心したように驚きます。

「すごーい、なんで私がクローンだってわかったの?」

 少女は興味津々のようで、青年に近寄ります。

 接近してきた少女を避けるように後退する青年。

「俺はクローンが大嫌いなんだ。今なら見逃すから出ていけ」

 裏道へ向かうようにと指示をします。

 名残惜しそうに少女は何回も振り返っては青年を見つめます。 

「私の名前エリス・サインポストっていうの。またねリュウ!」

 エリスと名乗る少女は足早に去っていきました。 

「……ったく」 

 どうやら制服に刺繍された名前を見たのでしょう、リュウと呼ばれた青年は何事も無かったかのように巡回に戻っていきました。 

「おいリュウ、交代時間が来たんだからさっさと休んでろ」 

 同じ服装の男がアサルトライフルを持って奥から出てきました。

「わかってる」

 言われた通りリュウは教会内に入って自室へと戻ります。

 自室のドアを開けようとしたリュウは突然頭を深々と下げ始めました。 

「巡回ご苦労、リュウ休む間も警戒を怠るな」

「はい」 

 教本を脇に抱え神官ですよと言わんばかりに服装が違う黄金色の制服と立派な口、顎の髭。

 その隣には白い布を頭から被せている謎の人物。 

「リュウ」

「聖母様、たかが一般兵士に話しかけてはなりません」 

 謎の人物がリュウに声をかけます。

 女性の声でした。

 神官の男はそれを遮り謎の人物を早足で急がせます。

 2人が前を通り過ぎてから頭を上げ神官の背中を睨みつけました。

 

 

 

  

 追い出されたまま街を歩くエリス。

「リュウは特別なのかな? クローンがクローンを嫌うってなんだろ」 

 疑問符を浮かべながらエリスは1軒の邸宅に入りました。

「ただいまぁ」 

 暗闇の家に明かりを灯すと誰もいません。

 木製テーブルには置き手紙があります。

 エリスはそれを読むことなくすぐにゴミ箱へ投げ入れました。 

「お父さんもお母さんも研究ばっかり、もう一回見にいこう!」 

 エリスの頭からリュウの顔が離れません。

 先程会ったリュウよりも脳内では美化されてます。

 早速エリスは家を飛び出し大きな教会がある場所へ向かいました。    

 エリスが意気揚々に向かっている間、教会では色々あったようです。

 聖母の像は半分にされ、頑丈に見える壁も崩れています。

 緑の制服を着た男達は気絶して倒れていました。

 その中で唯一立っているのはリュウだけでした。

 木刀を構え目の前にいる女性を睨み付けます。 

「……」 

 紅玉の瞳には感情がありません。

 女性にしてはそれらしい服装もせず地味な黒と茶系の色が多い。

 そして首には真っ赤なマフラーを巻いています。 

「邪教は差別しているクローンまで雇うようになったのか」 

「邪教じゃない! それはマリア様を侮辱しているのと同じだ」

 リュウは木刀を振り上げて走り出しました。 

「……マリアを返してもらおう」 

 女性が持っていた鞘から抜かれた刀の刃は刹那の如く木刀は見事に粉砕され、リュウは態勢が一瞬崩れます。 

「うわ!」 

 粉砕されたのは木だけでした。

 木刀の中には眩しく輝いた刃がありました。

 すぐにリュウは剥き出しにした刃を女性に向けて上から振り下ろします。

 それでも女性は怯みません。

 瞳孔が収縮したと思えば、捉えることのできない速度でリュウの背後に回り込んでしまいました。

「いつの間に!?」

「マリアは今間違ったことを押し付けられている、こんな邪教は必要ない」 

 そのまま鞘でリュウの頭を叩きつけます。

 視界はあっという間に遮断され、気を失ったまま仰向けに倒れました。   

「あれー?」 

 ボロボロの教会に目を丸くしたエリスは辺りを見渡します。 

「あっリュウ発見」 

 仰向けで倒れているリュウに駆け寄り、ひどい事に何度も手のひらで頭を叩いたのです。 

「起きて、リュウ」 

「?」

「起きないならキスしちゃうよ」

 微妙な痛みが頭部から伝わってリュウは何度も顔を歪めます。

 ようやく視界に映ったのは柔らそうな唇。 

「うわっ!?」 

 唇が当たってもおかしくない程の距離にリュウは立ち上がりました。 

「お前、さっきの!」 

「またリュウに会いたくなっちゃった」

 満面の笑みで照れることなくエリスは言います。

「俺はクローンが嫌いだと言ったはず……ってあの女どこ行った!?」

 刃剥き出しの木刀のような刀を拾い、教会の奥へと走り出します。 

「……?」 

 いつの間にか教会の周りを囲むように人々が集まっていました。 

「なんだこれは」 

 たくさんの人だかりを割って入ってきたのはあの神官でした。 

「リュウはどこだ!?」

「はい!」

 奥から出てきたのは顔面蒼白にしたリュウ。

「お前のような者がいながらこの様はなんだ?」

 眉間に皺を寄せて、険しい顔をする神官にリュウは目を合わせられません。

「この責任は全てお前が持ってもらおうか」

「なっ!」

「永久追放だ」 

 静かに呟かれた衝撃的な一言にリュウは愕然とするしかありません。

「全く、クローンを雇うとろくな事がない!」 

 神官が投げ捨てた言葉に何も言い返せないリュウ。

「リュウ?」 

 エリスは声をかけます。

 しかし、全く反応する様子はありません。 

「え、永久、追放……」 

 いわゆるクビです。

 リュウは教会の巡回等の警備をする事で給料と宿舎が用意されていたのです。

 クビとなれば全て無くなってしまいます。

 リュウの脳内はこれからの生活のことばかりで、外から何も聞こえません。 

「エリス!」

「あ、お父さん」

 白衣を着た丸眼鏡の男はどうやらエリスの父親のようです。

 生真面目そうな父親はエリスの腕を掴み、さっさと帰っていきます。 

「もうとっくに門限は過ぎているんだぞ!」 

「ごめんなさーい」 

 謝る気はありません。

 エリスは門限を破ったことよりもリュウが気になるようです。 

「永久……追放」  

「……」 

 それを半壊した教会の十字架が飾られている屋根から見下ろしているのは先程教会を襲った女性でした。

読んでいただけたら幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ