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終わりで~す。
パーティー真っ最中なので、あまり大っぴらに見張る訳にはいかず、雰囲気を壊さない程度に、でも厳重に見張られてる不穏分子達。
見張られてることは承知の上で事を起こそうとする程馬鹿ではないことを祈りたいけど、あの目付きを見ると、やりそうよね。
元宰相や元大臣達は老齢で自ら動く事はないだろうけど、元王妃と元王子はギラギラした目でエレクシア様を睨んでる。
エレクシア様の妹のアリュール様は、自分の着ている古びたドレスと、贅を凝らしたウエディングドレス姿のエレクシア様とを見比べて、不満タラタラの顔をされてるし。
味方になってくれる筈の、アリュール様のご両親である前リルバートン公爵夫妻は参加されてないのも不満そう。
前リルバートン公爵夫妻は、エレクシア様の公爵家への返還と、アリュール様の減刑を何度も何度も嘆願され、それを却下されて不満を持ち、エレクシア様への慰謝料の支払いを渋っていたとか。
リルバートン公爵家に帰されれば、慰謝料の支払いは必要ないだろうと主張されてたそう。
姉の婚約者を寝取っておいて、そんなことを仕出かす娘を手助けしておいて、何の罪にも問われなかったのは、リルバートン公爵家の立場を守った為。
それよりも何よりも、エレクシア様の実家を守りたい気持ちがあったのだろうけど、建前では、歴史あるリルバートン公爵家、国内での勢力も大きく、リルバートン公爵家が爵位返上ともなれば、やっと同盟関係を結べた周辺国にも、国内のゴタゴタを理由に同盟を切られる恐れまである。
それを避ける為に、アリュール様はザクセン元王子との婚姻。リルバートン公爵家にはお咎め無し、当主夫妻だけに個人資産からの慰謝料の支払いを命じられたのに、それを渋るって、王命に逆らう事と同義なのに。
リルバートン公爵夫妻を咎め、リルバートン公爵家の名を落とす訳にはいかない。
そこで取られた措置は、王命でのリルバートン公爵家当主の交代。
リルバートン公爵家には、エレクシア様よりも七つ上の嫡男様がいらっしゃる。
領地経営は全てその嫡男様が行っており、嫡男様は領地で仕事に励んでおられ、王都での出来事は全く知らなかったそう。
そんな経緯から爵位継承には何の問題もないと言うことで、当主交代は滞りなく行われた。
卒業パーティーでの騒動を知らなかったリルバートン新公爵様は、末妹と両親の行いを恥じ、アリュール様も両親も必要最低限の荷物しか持たせずに、公爵家から追い出し、末妹と両親の持っていた私財のほとんどを売り払って、エレクシア様への慰謝料として支払ったそう。
追い出す時に、末妹と両親の公爵家の籍も抜いてしまったので、ザクセン様と婚姻したアリュール様は別として、ご両親は平民になったそう。
新宰相様が、その手際を褒めておられたので、新リルバートン公爵様もまた優秀な方なのだろう。
そんな経緯もあって、アリュール様の味方をする者は皆無。
学園在学中は、エレクシア様に虐げられる令嬢として周囲の同情をかい、多くの友人に囲まれていたようだけど、今は不満顔のザクセン様と元王妃しか側に居ない。
最低限の荷物しか持たされず家から追い出されたので、今着ているドレスは元王妃のお古。
元王妃が独身時代に着ていたドレスなので、型は古いしデザインも野暮ったい。
見るからに生地も分厚く、色も褪せている。
卒業パーティーではザクセン様に贈られたらしい最新流行のドレスを着ていたのに、立場が完全に逆転してる。
元王妃の着ているドレスも似たような物。
実家の伯爵家では新しいドレスを作ってもらえなかったのか、やはり独身時代に着ていた古いドレスをお直しして着ている様子。
アリュール様はまだお若いので、ビラビラとした装飾過多なのに無駄に露出の多いドレスでも、何とか見られるけど、その親世代である元王妃は、何とも見苦しい様になっている。
王妃時代は横領したお金を湯水のように使って買い揃えた美容品も使えなくなっただろうし、肌のシミやくすみやたるみが隠せなくなってる。
そんな不満がありありと顔に出ている二人。
義理の親子の筈なのにとても似ている。
ザクセン様も、自分用にあつらえられた礼服ではなく、誰かのお古なのか、微妙にサイズが合っていない礼服を着ている。
そんな一行をクスクス笑い者にしている貴族達は多く、その事も屈辱に感じているようで、ますますエレクシア様を見る目が険しくなっていく。
エレクシア様と陛下は来賓の方々への挨拶を終え、国内の有力貴族の方々への挨拶回りをしている。
徐々に奴等一行との距離が近付くのを警戒しながら見ていたら、会場隅からガシャーンと食器の割れる音が。
その音に気を取られ、一瞬目を離した隙に、元王妃と元王子のザクセン様がエレクシア様達に駆け寄ってきて、エレクシア様に駆け寄ったわたくしを突き飛ばし、体勢を崩し振り向いた時には、元王妃は小瓶を振りかざし、ザクセン様は短剣を突き出していた。
近衛騎士が二人を阻止しようと駆け寄るが間に合わず、陛下がエレクシア様を抱き込んで庇おうとなさった。
その陛下の脇の下から、ピンヒールの足がシュッと延び、元王妃の持っていた小瓶を蹴り上げ、そのままの勢いでザクセン様の持っていた短剣を横に蹴り飛ばした。
蹴り飛ばされた短剣が近衛騎士の鎧に当たりカンッと音を立てる。
蹴り上げられた小瓶が宙を舞った後に元王妃の頭上に振り撒かれる。
「ギャーーーーーッッッ」
元王妃の悲鳴がその場に響く。
会場中が注目するなか、顔を頭を掻きむしるようにその場でのたうつ元王妃。
近衛騎士によって素早く距離を取らされる陛下とエレクシア様。
わたくしも近衛騎士の手によって助け起こされ避難させられる。
短剣を蹴り上げられたザクセン様はその場に押さえ付けられ、呆然としたまま、
「なぜ」
と呟かれた。
それは失敗したことになのか、エレクシア様が撃退出来た事になのか。
それに答えたのは陛下に抱きしめられたままのエレクシア様。
「言ったでしょう?わたくし、貴方の代わりに王子教育も受けたと。王子教育って剣術や護身術も含まれるのよ。しかも令嬢としての護身術や懐剣術ではなく、王子としての剣術や護身術をわたくしは習わされたの。いざと言う時に貴方を守る為だと言い聞かされてね」
別の近衛騎士によって捕縛され、無理矢理顔を上げさせられた元王妃は、毒によって火傷したように髪がゴソッと抜け落ち、皮膚が赤黒く爛れ、見るも無残な姿に。
それを見てしまった令嬢や婦人が悲鳴を上げてその場に倒れたりと大変な騒ぎになった。
抵抗する間も無く捕縛されるザクセン様。
近衛騎士によって素早く会場から運び出される二人。
倒れた令嬢や婦人も身内によって会場から出されメイドや侍従に促されて別室に。
騒ぎを収める為に陛下は来賓の方々の方へ。
陛下もエレクシア様も一切の動揺を見せず、騒ぎがあったことをお詫びして、またパーティーをお続けになった。
パーティーが終了した深夜。
初夜を迎える筈の陛下とエレクシア様は、近衛騎士と新宰相を伴って、貴族牢ではなく地下にある重罪人の収監される牢へと足を運び、捕らえられた囚人と対面した。
元王妃は、一応最低限の治療をされたようだが、酷い痛みがあるらしく、鎖で拘束されているにも拘わらず呻きのたうち、暴れていた。
元王子のザクセンは不気味な沈黙を守っていて、何の反応もない。
そんな二人を素通りして、同じように牢に入れられた別の囚人の牢の前に。
その牢に収監されているのは、騒ぎを傍観しているように見えた、元宰相。
陛下とエレクシア様が牢の前に立つと、憐れっぽく身を震わせる元宰相。
「お前のやったことは全て判明している。今更逃げられると思うなよ」
陛下の怒りを抑えた低い低い声に、
「陛下!私は今回の騒動に何ら関与しておりません!隣の愚か者共が勝手に起こした騒動に、何故私が捕らえられているのでしょう?!」
理解出来ない!と身を震わせ、涙まで滲ませて訴える元宰相。
その姿は憐れな老人にしか見えなくて、知らぬ者が見れば同情をかえただろう。
さらに隣に収監されている元大臣の何人かも、元宰相の言葉に同意する声を上げている。
「余は全て、と言った。毒を手配したのがそなただと言うことも、元大臣だった権力を使い結託して、元妻や息子に毒や短剣を持たせたまま会場に入れるように手配した事も。お前達の動きは以前から見張らせていた。ザクセンを傀儡にして王位を簒奪しようと企んでいた事もな。今更言い逃れは聞かん。私欲の為とは言え、長年この国を支えてきたそなた達に温情を掛けたのが間違いだった。そなた達は一族郎党死罪を言い渡す」
陛下のお言葉は、暗い牢に重々しく響き、元宰相や元大臣達の息を呑む音だけが響き、反論の言葉を聞く前に陛下方は踵を返し牢から出ていく。
重厚な扉を閉める直前、複数の悲鳴や雄叫びが聞こえたけれど、誰も振り向きもしなかった。
◆
婚姻パーティーでは多少のトラブルはあったものの、邪魔者は悉く処刑されたので、日々は忙しくも平和に過ぎていった。
陛下自らの外交で周辺国との同盟を無事締結出来た事で、隣国との小競合いは小康状態となり、国内も落ち着いてきて。
一日遅れの初夜を迎え、陛下とエレクシア王妃様は仲睦まじくお過ごしになられたものの、なかなか子宝には恵まれず、五年の時が過ぎた。
何故かわたくしは宰相様のご子息と婚約が決まり、半年の婚約期間を経て婚姻を成し、一年目で長男を、二年目で次男を出産し三年目に長女を、五年目に三男を出産した。
五年目の今年、待望のエレクシア王妃様のご懐妊に国中が沸き立つ中、乳母として任命され、エレクシア王妃様の出産に立会って。
初産なので時間が掛かり、周囲もやきもきするなか、お生まれになられたのは産声の大きな大きな王子殿下。
知らせを受けて部屋の外に待機されていた陛下が、それはそれは感動されたご様子で、エレクシア王妃様を労い、お生まれになったばかりの王子殿下を微笑んで見ていらした。
エレクシア王妃様は産後の肥立ちも順調に回復なされ、お生まれになられた王子殿下も健やかに成長されている。
貴族家ではエレクシア王妃様と出産を合わせ、ベビーラッシュが起き、国中が祝福ムードに沸き立っている。
乳母の役目として王子殿下の授乳を終えて、ベビーベッドへ王子殿下を寝かせようとしたところで、エレクシア王妃様が来られ、
「間に合った!寝かしつけはわたくしがするわ」
小声で仰られたので、王子殿下をそっとお渡しする。
体勢が変わった事でむにゃむにゃとむずかりはしたものの、お母様である事をご理解され、すぐにまた眠りにつこうとされる王子殿下。
その一つ一つの仕草でさえ愛らしく、王妃様付きのメイド達も微笑んで見つめている。
暫くの間、ゆっくりと揺らしながら抱っこしていたエレクシア王妃様は、王子殿下がしっかりと眠ったのを確認されて、ベビーベッドへとそっと起こさないように寝かせた。
「可愛い寝顔。この頃は陛下に顔つきが似てきたかしら?」
「そうでございますね。ついこの間までは王妃様に似ておられましたから、まだまだ日毎にお顔や表情が変わられて。どの様なお顔も愛らしいですね」
「ええ。自分でもこんなにも子供を可愛いと思えるとは、不思議な感じがするわ」
王子殿下の寝顔を見ながら微笑まれるエレクシア王妃様。
メイドに別室にお茶の用意を命じて、それでも王子殿下の愛らしさに離れがたくおられるよう。
「ねぇリュリュー、わたくしね、今とても幸せよ」
「それはようございました。ですがこれからもっともっと幸せになって頂かなくては」
「ふふ、そうね。そうなのだけど、わたくしね、学園に居た時から貴女を知っていたのよ」
「え?お話させて頂いた事は無かったと思うのですが?」
「ええ。わたくしはあまり学園には通えなかったし、一方的に見掛けただけで話した事はなかったけど、何故か貴女の事はとても印象に残っていたの」
「そう、なのですか?あまり目立つ生徒ではなかったと思うのですが」
「わたくしが見掛けた時、貴女はザクセン様が令嬢に囲まれているのを見て、不快そうな顔を隠すこと無くその将来を憂いていたわ」
「それは、わたくしだけではなかったと思うのですが?良識ある貴族ならば、ザクセン様の態度は眉を顰めるものでしたし」
「そうね。でも何故か貴女は他の人達とは違って見えた。そしてわたくしの担当になってからも、まともに返事もしないわたくしの世話を嫌がる事無く丁寧にしてくれて、日々起きた事を話してくれた」
「覚えてらっしゃるのですか?」
「ええ。とても嬉しかったもの。お庭にどんな花が咲いたか、流行のお菓子がどんな味だったか、同僚のメイドがどんな失敗をしたか、そんな他愛ない些細な日常の出来事を、わたくしに話し掛けてくれる人は今まで一人も居なかったから、友人が出来たようでとても嬉しくて楽しかったの」
「王妃様」
「だからね、貴女なら、わたくしの気持ちを汲んでくれると思ったの」
「王妃様のお気持ち、ですか?」
「ええ。わたくしがザクセン様をどう思っていたか、そして本当は誰をお慕いしていたかを」
「…………………………」
「誰にも話した事は無かったわ。話す相手も居なかったし。お会い出来たのは数える程度。でも幼かったわたくしの頭を笑顔で撫でて下さったの。それまで親にさえ一度も頭を撫でられた事がなかったわたくしの頭を、あの方は笑顔で撫でて下さった。あの方が居られる国だから、あの方が治める国だから、寝る間が無くても体がボロボロになっても、必死に仕事をしてこられた。……………………わたくしね、随分前から知っていたのよ。元王妃様やザクセン様、元宰相や大臣達を放置すればいずれ身を滅ぼすと。あの人達はどんどんと贅沢に横暴になっていったから。でも待っていられなかった。わたくし自身の身が保たないと思ったし、あの方が帰って来られる前に、道筋を付けておきたかったの。だからね、少しずつ少しずつ、弱い毒を流し込むように、皆様の仕事を邪魔して、破滅の時を早めたの。あの人達とは違う、優秀な方々が確りと調べて下されば、証拠も証人も出てくるようにしたし。それにね、あの方は優しい方だから、わたくしが死を覚悟していると訴えれば、無下にはしないと知っていたのよ。そしてこの国にわたくし以上に次期王妃が務まる者は居ないと知っていたの。わたくしがあの方の隣の席を手に入れるには、多くの犠牲が出る事も知っていたわ。知っていて、あの方以外を切り捨てたの。計算高い女だと、冷酷な女だと軽蔑する?」
懺悔でもするかのように語るエレクシア王妃様は、一度もわたくしの目を見る事無く、そのお心の内を窺い知る事は出来ないけれど、何時もは毅然とし前を向くその目は、不安に揺れているように感じた。
「いいえ。エレクシア王妃様がどの様なお考えで、どの様な方法で何をしたのかは存じ上げませんが、間違いなく陛下不在のこの国を支えて下さったのはエレクシア王妃様ですもの。犠牲になった方々は、それだけの悪事を働いてきた方々です。同情は出来ません。そしてエレクシア王妃様には、軽蔑などとんでもない、感謝と尊敬と敬意を日々感じております」
わたくしの言葉に、驚いたように顔をお上げになるエレクシア王妃様。
そしてふわり、と微笑まれ、一粒だけ涙を溢された。
「ありがとう。全てを知っている気になっていたけど、今の貴女の言葉がとても嬉しいわ」
「エレクシア王妃様は他者を陥れたり、切り捨てた訳ではないと思います」
「え?」
「貴女様は親から切り離され、理不尽な目に何度も遭ったにも拘わらず、国民のために、愛する方の為、この国を守る為に、戦って来られたのです。罪を犯した方々を放置して好き放題されていたら、今の穏やかで平和な日々は無かった事でしょう。わたくしは一国民として、心から感謝しております。犯罪者の事など気に掛けずとも良いのです。貴女様は貴女様の幸せの為に、最善と思われる事をしてきただけ。少々常人とは規模が違いますが、それは誰もがやっている事です。意中の方を振り向かせようとあれこれ手を尽くしますし、時にはずるい手を使うことも。誰もが幸せになるために必死になるのは当然の事です。ですから、エレクシア王妃様はこれまで辛かった分余計に幸せにならなくてはいけません。わたくしも微力ながらお手伝い出来るよう頑張りますので!」
思わず力が入って握り拳を作ってしまったけど、エレクシア王妃様はそんなわたくしを見て、
「ふ、ふふふ。そうなのね。誰もが幸せになるために必死になるのは当然。わたくしも、幸せになって良いのね、ふふふ」
切なそうに笑うので、こちらが泣きそうになる。
「ええ、そうですとも。この国の頂点にお立ちになる国王陛下と王妃様が幸せにならなくて、その臣下である誰が幸せになれるでしょう?誰もが羨むご夫婦になって下さいませ。そしてその幸せを臣下であるわたくし達にも分けて下さいませ。わたくしが言うのも無礼かもしれませんが、陛下はとても愛情深く、エレクシア王妃様を心から慈しんでおられるように見えます。エレクシア王妃様も同様に陛下を心からお慕いされているように見えます。どうかこのまま、お二人が末長く仲睦まじく在られます事を、心から願っております」
歴史を見ても、他国の話を聞いても、国王と王妃が心から思い合うなんて、稀にしか無い事だと知っているけど、それはエレクシア王妃様もご存知の事。
その上でわたくしの言葉に、柔らかな笑みを浮かべて下さるのに微笑み返す。
「わたくし、これまでは、あまり人には恵まれなかったけど、人を見る目はあったみたい」
「ええ、そうですとも!陛下は素晴らしいお方ですもの」
「うふふ、わたくしの選んだ方の中には、リュリュー、貴女も入っているのよ?」
「え?わたくしも、ですか?」
「そう。わたくしが最初に側にと願ったのは、陛下よりも前に貴女なのよ?」
「それは、何故でしょう?これと言った能力もなく、特に目立つ存在でもなかったと思うのですが?」
「そうね。長年陛下をお慕いしてはいたけれど、愛されるって事がどう言う事かわたくしには分からなかった。能力の面でだけ言えば、わたくし以上に王妃に適任な者は居ないだろうと思っていたけれど、孤児の子供達に教えられて、愛情を求める心が自分にもあったのだと気付いたけれど、孤児の子供達は愛情を求めるばかりで、わたくしは愛情の与え方を知らなかった。愛情が何かをわたくしは知らずに育った。でもね、そんなわたくしに、愛情と言うのがどんなものかを教えてくれたのは貴女なのよ」
「わたくしが、ですか?」
「ええ。他愛ない話に笑い合う、相手を思って触れる、季節の移ろいを共に楽しむ。貴女がわたくしの世話をしてくれている間、ずっとしてくれていた事。わたくしはそれが嬉しくて、温かくて、ああこれが愛情というものなのだと知ったのよ。そして陛下からの言葉や触れられる手や、抱き締められる温かさを、素直に受け入れられた。貴女が先に子を産み育てる姿を見て、わたくしも貴女のように温かな思いを誰かに伝えたいと思ったの。貴女が居てくれたから、わたくしは王妃だけでなく、妻にも母親にもなれた。ありがとう。これからも側に居てね?」
「勿体無いお言葉です。エレクシア王妃様が望んで下さる限り、精一杯お側で、支えさせて頂きます!」
取るに足らない貧乏子爵家の令嬢だったわたくしを、こんなにも認めて下さるなんて!もう言葉も無く泣くことしか出来ない。
ああもう!エレクシア王妃様、一生ついていきますからね!
お読み頂きありがとうございました。
あああ、誤字報告が続々と!
見直しの為に数日に分けての投稿だったのに!
自分の迂闊さ無学さを嘆いております!
報告ありがとうございました!