50 私の怒りと魔方陣融合
私の襲撃で非常事態となったサハミ子爵らは、本宅で迎え撃つ作戦を取ったようだ。
だが、すでに戦闘員の大半は、あの世に行ってもらった。
まず、各部屋に残った人間をしらみ潰しに追い詰めた。
若い男女も子供もいたが、子爵の血縁者だろう。
高性能の「魔力ソナー」は、クローゼットの中も見逃しはしない。このスキルで帰ってくる波長が、先に足をもいだ子爵婦人と同じ波紋を描いている。
知らない波長のメイド4人は見逃したが、残りには容赦しなかった。
残りは執務室みたいな広い部屋に集まってる10人ほど。「魔力ソナー」は的確に男達の形状を伝えてくれる。
「ヤリステ、鬼の牙のリーダーは間違いなくいる。太った中年2人がダンガル商会長とサハミ子爵だ。あの波長は間違いない」
護衛役の冒険者と兵士も7人。
ドアには鍵がかかっていない。
罠だけど、黒光りする私は堂々と入った。
「死ねえ!」
左右から剣で斬りつけられた。受け止めもしなかったが、ヘラクレスガードで簡単に弾いた。
こいつらの退路をなくすことが先決だ。
斬られるのも無視して、入り口、窓にスパイダーネットを撃ちまくって、「狩り場」を作った。
「お、お前はなんだ」
7人の戦闘員に丸く囲まれて問われたとき、ヘラクレスガードを解いた。
裸だけど、構わない。
「アヤメ?」
「そうよ。アヤメよ、ヤリステ」
「何をしに来た」
「あんたと鬼の牙のリーダーを殺しに来た」
「リーダー、おっぱい女のアヤメが、こんなこと言ってるぞ」
「へっ。アヤメ、無能のお前に何ができる。新種の魔獣が乗り込んで来たって言うから慌てたぜ」
「さっきまで来てた服は魔道具か。何か手に入れたから強気なんだな」
「私のことはいい。ローズの仕返しをしに来たの。リーダー、ローズを卑怯な手で捕らえたのもあなたよね」
「あの女かよ。素直にやらせりゃいいのによ。足の腱を切っても抵抗するから、右足をずたずたにしてやった」
「それでも暴れてボクを殴ったんだぞ。あの女、ナイフで背中を刺しても逃げやがった。左の足も切って奴隷にしてやる!」
「殺す・・」
「貴様、我がサハミ子爵家に押し入った強盗だな。捕らえて、処刑台送りにしてやる。やれ!」
子爵の号令で兵士が斬りかかってきた。ヘラクレスガードを発動した。
ガキイイン!
「そんなことより、私は怒ってるの・・」
ぱきっ、ぺきっ、ベキッ。尻尾が伸びる。
私の中で一番強いメガスズメバチが、怒りのままに自分を使えと主張する。
めきめきめき。スキル顕現で初めて痛みを感じる。
ひときわ大きな魔方陣が浮かぶ感覚がある。
ポイズンニードルが形成されたのに、メガスズメバチは魔方陣の構築を終わらせてくれない。
得たばかりのハサミ虫にメガスズメバチが噛みついた。いや、魔方陣が取り込まれた。
完成しているはずの「ポイズンニードル」の魔方陣に、分解された「ロングテイル」の魔方陣が組み込まれた。
メガスズメバチが唱える。
『魔方陣転写』
歪な魔方陣が私の脳の中に打ち付けられる。
頭痛がする。だけど、メガスズメバチが魔方陣を解除するなと命令する。
従った。
『神ノ技能 魔方陣転写』の決まりを強引に逸脱させた新技。
ごきっ、ごきっ、ばきっ。
背骨が痛い。
ベキベキベキ。
新しい魔方陣が馴染ます、頭に激痛が走る。
だけど構わない。
「八つ裂き・・に・・シテヤル」




