46 倉庫の戦い
夕方6時。
日が傾き、もうすぐ薄暗くなりそうだ。
すでに晩御飯を済ませた人もいれば、酒場で労働後の一杯を楽しむ人もまだ多い時間帯。
平和なマイリの街の中に警笛が鳴った。
音色は魔物の侵入を示すものだ。
その魔物とは・・
「私だ!」
今、私ことアヤメは、悪名高いダンガル商会で人探しに取りかかる。
◆
「死んだふり作戦」のあと、街の近くまで戻った。新しいスキル、ハサミ虫からもらった「ロングテイル」と蟻からもらった「蟻マスク」を試用したあと、異形変身。
頭は新防御スキル「蟻マスク」で顔を変え、「ヘラクレスガード」「身体強化」「ビックアゴー」「下半身ポイズンニードル」「ヒレの羽根」を多重発動。
一旦、隠密スキルで身を隠し、ギルドの前で姿を現した。
住民はパニックになったが、剣を構えてギルドから出てくる猛者も5人いた。
そこで私は、ダンガル商会に乗り込む「魔獣」の気持ちになって、架空話を語ってみた。
「子供・・ダンガル・・ヤリステ、ナントカ子爵に、コロサレタ」
「は?ええ?」
「ヤツラノ匂い覚えテル。仇ウツ。ヤツラ殺す。お前達、手をダスナ!」
ギチギチギギギ、オオオオオオ!
吠えたあと、隠密三種セットを発動して姿を消した。
剣を構えていた冒険者達はへたりこんで呟いた。
「聞いたよな・・。この街の厄介者どもが、魔獣を呼び込んだぞ・・」
「あ、ああ、馬鹿商会とゲス貴族だな」
「ギルマスに報告だ・・」
私はダンガル商会に行って、門を蜘蛛の糸で乗り越え侵入したところだ。
「魔力ソナー」を発動。残念ながらヤリステと鬼の牙のリーダーがいない。
だけど、ザハンはいた。
ちょうど、用心棒、兼裏仕事要員の奴ら12人が、1辺30メートルの空き倉庫の一角で大声で話しをしていた。
「そんで、アヤメとかいう女を退けた訳よ」
「そうそう、ザハンさんの太刀筋に、女が全く付いてこれませんでしたからね」
「川に飛び降りられたのは、もったいなかったな」
私に勝った気になっていたザハンもいた。
「第2ラウンドのスタートよ」
倉庫の扉を閉め、スパイダーネットで固定した。
「何か言ったか・・うおっ」
「魔物か?」
「なんでこんなとこに」
今回は最初から異形変身全開。
尋問用にスパイダーネットで2人を拘束し、狩りのスタートだ。
10人の男が剣を構えて迎撃体勢を取っている。
お尻をメガスズメバチに切り替えた。
「両手から蜘蛛の糸」
しゅぱっ、しゅぱっ。
2人の男に飛ばした糸の片方は避けられたが、1人はキャッチ。一気に引き寄せて、ポイズンニードルでお迎えしてあげた。
ドシュッ!異形剣のこめかみ一撃だ。
次はお尻を女郎蜘蛛に切り替えた。多重変身、短時間切り替えで、気持ちが高揚する。
女郎蜘蛛、メガスズメバチ、熊、デンキ鯰、黒猫、クワガタが一斉に、自分の力を使って目の前の獲物を補食せよと叫んでいる。
トノサマホップで跳んだあと、女郎蜘蛛のお尻からから糸を天井に飛ばし、手から出した糸では男を捕まえた。
男には私と一緒に空中ブランコをしてもらい、十分に勢いがついたとこで高速単独飛行に挑戦してもらった。
私の中の「化け物達」が女郎蜘蛛を使いすぎだと騒ぎだす。
仕方がないので降りて、エレキガンで2人、スライム酸で3人、ポイズンニードルで2人を仕留めた。
「さ、ザハンがメインディッシュよ」
「な、なんで化け物が俺の名前を」
「いやね、忘れたの。アヤメよ。ちょっと前に、鬼の牙に崖から落とされたアヤメ。昼間も戦ったじゃない」
「え?アヤメ・・その姿は・・」
「あなた方に復讐するチャンスをもらったの。だから・・」
「ち、ちくしょう」
「地獄を味わってもらうために、異形の力を手に入れたの」




