椎名 賢也 97 迷宮都市 製麺店開店準備 1
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
まずは教会に向かい、シスターと相談する。
店の従業員として雇うため、炊き出しに並ぶ高齢で冒険者が出来ない人の身体的な状態を確認すると、沙良には何か考えがあるようで、その中でも足が不自由な人を5名と利き腕が不自由な人を5名を選んでほしいとお願いしていた。
松葉杖を買ったのは、足が不自由な人のためだったのか……。
その人達に炊き出し終了後、そのまま残ってくれるよう伝え、教会をあとにした。
日曜日。
炊き出しを終え、子供達にお土産のみかんを配り見送ってから、シスターに会いに行く。
昨日お願いした通り、シスターと一緒に10名の高齢者が集まっていた。
彼らは皆、冒険者をしていた筈なのに、体が不自由になりダンジョンで稼げなくなった所為でまともな食事をしていないため、痩せ衰ろえていた。
しかし、表情は穏やかで荒んでいる様子は見えない。
シスターは少女が経営する店の従業員だと考慮し、良い人達を厳選してくれたようだ。
沙良は彼らに視線を合わせ、一人一人の顔をじっと見つめて満足したように微笑むと、
「皆さんには、私の店の従業員になってほしいと思っています。これからその店に行くので、付いてきて下さい」
そう言って先日購入した店の方へと歩き出す。
シスターから予め話を聞いていたのか、10人の高齢者達は質問もせず後を付いて行った。
ただ皆一様に半信半疑といった感じで、お互いの顔を見合わせている。
身体欠損がある状態で出来る仕事は多くない。
今まで定職に就けなかった自分達が、果たして役に立つのかと疑問に思っているのだろう。
また店のオーナーが子供に見える沙良なのも、不安を煽る一因となっていそうだ。
店の前に到着すると、既に店舗がある事を知り、彼らの顔がほっとしたものになる。
沙良が先に店内へ入り、皆を席に座るよう促した。
全員が着席したのを確認してから、沙良は少し離れたテーブルで1人ずつ呼び面談を始める。
俺と旭は別のテーブル席に着き、その様子を見守った。
「先程、簡単に説明しましたが1ヶ月の給料は銀貨5枚(5万円)。2人部屋の住み込みで働く意思はありますか?」
「俺は片足で上手く歩けない。ここでやれる事はあるのか?」
「私は片手がありません。それでも仕事が出来ますか?」
沙良の言葉に、それでも不安そうな彼らは必ず質問していた。
「今回皆さんがする仕事は、2人1組で行う作業となりますから大丈夫ですよ。貴方でも、ちゃんと出来ます」
「本当に住み込みで働かせていただけるなら、頑張ります!」
「仕事は『うどん』の製造です。他に守ってほしい【約束事】が幾つかあるので、全員の意思確認が終わったら話しますね」
沙良は一人一人の質問に丁寧に答え、仕事内容を伝えながら、その不安を払拭させていった。
本当に自分でも役に立てそうだと分かった人から、表情が明るくなる。
2時間後。全員と面談を終えた頃には彼らの雰囲気も大分良くなり、店内には笑い声も上がっていた。
今回シスターが集めてくれた人達の年齢は、50代~60代。
その誰もが肉体に欠損を抱えており、片足や利き腕を失くしてしまった人達だ。
比較的、討伐が容易いゴブリンやモグラを倒して生活している。
迷宮都市の物価は高いので、換金額の低い魔物だけでは宿にも泊まれないだろう。
毎日食事を取る事も難しく、教会の炊き出しで食い繋いでいるような日々だ。
そんな彼らにしてみれば、沙良の提案は正に天からの贈り物といったところか……。
「さて皆さん。全員が働く事に同意されたので、これから店内の掃除をしていきます」
早速、沙良が彼らに出来る仕事を与え、足が不自由な人達に松葉杖を渡し、使用方法を実践してみせる。
異世界に松葉杖はないようで、初めて使った彼らは動きやすいと喜んでいた。
その後、店内にあるテーブルと椅子を一旦アイテムBOXに収納した沙良が桶を5個出す。
俺達が、その桶にウォーターボールで水を出し、ファイヤーボールでお湯にするのを見た彼らは一瞬固まった。
あぁ、魔法を使ったので貴族出身だと思われたのか?
それとも魔物を倒す時以外には、普通魔法を簡単に使用しないのだろうか?
子供達や肉うどん店の母親達の前で使った時は、大した反応を見せなかったんだが……。
準備が出来たので沙良が皆に手拭いを配り、店内と従業員部屋の掃除を開始した。
掃除が済んだら、店の裏庭で薄汚れている彼らに体を洗ってもらう。
5個の盥に少し熱めのお湯を張り、新しい着替えと石鹸を渡して沙良は店内に戻った。
俺と旭はシャワー係として残り、全員が洗い終わるまで手伝う。
何日も体を洗っていなかった彼らが石鹸を付けた手拭いで体を擦ると、お湯が見る見る内に汚れて透明じゃなくなる。
脂ぎった髪の毛は、何回も洗う事ですっきりしたようだ。
さっぱりとした彼らを連れて店内に入ると、沙良が昼食を作ってくれたのか良い匂いがした。
従業員達は、その匂いにごくりと喉を鳴らして腹を押さえている。
教会の炊き出しで出されるスープは、入っている具が少なく殆ど水分のため皆お腹が空いているんだろう。
「お昼は肉うどんですよ~。もう少し待って下さいね!」
「噂の肉うどん!? 俺達もやっと食べられるな!!」
沙良が言ったメニューを聞いて、爪に火を灯す生活をしていた彼らが喜色満面の笑みを浮かべる。
鉄貨7枚(700円)で売られている肉うどんを食べるのは、初めてらしい。
再び店内に設置されたテーブル席にいそいそと座り、出てくるのをそわそわと待っている。
沙良が肉うどんを運んでくると、フォークを手に取り急いで食べ出した。
「話には聞いていたが、こりゃ美味い! 何の味付けだか分からないが、肉が甘辛くていいな!」
「この白くて長い物がうどんなのか? 少し食べ難いが、もちもちした食感がいい」
口々にお互いの感想を言いながら、ずるずるとうどんを口に運ぶ。
肉うどんは彼らの口に合ったようで、凄い勢いでなくなっていった。
「このうどんを、これから貴方達に打ってもらいます」
皆の食べっぷりを見て気を良くした沙良が、にっこり笑って言い放つと、聞いた彼らが唖然となる。
どうやら、製麺する麺とうどんが一緒だと思い当たらなかったらしい。
先程まで笑顔を見せていたのに、暗い表情になり「俺達で大丈夫なのか?」とひそひそ会話を始めた。
「うどんの作り方は、私がしっかり教えるから問題ないですよ! それより皆さんは、これから話す約束事をしっかり守って下さいね」
それから沙良は子供達にした内容の約束事を延々と話し続け、不安な様子の彼らを黙らせた。
毎日していれば自然と慣れていくだろうが、最初は少し面倒だと思うものもある。
だが、それが従業員として最低限必要だと言われれば、しないわけにはいかない。
一瞬で顔を引き締め、皆は真剣な面持ちで話を聞き出した。
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