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椎名 賢也 87 迷宮都市 地下11階 ポーションの効果&魔道具の置時計

誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。

 金曜日。

 冒険者ギルドで換金を済ませてホームに戻り、旭と近所の居酒屋へ行った。

 

「お疲れ様~!」


 生ビールで乾杯して、それぞれ注文した料理に(はし)を付ける。

 軟骨の唐揚げは、このコリコリした食感がいいんだよな~。

 ダンジョン内での夕食を、冒険者と一緒に安全地帯で食べるようになってから、俺は少々辟易(へきえき)としていた。

 3食の内2食は異世界のパンを食べずに済んでいるが、それでも毎日あの堅いパンが出てくるのは勘弁してほしい。

 そう思い、不満気な様子を見せない旭に聞いてみた。


「旭。お前は異世界のパンを食べる事に抵抗はないのか?」


「うん、平気だよ。ちゃんとパンの味がするし、多少堅くても何度も()めば問題ないでしょ?」


 パンを食べてそれ以外の味がしたら、それは最早(もはや)パンじゃない気がするが……。

 堅さやぼそぼそした食感より、味重視なのか?

 日本の美味しいパンを食べ慣れている俺には、理解出来ない感覚だな。


「毎日、同じメニューで飽きないか?」


 それじゃあと、代わり映えしない献立の内容について言及する。


「スープとステーキの事? 魔物肉が、こんなに美味しいなんて驚きだよね~」


 こいつは、妹が作った料理なら毎日同じでも大丈夫らしい。

 だが、俺は5日間も同じ夕食だと飽きるんだよ!

 カレーだって2日が限界だ。

 旭に共感してもらえないと分かり、がっかりする。

 きっと沙良は同意してくれると信じてるぞ!

 それにしても旭が何とも思わないのは、やはり母親の料理が今一な所為(せい)か……。

 あぁ、子供の頃に旭の家で食べた極甘チョコレート味のカレーを思い出してしまった。

 一体、何枚板チョコを入れたらあの味になるんだろう?

 

「それより、あれからエンダさんのパーティーに動きがないのが気になる」


 おや? 警戒対象の相手を気にするとは、沙良に危険が及ぶのを心配しているのか。


(しばら)くは、新しいクランの立ち上げで忙しいんだろう。接触してくる気配はなさそうだし、俺達が注意してれば何も起きないさ」


「う~ん、朝の稽古を増やそうかな?」


 それでも旭は、鍛錬を欠かさないようにするみたいだ。


「増やすのはいいが、毎日続けられる程度にしておけよ」


 いざという時、動けないようじゃ困るから旭が型稽古に(はげ)むのは賛同しておこう。


 ほろ酔い気分で自宅に帰ると、俺達が帰宅した事に気付いた沙良から大量のシチュー箱を渡された。

 トレーから外してほしいと言われ、ご機嫌な旭が簡単に請け負う。

 いや、100箱くらいあるんだが……。

 その夜。2人で眠たい目を(こす)りながら、シチューをトレーから外す作業を黙々と行った。

 これで、ほんのりコンソメ味の塩味スープから、牛乳なしのシチューに代わるんだろうか?


 土曜日。

 ジムに出掛けたあとでポーションの効果を検証しようと、旭に提案してみる。


「えっ、それって俺達が怪我をする必要があるんだよね?」


 話を聞いた旭に、とても嫌そうな顔で質問され俺は首を横に振った。


「痛い思いをするのは俺もごめんだ。魔物で試してみよう」


「今日、これからダンジョンに行くの?」


「あぁ、沙良に言って異世界へ送ってもらう心算(つもり)だ」


「沙良ちゃん、変に思うんじゃない?」


「理由は考えてある」


 そう言うと、旭は不思議そうな顔で(うなず)いた。

 

 服を着替えてから、掃除と洗濯を済ませ家でのんびり過ごしている沙良に声を掛ける。


「沙良。悪いが、これから異世界に移転してくれないか? 旭が魔道具を見たいと言うから、2人で行きたいんだ」


「魔道具屋に行くの? ふ~ん、病気には気を付けてね」


「……あ~、病気になるような事はしない」


 妹から要らぬ気を使われてしまった。

 俺達を何だと思っているんだ? 若くなったからといって、節操なく女性に走るわけじゃないぞ?

 勘違いされた旭はショックを受けていたようだが、別行動したいと言えば沙良がそう考えるのも無理ないか……。

 一応、笑顔で異世界に送ってくれたので気にせずダンジョンへ向かおう。

 冒険者ギルド前で3時間後に待ち合わせするので、あまり時間もないしな。


 乗合馬車の中で革鎧を身に着け、旭に入場料を払ってもらいダンジョンへ入る。

 ポーションの効果を試すなら、2足歩行の人型魔物がいいだろうとリザードマンを標的にした。

 意識のある状態で実験するのは難しいため、最初にドレインを掛け昏倒させておく。

 

「旭、肩を外してくれないか?」


「は~い」


 整復とは逆の作業だが、人体に詳しい俺達には難しい事でもない。

 ゴキッという音がしてリザードマンの肩が外れる。

 そこに先ずはポーションを掛けてみたが、特に変化はないようだ。

 次にハイポーションを掛けてみる。これも変化がない。

 最後にエクスポーションを掛けると、骨の位置が戻った!

 脱臼(だっきゅう)程度なら、エクスポーションで元に戻るらしい。

 骨折はどうだ?

 リザードマンの指を折り、骨折させて同じ作業を繰り返す。

 これもエクスポーションで治った。

 もう少し太い骨の場合も試しておこうと、足の骨を折る。

 その結果、解放骨折じゃなければ完治する事が分かった。

 解放骨折の場合、骨は修復されたが傷口はそのままだった。

 これはエリクサーじゃないと無理なのか?

 実験を重ねたがポーションの効果はまだ謎が多い。

 沙良が1人の時に重傷を負ったら、エリクサーがなければ安心出来ないな。

 貴族しか買えないエリクサーは、沙良が公爵令嬢だと明かせば購入出来るが、居場所がバレるリスクを伴うため現状では入手不可能だった。


 ダンジョンを出てから、アリバイ作りをしに魔道具屋へ寄る。

 ここにはマジックバッグを購入する時しか行かないので、陳列された商品を旭がもの珍しそうに見ていた。

 お馴染みの魔道調理器や、魔石をセットすると水が湧く水筒の隣に、置時計を見つける。

 庶民は教会の鐘の音で時間を把握するが、金を持っている人間は時計を買うのか……。

 腕時計は作製する技術がないのか置いてなかった。

 他にも風を送る扇風機のような物があった。まぁ、家電のほうが性能はいいだろう。

 あまり興味を引く物はないなと思いながら、陳列棚をスルーしていると旭が棒のような物を手に持っている。


「賢也! これ、動くよ!」


 見ると棒が振動している。まさか、これは……。

 もしや、異世界に転生した人物が作った魔道具じゃないか?


「それを購入するのはやめておけ。沙良に見せるなら、置時計のほうがいい」


「だよね~。この花柄模様の置時計にする」


 旭は笑って商品を戻し、金貨10枚(1千万円)する置時計を土産に買った。

 置時計といっても50cmくらいある大きな物だ。

 繊細な細工が(ほどこ)され、小さな宝石がいくつか花の中心に飾られている。

 これは時計としての機能より、装飾品としての価値があるんだろう。

 でなければ金貨10枚は高すぎる!

 旭は毎週リースナーのダンジョンで狩った魔物を換金しているから、金貨10枚支払うくらい痛くないのかも知れないが……。

 俺は、もっと実用的な物がほしい。


 待ち合わせ場所に沙良が迎えにきてホームへ帰ると、妹が早速(さっそく)今日の成果を聞いてきた。


「楽しかった~? 綺麗な人はいたかしら?」


 どうにも、そこから考えは変わらないらしい。


「もう! 沙良ちゃん、そんなお店には行ってないよ! これ、魔道具屋で買ったプレゼント」


 旭が大声で否定しながら、土産に購入した置時計を沙良に渡す。


「えっ!? 私にくれるの? ありがとう、綺麗だね~」


 予想外のプレゼントを貰った沙良は、嬉しそうに置時計を受け取りリビングにある棚へ飾った。

 夜になると、その置時計は光が出てミラーボールのように壁に反射して時間を知らせるという、無駄に高性能だった事が判明する。

 魔道具は奥が深い……。

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読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。

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これからもよろしくお願いします。

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