椎名 賢也 78 迷宮都市 『ダンクの決断 2』
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
翌日の朝。彼らに会いに行くと、テントはなくなっていた。
ダンジョン攻略を中止し、地上に帰還してしまったらしい。
予想以上に相手を怒らせたようで、困った事態になったと頭が痛くなる。
このまま3人がダンジョン攻略をしなくなれば、治療を当てにしていた冒険者達が、その理由を突き止めるのも時間の問題だ。
リリーがした事がバレたら、彼女は冒険者達から責められるだろう。
こうなったら、何としても相手に謝罪を受け入れてもらうしかない。
金曜日まで彼らがダンジョンに現れるのを待ったが、結局姿を見せる事はなかった。
冒険者達は3人が居ないのを知り、不思議そうにしていた。
今はまだ、原因を追究しようと思っていないだろう。
しかし、来週の月曜日になっても来なければ……。
俺は未だ意気消沈しているリリーの肩を叩き、メンバーに地上へ帰還すると伝えた。
地下9階の配送担当者のクランメンバーへ、俺達の代わりに地下11階までの配送を頼み、ダンジョンを出ると3人組を探す。
宿泊先が分からず、リーダーのサラちゃんが経営している肉うどん店に寄ったが、従業員も知らないらしい。
日曜日は教会の炊き出しをしていると聞いたので、出直す事にした。
2日後の日曜日。
炊き出しの時間に合わせて教会に行ったが3人の姿は見えず、肉うどん店の従業員だけがいた。
不在の理由を尋ねると、彼女達からキツイ眼差しを受けた。
そのうちの一人が、重い口を開き理由を説明する。
どうやら、治癒術師を勧誘しようとして怪我を負い、接触を図ろうとした事に怒り、ダンジョン攻略を中止しているそうだ。
懸念していた最悪の状態を知り、リリーは俯いてしまう。
こうなるともう、俺達に出来る事は何もない。
彼らの怒りが収まるまで待つしかないだろう。
翌日。ダンジョンに戻り、俺達はひたすら地下10階を拠点にしている冒険者達に頭を下げて回った。
サラちゃん達がいない理由を話し、原因を作った事を詫びたのだ。
その際、リリーはクランリーダーに命令されて逆らえなかったと擁護したが、冒険者達の視線は冷たかった。
今回の件で、俺はクランを抜ける決断を下した。
もうこれ以上、クランリーダーを信用出来ない。メンバーにも話して納得させた。
他のクランに移るかどうかは少し考えよう。
俺の予想通りなら、他にもクランを抜ける冒険者が出てくる筈だ。
俺達のパーティーがクランから抜けた事を知った冒険者達が、ちらほらと脱退し始めた頃、クランリーダーのラグナさんが会いに来た。
「ダンク、久し振りだな。クランを抜けたいなんてどういうことだ? ちゃんと稼がせているだろう? 他にも何人か抜けたいと言われ困ってる。どうにか説得してくれないか」
平然と言われ、俺は怒りを抑えながら返事をする。
「あ~、ラグナさん下手を打ったな。気持ちは分からないでもないが、ありゃどうにもならないよ。なんでもっと穏便に勧誘しなかったんだ。態と怪我をし治癒術師に治療させるなんて、俺も庇いきれない。うちのパーティーメンバーを、なんだと思ってるんだ? 悪いが、もうクランに戻る心算はない」
そう言いきって睨み付けた。
「なんでだ! 金を払ったら直ぐに治療してもらえたんだろう!?」
ふざけるな! その所為でリリーはしなくてもいい怪我を負い痛い思いをした挙句、冒険者達からは白い目で見られてるんだぞ!!
「あんた何勘違いしてるんだ? 治療するのは、あいつらの善意からきてるんだよ。金が欲しくて治療している訳じゃない。サラちゃんは、俺らが払った治療費で孤児になった子供のため家を16軒買ったんだ。ギルドで確認したら金貨190枚(1億9千万円)だとよ。ここにいる全員が、今じゃあんたのクランへ入りたいやつなんかいない。俺らが見て見ぬふりし続けた現状を、迷宮都市に来てたった3ヶ月の少女が肩代わりしてくれたんだ。味方は誰もいないと思った方がいい。俺も3軒の家持ちだ。30人の子供達が、お姉ちゃんに会いたいと騒ぐからな。それに『光輪の刃』の記章をしてると露店じゃ何も買えないし、道具屋で購入するのも無理だ。『肉うどん』も食えない」
何も理解していない彼に、俺は『光輪の刃』の現状を話し背を向けた。
精々、自分のしでかした事を後悔すればいい。
サラちゃん達がダンジョンから姿を消した1ヶ月後、『光輪の刃』はメンバーが次々と抜け崩壊した。
その事でサラちゃんは冒険者達から「クランクラッシャー」と渾名され、恐れられる存在となる。
迷惑を掛けるだけじゃなく、変な渾名まで付けられた彼女には申し訳ない。
本人の耳に入らない事を願うばかりだ。
クラン解散後、久し振りにダンジョン攻略を開始したサラちゃんに、俺は誠心誠意謝罪し許してもらった。
彼女への借りを、いつか返そう。
まだ少女のようなサラちゃんを見て、元クランリーダーのように侮る冒険者がいるかも知れない。
その時は俺が防波堤になって彼女を守る決意をした。
まぁ、俺以外にもアマンダが目を光らせていそうだけどな。
それにサラちゃんが兄と呼んでいる彼は、妹が理不尽な目に遭う事を良しとしないだろう。
いつも油断なく周囲を観察しているようだし、仲間のナオト君はサラちゃんを好きみたいだ。
無口な兄とは違い、治癒術師として人気のある彼を怒らせる真似は出来まい。
どこのクランにも所属していない彼らだが、冒険者全員を味方に付けていると言ってもいい。
何事もなければ、3人は最速で最終攻略層へ進むに違いない。
クラン崩壊後、元『光輪の刃』だったメンバーを集めて、俺は新しいクラン『希望の盾』を立ち上げた。
クランリーダーになった俺は、彼女達の攻略速度に合わせ階層を移動しようと考えている。
地下10階を攻略している現在メンバーは60人だが、攻略階層が下がる度に増やす事が出来るだろう。
両親達が攻略していた地下19階に行くのも、そう遠くはない。
俺がクランリーダーになった事を話せないのが残念だ。
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