椎名 賢也 75 迷宮都市 子供達の家 2
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
子供達が家で生活出来るように準備を整えたら、最後に治療した冒険者が所属するリーダーの表札を付けた。
「アマンダの家」・「ケリーの家」・「シーナの家」・「リットの家」・「ハンナの家」・「フリードの家」。
ミリオネやリースナーの町と同じように、自分の名前が付いた家に住んでいる子供達の支援をしてくれるだろう。
日曜日。炊き出しの準備に来た母親達に、沙良が子供達の家を6軒購入した事を説明した。
炊き出しに並ぶ子供達を案じていた母親達は、その話を聞き安堵した表情を浮かべる。
沙良が母親達に肉うどん店の裏庭を借りたい事や、家まで案内して食事の作り方を教えてほしいとお願いすると、快く引き受けてもらえた。
集まってきた子供達には年齢が低い順に並んでもらい、その中で60人に食後も残ってくれるよう伝える。
食事を終えた子供達が帰るのを見送り、残った子供達の様子を見ると、皆「何だろうね~」と不思議そうな顔で話し合っていた。
沙良が「これから大事な話をします」と言って、子供達の注意を惹き付ける。
すると途端に不安が押し寄せてきたのか、子供達の表情が曇った。
「大切な話だから、よく聞いてね。皆の家を購入したので今から住む家へ行く前に、お姉ちゃんと色々約束してほしい事があるの。皆は約束出来るかな?」
「えっ? 僕たち今日から、お家に住めるの!?」
沙良の言葉に5歳くらいの男の子が驚きの声を上げる。
他の子供達は、にわかには信じられないらしく困惑しているようだ。
「そうだよ。でも、お姉ちゃんと約束しないと住めないよ」
沙良が腰を屈めて男の子に視線を合わせ、安心させるように優しく話している。
「僕、約束ちゃんと守れるよ!」
大きな声で返事をする子供が可愛いらしい。
「本当に大丈夫かな? 大変だよ~」
「大丈夫だよ。僕お姉ちゃんとした約束守って、交換する巾着忘れた事ないもん!」
「そっか~、偉いね! 今から沢山の約束事を話すけど、もし忘れちゃったら大きいお兄ちゃんや、お姉ちゃんに聞くんだよ」
「うん、分かった!」
「じゃあ、一つ目はね…………」
家に住むための約束事をゆっくり話し出す沙良の言葉に、60人全員がじっと耳を傾けていた。
家の中に入る時は靴を脱ぐ事という説明には、首を傾げていた子供達もいたようだが……。
沙良が最後に「約束事を守れたら、美味しい料理を作るね」と言うと、皆は真剣な顔で頷いていた。
それから子供達を肉うどん店へ連れていき、盥を出してお湯を張る。
母親達に手伝ってもらい、汚れた子供達を順番に洗う。
体を洗ったあとで綺麗な古着を着せると、クスクスと笑い声が聞こえてきた。
さっぱりして気持ちがいいんだろう。
異世界では、大量のお湯で体を洗う習慣がない。
蛇口をひねれば、調節した温度で湯が出てくる環境に慣れている俺達には信じ難いが……。
共同の井戸から水を汲み、お湯を沸かすためには薪が必要になる。
貴族や金を持っている商人でもなければ、水に濡らした手拭いで体を拭くのが精々だろう。
今迄着ていた服の洗濯の仕方を教え、10人の子供を引き連れ家に案内した。
残り50人は、母親達に1人で10人ずつ引率してもらった。
自分達の住む家を見た子供達は、飛び上がらんばかりに喜び手を叩き、はしゃいで見せる。
「お姉ちゃん。お家を買ってくれてありがとう! 僕達、約束事を守って毎日綺麗に掃除するね!」
そして満面の笑みを浮かべ、元気良くお礼を言う。
本当に嬉しそうで、その様子を見て心が温かくなった。
沙良が家の中に案内すると、年長者が年少者の靴を脱がせて足を拭いている。
早速、約束した事を実践出来ているな。うん、偉いぞ!
年上の子が下の子の面倒を見られるよう、年齢をバラバラにしたのが良かったようだ。
家の中に布団や食器、服や下着等が置かれている事に気付いた子供が泣き出す場面もあったが、大成功だろう。涙脆い旭は、目を赤くしていた。
肉うどん店に戻って母親達の話を聞くと、どの家の子供達も喜んでくれたらしい。
これから洗濯をすると言い、張り切っていたそうだ。
夕方、沙良が料理を教えに行く前、オーク肉の串焼きを土産に購入した。
1ヶ月後。路上生活をしていた子供達全員の家が購入出来た。
収入のない子供達には、まだ教会での炊き出しが必要だろう。
一緒の家に住んでから、年長者が年少者の手を繋いで教会へ来るようになった。
小さな子が兄や姉を慕う姿が微笑ましく映る。
そんな頃、ダンジョンから帰還したアマンダさんに、自分の名前が付いた表札の家があるとバレて、「外してくれ」と言われたが、沙良は「子供達の家の名前だから無理です」と突っぱねていた。
こうなるともう、他の冒険者に知れ渡るのは時間の問題だな。
自分の名前が付いた家が3軒あると知ったリーダーは、
「お前ら怪我をしすぎだ! 恥ずかしいだろ!」
怒りながらも気になるのか、子供達の様子を見に行く。
パーティーメンバーから、冒険者登録に必要な銀貨1枚(1万円)を貰った子供は冒険者になり、鉄貨3枚(300円)の馬糞掃除や汚物の回収依頼を率先して受けているようだ。
男性冒険者は肉を食えと言い、子供達に串焼きを奢っている。
女性冒険者は食材を持参し家へ料理を作りに行ってるらしく、子供達より野菜の皮剥きが下手だったと、料理担当者じゃないアマンダさんがへこんでいた。
確実に支援の輪が広がり始めた事で、最近妹の機嫌がいい。
炊き出しの日。
「お姉ちゃん見て! 僕もうE級になったんだよ!」
F級からE級に上がった子供が、沙良に冒険者カードを見せに来る。
「わぁ、凄く頑張ったね! 今度アマンダさんにも、ちゃんと報告しようね」
「うん、分かった~」
アマンダさんは後日、昇格したお祝いに解体ナイフ・槍・革鎧をプレゼントしてくれたようだ。
迷宮都市の近くには森がないため、E級の常設依頼は4種類となっている。
【常設依頼 E級】
ゴブリン1匹 鉄貨5枚(魔石・左耳必要)
スライム1匹 鉄貨1枚(魔石)
モグラの討伐1匹 銅貨1枚(魔石・本体必要)
ドブネズミの討伐1匹 鉄貨3枚(魔石)
槍を使用した討伐の仕方を、アマンダさんのパーティーメンバーの槍士のケンさんが教えてくれたらしく、ケンさんが休みの日に一緒に討伐へ行くそうだ。
沙良は、そんな子供達の報告をニコニコ聞いている。
聞いた内容は、その子供達の家の名前になっているリーダーへ忘れず伝えていた。
よく子供達の名前と顔が一致するな。Lvが上がって記憶力が高くなったのか?
俺には到底真似できないと思い旭に聞いてみると、「家の名前は全て覚えているけど、誰がどの家の子なのかは分からないよ~」という返事が返ってきた。
「沙良ちゃんは、子供達にモテモテだからね」
そういう問題じゃない気がするが……。
子供達は無口な俺と、あまり接触しないからだろうと無理矢理納得した。
賢さでいえば、絶対に俺の方が上だよな?
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