第869話 シュウゲン 50 沙良の偽装結婚式 3 ケスラーの民とイフリート
※椎名 賢也 87 迷宮都市 地下11階 ポーションの効果&魔道具の置時計をUPしました。
興味がある方は読んで下さると嬉しいです。
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
足場を確保するため、倒した敵の亡骸を冒険者達がマジックバッグに入れていく。
この凄惨な現場を見せないように、エルフの女性達は沙良を囲んでいるようだ。
儂らが警戒を緩めず油断なく身構えていると、沙良の従魔達が不意に上空を仰いだ。
第二弾が来たのかと思い、孫娘の様子を窺う。
沙良は迷宮都市の門がある方角に視線を向け、張り詰めた表情をしていた。
マッピング能力を使用し、敵の動きを注視しているのだろう。
これからやってくるだろう敵は、騎獣に乗っているかも知れんな。
しかし数分経っても上空に敵の姿が現れない。
暫くすると、沙良が肩の力を抜き安堵したような笑みを浮かべる。
もしや、1人で襲撃者を撃退したのか?
儂の予想では、Lv100を超えている沙良が使用可能なマッピング範囲は100kmだ。
その範囲内に魔法を使えるのであれば、迷宮都市へ入る前に敵を倒す事が出来るに違いない。
これが戦なら、沙良がいるだけで戦況が一変する能力だな。
どれくらいの襲撃人数があったのかは不明だが、第二弾の敵は現れぬと分かり僅かに緊張を緩めた。
しかし、それで終わりではなかったようで、かなりの早さで上空を飛翔する者達がこちらに近付いてくるのが見える。
数は10騎と少ないが、これが本命だと直感した。
姿が視認可能な距離になると、見た事もない魔物にヒルダちゃんが声を上げる。
「あれは何ですか!?」
「姫様、少々厄介な事態になりそうだの。あれは麒麟という聖獣で、騎乗しているのは帝国人ではなかろう」
ガーグ老が答えた言葉に困惑した。
聖獣の麒麟を使役する帝国人ではない者達が何故ここに?
彼らは家の真上まで来ると、ゆっくりと降下して庭に降り立った。
明らかにカルドサリ王国人とは違う民族だと分かる衣装を身に付け、その容貌は奇怪だった。
顔に複雑な刺青を施し赤銅色の肌をした男性達が、麒麟の背から降りてガーグ老に近付いていく。
「翁よ。私怨は一切ないが、花嫁を渡して頂こう」
開口一番、花嫁を渡せと言われたガーグ老は気色ばみ、ヒルダちゃんの姿を隠すよう前に出る。
「お主はケスラーの民であろう。何故、アシュカナ帝国側に付いておる」
「妹を攫われた。帝国の王が9番目の妻にしたい人物を連れてきたら、開放すると約束したのでな」
どうやらアシュカナ帝国に家族を人質に取られたらしい。
同情するが、そんな事情はこちらに無関係だ。
当然、ヒルダちゃんも声を荒らげ彼の提案を強く拒絶した。
それでも妹を助けたい交渉役の彼は両膝を突き、「どうか私と一緒に来てほしい」と願う。
事情を隠さず話し、暴力ではなく言葉でどうにかしようとする姿勢に、彼の一本気な性格が垣間見えた。
儂はアシュカナ帝国の王に思うとこがあるので、目的が一緒なら共闘するのはやぶさかではない。
儂1人ならカルドサリ王国を離れたとしても問題ないじゃろうと、協力を申し出ようとしたところで、説得は叶わぬと諦めた交渉役の彼がヒルダちゃんを拘束してしまった。
「儂の花嫁を強引に連れ去る心算か!」
ガーグ老が激高して双剣を身構える。
事の成り行きを見守っていた冒険者達も、戦闘の気配を感じたのか武器を手に取りだした。
戦闘民族と呼ばれるケスラーの民の実力は、ここにいる冒険者達のLvを数段上回る。
たとえ1人を相手に数十名で戦っても、勝つ事は敵わぬだろう。
出来れば無駄な血を流したくはないが、ヒルダちゃんを奪われるわけにはいかぬ。
護衛のガーグ老達も引かぬであろう。
セイは敵意を漲らせ、茜は高揚したかのようにやる気に満ちている。
下手な同情は隙を生む。
儂も全力で掛からねばと思いを新たにしていたら、突然ヒルダちゃんが解放された。
「花嫁衣装を着ているから、そなたが対象の人物だと思っていたが……。王が望んでいるのは10代の少女であった」
しまった! 沙良の年齢を把握されていたのか!!
ヒルダちゃんが身代わりだと気付かれ、ガーグ老が舌打ちして「ゼン!」長男の名前を呼んだ瞬間、黒装束に身を包んだ40人以上の者達が突如として庭に現れた。
彼らは普段、姿を隠してヒルダちゃんを護衛している人物だろう。
これほど人数が多いとは思わず驚いた。
沙良が危険だと判断した武闘派の家族が、ゆっくりと移動を始める。
「そこか! 火の精霊よ、隠された者を炙りだせ!」
しかし、その動きを察知されケスラーの民に居場所がバレてしまった。
火の精霊を信仰している民であったのか……。
その場に呼ばれたのは、全身を炎に包まれたイフリートだった。
イフリートを見るのは3回目じゃな。
縁のない火の精霊だが、火の精霊王から守護を受けた儂の頼みなら聞いてくれるだろう。
幸いドワーフの古語を習得したので、精霊と意思の疎通も図れるしな。
あの勉強は無駄になるかと思っていたが、意外なところで役立ちそうだ。
イフリートに声を掛けようと近付くと、後退りされ顔を背けられた。
うん? 何だ、その態度は。
正面に移動したが、頑なに視線を合わせようとせん。
よく見れば、その肩が小刻みに震えておった。
『そりゃ無理だ。6人の精霊王の加護を受けている人物の結界は破れない』
儂の存在を無視して、自分を呼び出したケスラーの民にイフリートは答える。
『はっ? 6人の精霊王の加護だと!? そんな話は聞いてないぞ!』
『お前が連れ去ろうとしている人物は巫女姫だ。諦めろ』
そう言って、儂を視界に入れたくないかのように目を伏せる。
儂はイフリートに嫌われておるのかの? そう邪険にするでないわ。
だが儂が頼むまでもなく、沙良の安全は守られたようじゃ。
あの額飾りの宝石には6人の精霊王の加護があるらしい。
そして沙良を巫女姫だと言い切った。
沙良が憑依した体の持ち主は巫女姫だったのか……。
イフリートは最後に沙良へ投げキッスをして、現れた時と同じように忽然と姿を消した。
「大変失礼致しました。私は、事情を把握していなかったようです。こうなったら、一族総出で妹を救出に向かう他ありません。ご迷惑をおかけし申し訳ありませんでした」
イフリートの言葉を聞いたケスラーの民は、これまでの態度を一変させ低姿勢になり、儂らに向かって深々と頭を下げる。
この世界で至高の存在と言われる巫女姫を誘拐しようとした事を、大いに反省しているようだ。
もし誘拐したのが発覚すれば、ケスラーの民は巫女姫を守護している獣人達に蹂躙されるであろう。
おや? また知らぬ記憶が戻ったな……、儂は巫女姫と何か関係があったのか?
「あ~、代わりに俺を連れて行くといい。ちょっと、こちらの事情もあるしな」
儂が思案している間に、ヒルダちゃんがケスラーの民へ付いていくと言い出した。
「いや、別人を連れて行くわけには……」
「初見じゃ分からないだろう。問題ねぇよ」
ヒルダちゃんの口調が、完全に樹君に戻っておるな。
やれやれ、美人な姿とのギャップが激しいわい。
「ちょっくら、アシュカナ帝国に行ってくる。響、お前も来るよな?」
「はぁ……仕方ない。一緒に行こう」
あれよあれよという間に話がまとまり、ヒルダちゃんと響君は呆気に取られる儂らの前で麒麟に騎乗し空高く浮上していった。
「こりゃいかん。姫様が暴走された。ゼン、サラ……ちゃんを頼むぞ!」
「はっ! ご武運を!」
そのあとをガーグ老達がガルムに乗って追い掛けていく。
儂も一緒に行きたかったが、ガーグ老が不在になってしまっては沙良の事が心配だ。
孫娘が巫女姫と知っているなら、アシュカナ帝国の王は絶対に諦めまい。
普段は姿を隠し護衛している者達は残っているが、響君の代わりに儂が目を光らせておこう。
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