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第884話 シュウゲン 65 家族の前世 2&シャーリーンとの再会

※椎名 賢也 102 迷宮都市 地下12階 宝くじの購入&チーズ発見をUPしました。

 誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。

「父さん? 部屋に入らないのか?」


 (かなで)の前世を知り扉を開けたまま固まっていた我は、声を掛けられはっとする。

 いかんいかん、ガゼインは記憶が戻っていないのだ。

 我を父親だと思っているから、態度に気をつけねばならん。


「あぁ、まだ起きていたのか。風呂に入ってくるから、先に寝ておれ」


「……じゃあ、もう寝るよ」


 奏は用事もなく部屋に入って来た我を不思議そうな顔で見ながら、特に言及もせず背を向けた。

 明日は、まだ会っていない家族の種族が分かるだろう。

 また知り合いがいるかも知れない。あまり驚かないようにしなければ……。


 月曜日。

 ダンジョンに向かう家族が美佐子(みさこ)の家に集合する。

 先に来た沙良達の中で、賢也(けんや)からは獅子族(それも獣王と第二王妃の血縁関係)、尚人(なおと)君からはフェンリル、(あかね)の夫の早崎君からは獣人国の武術大会で出会った白頭鷲(はくとうわし)の気配がする。

 後から来た結花(ゆか)さんはフェンリルの女王、雫ちゃんはフェンリル(フェンリル女王の血縁)の気配がした。

 結花さんを見て、尚人君も血縁関係である事が分かる。

 どうやら旭家はフェンリル一家のようだな。

 しかし、ヒルダちゃんはフェンリルの女王を妻にしたのか……。

 巫女姫とフェンリルの(つな)がりが今一分からぬが、何かしら縁があるのだろう。

 結花さんがフェンリルの女王なら、味音痴(おんち)なのも納得がいく。

 竜族同様にフェンリルも魔力を糧に生きる種族だからな。

 女王である分、その特性が転生しても強く残ったのだろう。


 シーリーを抱いた沙良が我に預けようとしたところで、


「沙良、悪いが今日は異世界で用があるから一緒に行かせてくれ」


 可愛い子供を受け取りながら、お願いした。

 

『お父さん、おはよう』


『シーリー、今まで気付いてやれず済まなかったな。少し記憶を失っていたのだ。これから母親に会いに行こう』


『本当? 今日はダンジョンを攻略する日なのに会えるの?』


『あぁ風竜王の我は、この世界で一番早く飛べるのだ。母親が何処(どこ)にいようとも、数時間で会えるぞ?』


 記憶を取り戻し、シーリーとの念話が通じるようになったおかげで会話が可能になった。

 その事がとても嬉しく笑み崩れていると、


「じゃあ、帰りは夜9時に家に居て下さいね」


 沙良は迎えに来る時間を告げ、ホームから異世界の家の庭へ移転した。

 このままダンジョンへ向かうメンバーと、ガーグ老の工房へ移動するヒルダちゃんを見送り、竜気を放って同族の気配を探る。

 すると迷宮都市内に光竜王の気と、聖竜の気を感じて愕然(がくぜん)となった。

 てっきり竜族の()()である竜谷(りゅうこく)まで探しに行く必要があると思っていたのに、カルドサリ王国に居るとは何とした事だ?

 しかもその方角は……。


 我はシーリーの姿を見られぬようマントでしっかりと(くる)み、(はや)る気を抑えながら門から出てシャーリーンの竜気を辿(たど)る。

 まさか、まさかと思いつつ到着した場所は小夜(さよ)の家である華蘭(からん)の前だった。

 店の扉を慎重に開け、名前を伝えて店員に「小夜を呼んで欲しい」と言付ける。

 (しばら)くして顔を見せた小夜に、間違いなくシャーリーンの気配を感じて息を呑んだ。

 そうか……、そういう事だったのだな。

 2人の女性を愛してしまったと気を()んでいたが、同一人物なら当然だ。

 人生最大の悩みが解決してほっとする。


「小夜、少し出られるか?」


「外出するのを伝えてくるわね。少しだけ、待ってちょうだい」


 突然店に来た我に気を悪くした様子も見せず、小夜は泣き笑いの表情で一度店の奥へ戻っていった。


「さぁ、行きましょ」


 再び戻ってくるなり、背中を押され一緒に店を出る。

 

「静かに話せる場所だと、中央広場かしら?」


「あぁ……その、大事な話があって……」


「お互い、記憶が戻ったようですね。話は着いてから、ゆっくりしましょう」


 小夜がシャーリーンの記憶を既に思い出していると知り動揺し、ついシーリーを落としてしまいそうになった。


「バイロン、気を付けて下さい!」


 懐かしい自身の名を呼ばれ、目が(うる)む。

 別れを決意し最後に会った時は、名も呼んでもらえなかったというのに……。

 注意されてからは、しっかりとシーリーを抱き抱え中央広場まで歩いた。

 迷宮都市の中心にある中央広場は広く、木々が沢山植えられている。

 その一角にあるベンチに2人で腰を下ろすと、シャーリーンが我の腕からシーリーを抱き取り頬ずりした。


『私達の卵が(かえ)るなんて奇跡のよう……。シーリー、愛しているわ』


『お母さん! 僕も大好きだよ!』


 数百年振りに再会したというのに、彼女は子供に夢中のようで我の方を見ようともしない。

 理解は出来るが、のけ者にされたようで少し寂しい。


「こほんっ、あ~シャーリーン? お前の記憶は、いつ戻ったのだ?」


「多分、貴方と同じ時だと思うわ。私に黙って、この子のために巫女姫を探しに行ったのでしょう? 別れを告げられてから、黒竜のゼファーに会いに行ったのよ。事情を聞いて、私も転生させてもらったわ」


「あやつめ、内緒にしろと言っておいたのに……」


「彼を責めるのはお門違いよ。この子は、私の子供でもあるんだから。母親の私が対策を講じなくてどうするの? それに記憶を失った貴方が、私を忘れてしまうのが心配だったの。一緒の世界に転生出来て良かったわ」


 我はまるで信用されておらんかったのか……。


「ずっと(そば)に居たけど、相変わらず女性に弱いのね。(うさぎ)獣人に鼻の下を伸ばしていたじゃない!」


 うん? バニーちゃんにデロデロしていた事を何故(なぜ)知っているのだ?

 異世界では人族に生まれ変わったシャーリーンが、知っている(はず)が……。

 いや待て、先程ずっと一緒に居たと言ってはおらなんだか?

 その言葉の意味に気付いて、顔面からサーッと血の気が引いた。


「もしや黒曜(こくよう)!?」


「えぇ、そうよ。その記憶が戻ったのも同時でしたけどね」


 なんという事だ、それじゃあ本当に(ほとん)ど我の傍にはシャーリーンがいたのか……。

 女性に近付くと嫉妬(しっと)していた黒曜を思い出し、他に醜態(しゅうたい)(さら)した事がなかったか急いで記憶を探る。

 幸い夜の店には黒曜が居た時期には行っておらず、ほっと胸を撫で降ろす。

 しかし、我ばかりが責められるのは割に合わん。

 シャーリーンは現在、我以外の人族と所帯を持っているではないか!

 そう思い、じっと彼女を見つめると、


「まっ、まぁ、記憶がないから仕方ないわ」


 明後日の方向を向いて棚上げした。むう、納得がいかん。


「それより、サラさんが巫女姫だったのね。私達の孫になっているなんて、驚きだわ」


 そして、唐突に話題転換した。

 しかし、その件は話しておいたほうが良かろうと、我はセイから聞いた内容を伝えた。


「記憶が封印されているのは分かりました。それにしても、フェンリルの女王まで転生しているなんて……。巫女姫の護衛には、随分(ずいぶん)と多くの種族が手を上げたのね。じゃあ、迷宮都市内にいる聖竜もそうかしら?」


 言われて、先ほど感じた竜気の方角に視線を向ける。


「沙良が経営している、お菓子の店のようだな。あそこに居るのは、子供達と護衛する者だけだった筈だが……」


 言いながら、誰かは直ぐに分かった。

 奏……いや、ガゼインの(つがい)である聖竜は香耶乃(かやの)さんだったのか……。


「実は奏は、火竜のガゼインだった。そして香耶乃さんは、多分お菓子の店を護衛している聖竜だろう。2人は番で、双子の混ざり竜が生まれたらしい。その内の一人は聖竜のセイだ。巫女姫に育てられたと言っておった」


「嘘でしょう!? もう何があっても驚かないと思っていたのに、信じられないわ……。記憶が無いって大変な事なのね。私達は、まだ知らない振りをしなくちゃいけないんでしょう?」


「沙良の記憶が戻るまでは他言無用だ。全てを知っているのはセイだけだろう」


「はぁ……、演技力が試されるわね。貴方はボロが出ないよう注意して下さいな」


「わっ、分かっておる。シーリーも無事孵ったし、我らの今後も大切じゃないか?」


「恩のある巫女姫に敵対する相手を潰すのが先よ。私達の事は、その後で考えましょう」


「そうだな……、手を繋ぐくらいはいいかの」


「ここでは駄目です」


 きっぱりと言い切られ、しょんぼりして肩を落とす。

 それから二人でシーリーを交互に抱き締め、1時間後に名残惜(なごりお)しく手を振り別れた。

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