第876話 シュウゲン 57 早崎君の召喚
※椎名 賢也 94 迷宮都市 地下12階 新たな果物をUPしました。
興味がある方は読んで下さると嬉しいです。
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
美佐子の家に着いてから、茜の夫を召喚するために沙良と娘は歓迎の料理を作り始めた。
17時になり、沙良が召喚の呪文を唱える。
「召喚! 早崎 順一!」
別世界から人を呼び出すにしては、またえらく簡素だなと思っていると、部屋中が光の洪水で溢れた。
その眩しさで目を瞑り、次に目を開けた時、部屋の床に横たわる1人の男性がいた。
眠っているように見えるが、彼が早崎君なのだろう。
仕事が不規則な刑事と聞いていたから、夕方に寝ていても不思議ではない。
人間が召喚される場面は初めてみたが、こんなに簡単でいいのかの?
もっとこう、厳かな雰囲気で時間が掛かるものだと思っていた。
一瞬にして召喚されたので驚いたわ。
「旦那さん、寝てるみたいだね」
沙良が、少し困惑しながら茜へ声を掛ける。
「早崎! 現場に行くぞ!」
すると茜は優しく起こすのではなく、大声で怒鳴った。
「えっと……茜さん?」
しかし、その効果は覿面で、早崎君は直ぐに目を覚ますと茜の姿を見て固まった。
「相棒、久し振りだな」
夫に対して掛ける言葉ではない気がするが……。
お互い、刑事をしているなら相棒と呼ぶのも頷ける。
「なんだ夢か……」
それから周囲を見渡した早崎君は、儂らを見て溜息を吐き呟く。
「悪いが現実だ。目を覚ませ」
茜は笑いながら、まだ寝ぼけている状態の彼の両頬を問答無用で抓った。
「痛っ! 夢なのに、痛みも再現されるのか? どうせなら……」
そう言って賢也の姿を凝視する。
「賢也さんが若い。それに、ご両親も……。なんで皆、若くなってるんだ?」
「ちょっとこい」
訳が分からないと首を傾げる彼を茜が強引に立たせ、事情説明をするために部屋から連れ出す。
寝ているところを突然起こされ、異世界に召喚されたと聞いて納得出来るだろうか?
そんな心配をしていると、10分程で2人が部屋に戻ってきた。
思ったより短時間で説明を終わらせたな。
「えっと、ご無沙汰してます。茜さんから話は聞いたんですが、まだちょっと理解が追いつかなくてすみません」
そう言って、早崎君は礼儀正しく娘夫婦に頭を下げた。
まぁ、自分に何が起きたかホーム内にいては実感が湧かんだろう。
「早崎君、突然で驚いただろう。理解出来ないのも無理はない。追々、娘から異世界に召喚されたと分かる筈だ」
響君が彼の肩を軽く叩き、納得出来なくても仕方ないと安心させる。
その後、沙良が召喚された際の手紙を渡し、読んでもらっていた。
ゲームのように魔法がある世界でステータスが見られる事に喜んでおったから、Lv上げを楽しみそうだな。
別人になった沙良の姿を見て驚愕し、似ているヒルダちゃんの顔と見比べ目を瞠っている。
また転生した儂と奏を見て絶句し、慌てて恐縮したように自己紹介した。
一通り、それぞれの紹介をし終わったあと、美佐子が食事にしようと声を掛け夕食を始めた。
今日のメニューは、しゃぶしゃぶか……。
すき焼きとは違うが、このゴマダレに浸けて食べるのも美味いな。
響君が料理を見て、ピーマンがない事に歓喜していたのは言うまでもない。
「して早崎君。得意としておる武芸は何だ?」
刑事なら、柔道や剣道を習得していると思い尋ねてみる。
「私は、柔道、空手、剣道に精通しています。それと棒術も習っておりました」
ほほう、武芸全般に興味があったのか。
「こいつは柔道の赤帯だ」
茜が夫を自慢するように持ち上げる。それは凄い。
うむ、お似合いの夫婦じゃな。
沙良が賢也と尚人君が結婚した話をすると、何故か驚きもせずショックを受けたような表情になった。
あとで、2人から偽装結婚だと聞かされるだろう。
夕食後、沙良が召喚した際に現れた手紙を読ませてもらった。
授けられた3つの能力は、HP上昇、MP上昇、結界魔法。
HP上昇、MP上昇は便利そうな魔法だし、結界魔法も使い勝手が良さそうだ。
彼にあった能力と言えるだろう。
現在、儂らが冒険者をしている話をしたら、自分もやりたいと楽しそうに言った。
これで、沙良のパーティーに強い者がまた増えるな。
巫女姫となった孫娘の守りが堅くなるのは喜ばしい。
ヒルダちゃんも安心出来るだろうて。
日曜日。
朝食に再びピーマン料理が並んだテーブルを見て、響君が肩を落としておった。
残念だが収穫したピーマンは、まだまだ沢山あるでの。
なくなるまで続くと思ったほうがよいぞ?
沙良は早速、早崎君のLv上げを開始して20まで上げたらしい。
魔物から習得可能な魔法も覚えさせ、異世界に行ってスキップ制度を受けC級冒険者の資格を取らせた。
明日からダンジョンに行けるようにしたのだろう。
午後からは、一緒にガーグ老の工房で武術稽古に励む。
紹介した早々、ガーグ老と一戦交えておったが手にした得物は棒だった。
習っていたという棒術は中々見事な様を見せていたが、ガーグ老には及ばず、軽くいなされて終わった。
稽古終了後、玄武の甲羅で鍛えた剣をガーグ老に渡す。
ヒルダちゃんと沙良の護衛をしている彼に渡すのが、一番良いと思ったからだ。
「これからも孫娘を頼む」
「ふんっ、お主に言われるまでもない。でも、この剣はありがたく頂こう」
儂を快く思っていないガーグ老だが、鼻を鳴らして剣を受け取った。
これ程の剣は持っておるまい。突き返すには惜しいと思ってくれたようじゃ。
せいぜい、その剣に見合う働きをしてみせるのだな。
ドワーフ王が一級の素材で鍛えた最高の剣だ。
大陸広しといえども、これ以上の剣は存在しまい。
月曜日。
今日から沙良達は、迷宮都市の地下16階に拠点を移すと張り切って出掛けた。
ダンジョン初攻略となる早崎君は、期待に胸を膨らませていたようじゃ。
足取り軽く、沙良達のあとに付いて異世界へ向かった。
ホーム内と違い過ぎ、驚いて腰を抜かさんといいがの。
昼食を食べに戻ってきた沙良達は、新しい階層に出現する魔物の話題で持ち切りだった。
沙良が地下17階で発見した果物が気になり、こっそり聞いてみると、掌サイズの苺らしい。そしてランダムに生る果物は、スイカサイズのメロンだと教えてくれた。
答えるだけで、メロンは出てこんかったが……。高級な果物を食べたかった。
午後から摩天楼のダンジョンへ向かう沙良に断り、儂は玄武の甲羅を剣にする作業を始めた。
必要になる魔力と時間が多くかかり、1日で鍛えるのは1本が限界だろう。
残りは9本分ある。次は自分の分にしよう。
3本目はヒルダちゃんにあげようかの?
あとは、剣を武器にしている家族へ順番に配ればいいか……。
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