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椎名 賢也 66 迷宮都市 オークの串焼きと教会

誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。

 5日後のダンジョン攻略終了日が木曜日だったので、今週は3日間休み来週から月曜日~金曜日を攻略期間とする事に決めた。

 翌日の金曜日。沙良が迷宮都市を見て回りたいと言うから、三人で観光がてら出かける。

 迷宮都市に着いた初日にも思ったが、都市内のそこかしらに薄汚れた状態の子供が地面に座っていた。

 これまでより孤児の人数が多いな……。

 沙良の顔が痛ましいものでも見るかのようになり、(あふ)れた感情を抑えるためか唇を噛み締めていた。

 直ぐにでも何とかしてやりたいだろうけど、俺達はまだ迷宮都市に来たばかりだ。

 ここの冒険者を味方に付けるまで子供達の家を購入するのは、もう少し待った方がいい。

 本人も分かっているのか何も言わず通り過ぎた。


 大通りにある沢山並んだ屋台を(のぞ)き込み、迷宮都市の価格帯を調査する。

 野菜の値段は他の町と変わりないが、ミリオネの町やリースナーの町であった(つの)ウサギの串焼きはなく、代わりにファングボア肉1本鉄貨5枚(500円)とオーク肉1本銅貨1枚(1,000円)の串焼きが売っていた。

 これは迷宮都市付近に森がなく、角ウサギがいないからか……。

 鉄貨2枚(200円)の角ウサギの串焼きがなければ、子供達が肉を食べられる機会は少ないだろうな。


「お兄ちゃん、異世界定番のオーク肉の串焼きを食べてみよう!」


 沙良がオーク肉を食べてみたいと、期待に満ちた目で俺の顔を見る。

 まぁ、いいんじゃないか?

 値段的に1本1,000円だと飛騨牛の串焼きを思い出す。

 あれは量が少なくて観光地だから高かった。

 しかし異世界の串焼きは大きいから、1人1本食べれば満足する量だ。

 どんな味か分からないので、沙良は1本だけで良いと言う。

 それを聞いた旭が、


「俺が買ってあげる」


 すかさず(おご)っていた。

 焼き立てのオーク肉の串焼きを手渡された沙良が、旭にお礼を伝え最初に食べた。

 味を確かめるようにモグモグと口を動かして、目を(またた)かせる。


「お兄ちゃんも食べてみて? これ、(すご)く美味しいから!」


 おっ、そうなのか? 奢った旭じゃなく、次に俺へ寄越した沙良がじっと見つめてきた。

 そんなに凝視(ぎょうし)されたら食べ(にく)いんだが……。

 味の感想を待っていそうなので、躊躇(ためら)わず口に入れた。

 これは……、完全に豚肉の味だな。

 変な臭みもなく、柔らかくて非常にジューシーだ。

 食べた事は無かったが、この肉は当たりだな。


「あぁ、美味(うま)い肉だ」


「でしょ~、旭も食べて」


 俺から旭に串焼きを渡す。

 俺達が美味しいと言ったのを聞いていた旭が、口を大きく開けて残りの肉にかぶりつく。


「わぁ~、本当に美味しいお肉だね。塩味だけで充分いけるよ!」


 旭はそう言うが俺は焼き肉のタレがいい。

 沙良はオーク肉が豚肉の代用品になるなら、オークを狩ったら1体換金せず料理しようと考えているらしい。

 オークが豚肉の味だとすれば、ハイオークはブランド豚の味がするんだろうか?

 是非(ぜひ)、ハイオーク肉でトンカツを作ってくれ。

 串焼きの味に満足したあと、沙良が次に教会へ行きたいと言う。

 子供達の惨状を目にして、教会の炊き出しに参加したいんだろうと大人しく付いて行った。


 教会に着くと、沙良がシスターへ矢継ぎ早に質問を浴びせる。

 シスターは幼く見える少女からの質問に目を丸くして答えていた。

 それによると炊き出しは週一回日曜日の9時から行われているが、列に並ぶ人数が多く全員分の配給は出来ないそうだ。

 早い者勝ちになるため、その日は朝早くから並ぶ必要がある。

 また子供の人数は今までの比較にならない程多く、160人もいるという。

 それを聞いた沙良は子供達専用に自分で作ってもいいか確認し、ファングボアを持参した場合、こちらで解体してもらえるかどうか質問していた。

 両方とも大丈夫だと返事が返ってきた事に安心したのか、妹はほっとしたような笑みを浮かべる。

 沙良が2日後の日曜日から炊き出しに参加するので、子供達の列は別にしてほしいと頼んでいた。


 教会を出た俺達は、炊き出しの準備に必要な料理道具や食材を買い込んでいく。

 今回は160人分必要なので、かなりの量になる。

 それでも野菜とパンの数が足らず、沙良は明日9時に行くからと追加で注文していた。

 その際、沙良が毎週土曜日の9時に同量を買いたいと申し出ると、


「そんなに沢山買って店でも開くのかい?」


 露店の店主達に店を開くつもりだと勘違いされてしまった。

 

「教会の炊き出し分ですよ」


 沙良が素直にそう答えると、


「それじゃあ、ちょっと安くするよ」


 店主達が気前よく請け負ってくれる。

 見た目が若い俺達の稼ぎを心配してくれたんだろうか?

 まぁ毎週帰還すると言っているようなものだから、浅い階層を攻略していると思われた可能性が高いか。

 その内に迷宮都市一番の稼ぎを叩き出すパーティーになるけどな……。

 沙良は嬉しそうに店主達にお礼を言い、笑顔でにっこり笑っている。

 何もせず値切れたと喜んでいそうだ。


 特に観光名所もない迷宮都市を適当に見て回り、早々にホームの自宅へ戻る。

 空いた時間は各自のんびり過ごし、夕食は旭と歩いて居酒屋に向かう。

 お小遣いという名の借金だが、1月3,000円から100,000円に増えたので自由に外食できるようになったのだ。

 それでも以前旭と通っていた高級な店には行けないが、コーヒーを持参して喫茶店に入らずに済むし、沙良も偶には料理から解放されたいだろう。

 電子メニューから生ビールと数品の料理を注文して乾杯したあと、初攻略の感想を旭に尋ねてみた。


「迷宮都市のダンジョン攻略はどうだった?」


「う~ん、まだ地下5階しか魔物を倒してないけど余裕だったよ」


 そりゃまぁそうか。

 リースナーのダンジョンマスターだった旭は、地下9階までの魔物を倒していたんだから。

 それに俺と沙良よりダンジョンでの生活が長い。


「地下10階までは時間を掛けなくても良さそうだな」


「大丈夫だと思う。沙良ちゃんも賢也も魔物を見ると瞬殺するから、俺がいなくても平気そうだし」


 ちょっと()ねた口調で話すのは、活躍の場があまりなかったからか?

 もともと2人パーティーで先制攻撃するので、魔物から襲撃を受ける事がなかった。

 魔物の強さや出現数が大幅に変わらない限り、旭が大活躍する機会はなさそうだな。


「旭、俺達が警戒するのは魔物じゃなく人間だ。安全地帯にいる冒険者に注意しろ」


「あっうん……そうだね。これまで見た感じでは問題ないと思う」


 一応周囲の冒険者を観察していたのか、それは俺と同意見だった。

 沙良に近付く冒険者はいなかったし、妙な視線を感じる事もなかった。

 B級冒険者ともなれば、普通にダンジョンで魔物を倒して稼いだ方がいいんだろう。


「賢也、何かあれば俺も沙良ちゃんを一緒に守るから心配しないで」


「そうだな、好きな女くらい独りで守れるようになれ」


「分かってるよ! そのためにもLv上げしなくちゃ」


 俺は違う意味でも早くLvを上げたい。

 マンションが今どうなっているのか不安で仕方ないのだ。


「お互い頑張ろうな」


 グラスをぶつけ合って生ビールを飲み干した。

評価をして下さった方、ブックマークを登録して下さった方、いいねを押して下さった方。

読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。

応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

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