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第872話 シュウゲン 53 香耶乃さんの消息&事後報告

※椎名 賢也 90 迷宮都市 地下11階 ドレインの魔法&新しいクラン『希望の盾』と『白銀の剣』をUPしました。

 興味がある方は読んで下さると嬉しいです。

 冷え切った雰囲気(ふんいき)での食事を済ませてから、(かなで)と2人で焼いたスルメを(つま)みに日本酒で飲みなおす。

 

「怒ると小夜も怖かったが、美佐子(みさこ)も負けておらんな。お前の妻はどうだ?」


 食事時の態度から妹の所業(しょぎょう)に気付いた奏が、軽く(うなず)き首を(すく)めてみせた。


「俺のところは、まぁそれ程でもない。そもそも俺は入り婿(むこ)だし、あまり勝手な事は出来ないからな。娘のアリサが冒険者じゃなければ、お目付け役として自由になれなかっただろう。日本にいた時の妻のほうが怖かったよ」


香耶乃(かやの)さんがか? 彼女は控えめな優しい女性だったであろう?」


 奏の嫁であった香耶乃さんは、楚々(そそ)としたタイプで夫の三歩後ろを歩くような感じであったが……。


「いつもは大人しいけど、怒る時はよく一喝(いっかつ)されたんだ。それが怖くてなぁ~」


 奏は遠い過去を思い出すように、しみじみと語り酒を(あお)る。

 夫婦間の事は当事者しか知らぬであろう。


「それでお前、この世界で香耶乃さんを探してみたのか?」


 儂が小夜をずっと探していたように、息子も嫁との再会を望んでいたと思い聞いてみる。


「いや……、転生した時点で(あきら)めた。俺が死んだ時、まだ香耶乃は生きていたし、子供の頃から前世の記憶があったから、もう縁は切れたと思ってな。ただ……」


「なんだ? 今頃になって会いたくなったのか?」


「いや、こうして父さんや母さん、それに妹の家族と会えたなら、香耶乃もこの世界にいるんじゃないかと……。だけど娘のアリサに前世の記憶があり、夫と2人の子供がいると知って複雑な気分なんだよ。この世界で俺も結婚して、息子と娘がいるしなぁ。香耶乃と再会しても、気まずい思いをしそうで……」


「もしや香耶乃さんの心当たりがあるのか?」


「……ある。だが、確かめる勇気がない。父さんは、母さんの性別が変わってなくて幸いだよ」


 んんん? それは、香耶乃さんが男性になっておるという意味か?

 

「儂の知っている人物じゃなかろうな?」


 勢い尋ねたところで、(ひびき)君が娘に背中をぐいぐい押されながら階段を降りてきた。

 その両手には枕を抱えている。

 聞かなくとも、部屋を追い出されたと見当が付く。

 見ないフリをしようかと思ったが、美佐子に声を掛けられてしまった。


「お父さん、あまり遅くまでお酒を飲むのは体に悪いわよ。早く寝て下さいな。貴方は(しばら)くリビングで寝てちょうだいね。あっ、客用布団は2組しかないの。これからも必要だし、自分で買ったほうがいいと思うわ。じゃあ、おやすみなさい」


「あっ、美佐子……」


 背を向けた娘に追い(すが)るよう手を伸ばした響君だったが、さっさと階段を上がっていく美佐子を引き留める事は出来ず、項垂(うなだ)れていた。

 娘は鬼だな……。いくら小夜(さよ)でも、儂を部屋から追い出すような真似はせんかったが……。


「いや……、お恥ずかしいところを見せてしまいました。私はソファーで寝ますから、気にせず続けて下さい」


 苦笑(にがわら)いしながら響君はそう言うが、このまま酒を飲むわけにもいかず自然とお開きになった。

 まだ寒い時期なのに、布団も毛布もなくて大丈夫か?

 そう思っていたら、響君がどこからともなくマジック寝袋を取り出した。

 ううん? いやいや、確か響君にはアイテムBOXの能力がない(はず)だが……。


「今、どこから取り出したのかの?」


 気になり聞いてみると、


「あぁ、樹が腕輪をマジックバッグにしてくれたんですよ」


 そう言い、腕に着いている腕輪を見せてくれる。

 なんとっ! バッグじゃなくても空間魔法を付与出来るとは驚きだ!!

 しかも、そのほうが持ち歩かずに済む分、便利ではないか!


「儂も欲しいのう……」


 つい口から(こぼ)れた言葉に、


(いつき)に用意させます」


 響君が律義(りちぎ)に答えてくれた。


「いやぁ~、何か催促したようで悪いが頼んでおいてくれ」


「俺の分もよろしく頼む」


 見ていた奏が便乗し、強請(ねだ)っておった。


「分かりました。2人分だと伝えておきます」


 異世界のマジックバッグは冒険者必須アイテムだが、中に入る容量が多いほど値段が高い。

 しかし高額な商品になればなるほど、マジックバッグのサイズが大きくなるのが問題だった。それが腕輪になるなら身軽に移動可能だ。

 Lv50なら50㎥入るな。

 だが樹君ではなく、ヒルダちゃんのLvはもっと高いかも知れん。

 儂は良い物が手に入りそうだとほくそ笑む。

 響君が寝るのを邪魔しないよう儂と奏は客間に移動後、就寝した。


 翌日、土曜日。

 沙良達と一緒に(しずく)ちゃんがやってきた。

 昨日は実家じゃなく、沙良の家に泊まったのか……。

 結花(ゆか)さんのピーマン料理? を食べずに済んで正解じゃったな。

 その結花さんの隣には、顔に手形の(あと)を残したヒルダちゃんが所在なく(たたず)んでいた。

 こちらは、なんとまあ派手にやられたようだ。

 結花さんは気性が激しい女子(おなご)のようじゃわい。

 この分だと体中が(あざ)だらけになっておらんか心配だが……。

 ただ、一晩経って気は済んだのか、結花さんからはピリピリした気配を感じない。

 響君は昨夜部屋から追い出され、今日も朝食には彼だけがピーマン料理を食べさせられておったがな。

 収穫したピーマンの量を考えれば、まだまだ続くであろう。

 肉体的苦痛はないが、精神的苦痛が大きそうではある。

 美佐子からの地味に響く攻撃に、いつまで耐えられるかのう……。

 娘は穏やかな性格だと思っていたが、母親となり強くなったのだな。

 そんな事をつらつらと考えておる間に、響君が不在にしていた間の報告を始めた。


「まずは、皆に迷惑を掛けた事を謝罪する。申し訳なかった。結婚式のあと、ケスラーの民と南大陸に行き、怪我人を治療してアシュカナ帝国の王宮に乗り込んだが、帝王は不在で影武者がいた。人質にされていた妹さんは無事に救出されたから、成果がなかったわけじゃない。帝王がいなかったのは残念でならないが、逃げたと知った時はもう何処(どこ)に隠れたのか分からず、あとを追えなかったんだ」


 思っていた通り、最初に怪我をしたケスラーの民を治療して戦力を増やしたらしい。

 3人共、光魔法のヒールが使用出来るが、習得したばかりでLvは低い。

 精々(せいぜい)、数十人が動けるようになっただけであろう。

 それでも少数精鋭(せいえい)の部隊であったに違いない。

 その人数で直接王宮に乗り込んだか……。

 無事に帰ってこれたなら、アシュカナ帝国の王宮警備は大した事がなかったのだろう。

 話を聞いていた美佐子の(まゆ)がピクリと上がる。

 皆の前で責められては可哀想(かわいそう)だと、


「全員無事に帰ってきたから、よかろう。次は儂も一緒に連れていけ」

 

 儂はそう言って、話を締めくくった。

 すると沙良が空気を読み、話題を変える。


「今日の夕方、(あかね)の旦那さんを召喚するね」


「まぁ、じゃあ早崎さんの好きな物を沢山作っておきましょ!」


 娘婿に会えると聞き、美佐子が途端(とたん)に張り切り出した。

 ほお、孫娘の婿は早崎というのか。儂も初めて会うから、どんな男か楽しみだな。

 響君、良かったの。

 夕食はピーマン料理じゃないようだぞ? 昼食は知らんが……。 

 話を終え、帰ろうとするヒルダちゃんを見て引き留めるために声を掛ける。


「ヒルダちゃん、ちょっといいかの」


「えっ? あっ、はい」


 その手を取り、儂はヒルダちゃんを2階に連れていった。

 皆の前で、お礼をするのは恥ずかしかろう?

 気を利かせた心算(つもり)じゃったが、何故(なぜ)か響君まで付いてきた。

 普段、儂が寝ている客室に入ると早速(さっそく)お礼を請求する。


「儂との約束を覚えておるか? ヒルダちゃんは、樹君に転生したのだろう?」

 

 儂の言葉にヒルダちゃんは肩を揺らして反応を見せた。


「ええっと、樹からヒルダに転生したんです。その響と一緒に……」


 はて? 順番が逆だと?


「もうお気づきだと思いますが、私もこの世界で生きた前世があります」


 その後、響君の口から語られたのは到底信じられない内容だった。

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