第873話 シュウゲン 54 ヒルダちゃんのお礼&玄武の甲羅
※椎名 賢也 91 迷宮都市 地下11階 ドレイン魔法の検証をUPしました。
興味がある方は読んで下さると嬉しいです。
誤字脱字を修正していますが、内容に変更はありません。
30歳の時。響君と樹君は将棋を打っている最中に意識を失い、異世界へ転生したという。
エルフの王女となった樹君は、カルドサリ国王になった響君と再会して結婚し、赤子を産んだあと亡くなり再び同じ日の日本に戻ってきたそうだ。
響君もヒルダちゃんが亡くなってから180歳までこの世界で生き、樹君と同時に日本に戻ったらしい。
それも、お互い異世界の記憶を残したまま……。
ヒルダちゃんの産んだ子供は、神隠しに遭って育てる事が出来なかったようだが、多分沙良が憑依しているリーシャで間違いないと確信しているみたいだ。
そして現在、沙良に召喚され2度目の異世界に居るとは……。
話が複雑すぎて、そう易々とは理解出来ん。
それが本当なら、2人は親友同士で結婚したのか?
しかも子供まで……と考え、エルフの秘伝薬を思い出す。
おおっ、そうじゃった。エルフと国交のないドワーフの国では流通しておらんが、カルドサリ王国では後継ぎに困った貴族が大枚を叩き購入しておったな。
なんでも、子の出来ぬ夫婦や同性間でも子供が作れる魔訶不思議な薬だそうだ。
女性同士ならどちらかが出産すればよいが、男性同士の場合は女性化するのか?
まぁ樹君の場合は、ヒルダちゃんになったのだから問題ない。
「子供はエルフの秘伝薬で作ったのだな」
儂は分かっておるぞと首を縦に振り、大きく頷いて見せた。
その仕草をみた樹君は、何やら感動したように目を潤ませ、
「ええ、そうなんです!!」
同意するよう力強く両手を握っていた。
「いやぁ~、第二王妃として子を産まないわけにもいかず大変でした」
実際、出産して命を落としたヒルダちゃんの言葉には重みがある。
さぞかし辛い経験だったであろうな。
しかし、リーシャの母親は公爵夫人だ。年齢もヒルダちゃんが産んだ子供と合わんが……。
2人は何を思って、自分達の子だと断言出来るかの?
「沙良が憑依した子供は、本当に2人の子供なのか?」
「はい、間違いありません。産んだ母親の俺がそう言うのですから、信じて下さい」
そこはブレないようで、樹君がいつになく真剣な口調で言い切った。
ならば儂も信じる事にしよう。だが、沙良が知れば卒倒しそうだな。
母親が2人も居て、しかも1人は元男性とは……。
孫娘の数奇な運命に耽り、暫し沈黙する。
まっ、儂が考えたところで沙良の現状は変わらぬ。
いずれ、真実が明るみになれば自ずと受け入れるだろう。
「それではヒルダちゃん。そろそろ、お礼をしてもらおうかの」
「お義父さん、正気ですか!? ヒルダは樹なんですよ? それに俺の……妻でもあります」
「どうせ、形だけの結婚じゃろう?」
2人を見ていれば、現在恋愛関係にない事くらい分かる。
儂が約束をしたのはヒルダちゃんだ。何も問題なかろう。
自分の胸でもないくせに出し惜しみをするでない。
小夜が居ない今が絶好の機会なのだ。早くせい!
ヒルダちゃんをじっと見つめると、やがて諦念したのか肩を落とし響君と視線を交わす。
「どうしても、お礼をしてほしいのですね……。分かりました、その……少し心の準備が必要なので目を閉じて下さい。いいですか? 絶対に目を開けちゃ駄目ですよ!」
ヒルダちゃんにそう言われ、恥ずかしいのかと思った儂は素直に目を瞑る。
そのまま5分ほど待たされてから、徐に頭を引き寄せられた。
おおっ、この感触は! 両頬が弾力のある胸に挟まれる。
しかし、ヒルダちゃんの胸はこんなに大きかったかの? 少し冷たいような……。
それに、胸の位置が高いと思うのは気の所為か?
ふにふにと顔を挟まれ夢心地になっていると、
「もう充分でしょう。あっ、目は閉じたままで、いいと言うまで開けないで下さい」
そう言った響君に引き剥がされた。
終わってからも目を瞑っていろとは、どれだけヒルダちゃんは恥ずかしがり屋なのかのう。
ちゃんとお礼は受け取ったぞ?
「お義父さん。もう目を開けても大丈夫です」
言われて目を開ければ、頬を染めたヒルダちゃんと苦虫を噛み潰したかのような顔をした響君が見えた。
何だ? それで嫉妬している心算か?
そんな演技に騙されるほど、儂は耄碌しておらんぞ!
2人を部屋に残したまま良い気分で階段を降りると、美佐子が待ち構えていた。
一瞬、部屋で何をしていたかバレたのではないかとドキリとする。
が、美佐子は単に畑へ着いてきてほしかったようだ。
畑で草取りをしたあと(またピーマンを成長させる気かと心配したが、それはなかった)、美佐子が本屋に行きたいと言う。
美佐子の車を儂が運転して本屋まで連れていった。
何を買うのか見ていれば、料理本を何冊か手に取りパラパラとめくっている。
覗き込んで内容を確認すると、ピーマンを使用した料理だった。
味付けを変える心算はあるが、ピーマン料理を止める予定はないらしい。
響君、すまんのう。儂の娘は根に持つタイプのようじゃ。
まぁ、自業自得と思い諦めてくれ。その内、ピーマンが好きになるかも知れんぞ?
自宅に戻った美佐子は、笑顔で購入してきたばかりの本を開き、細長い紙をぺたぺた貼っていた。
そのままテーブルの上に置き席を立ったので、気になり本を手に取ってみる。
細長い紙が貼られたページは、全てピーマンを使用する料理だった……。
何というか、徹底しておるのう。儂も怒らせたら、春菊だらけの料理を食べさせられそうじゃ。
それからのんびりTVを見ていると、出掛けていた響君が戻り声を掛けてきた。
「シュウゲンさん。お願いしたい事があるので、喫茶店に来てくれませんか?」
ふむ、美佐子には内緒の話があるようだな。
「分かった、付いていこう」
喫茶店には、ヒルダちゃん、沙良、茜の姿がある。
この顔ぶれなら隠し部屋で発見した移転陣の話だろうと見当を付け、席に座ろうとしたところで壁際に立て掛けられていた大きな甲羅に視線が引き寄せられた。
武器の素材としての価値を感じ、思わず手を触れて鑑定する。
【玄武の甲羅】(聖獣である玄武が認めた者へ与えた甲羅の一部。武器の素材として剣を鍛えれば、水属性の魔法を吸収する。またウォーターウォールの魔法を生成可能。しかし非常に硬いため、鍛冶魔法のLvが100以上ないと鍛えられない。熱にも強く、溶かすには火の精霊王か火竜王の協力が必要である)
おおっ! ドワーフの血が騒ぐな!!
「こりゃまた凄い素材じゃの。玄武の甲羅ではないか!」
興奮を抑えられず声を上げると、
「これで武器を鍛えてくれませんか?」
沙良がにっこり笑い、儂にお願いしてくる。
「勿論だとも! 久し振りに腕が鳴るわい。しかし、よく手に入ったの」
聖獣と出会える機会は滅多にない。それに余程の事がない限り、甲羅の一部を分け与えたりはせんだろう。
「治療のお礼に頂いたんです」
そう思っていたが、孫娘は玄武の治療をしたという。
どうやら、聖獣がいる場所の移転陣で向かい、交流を持ったようだ。
「そうであったか。うむ、火の精霊王に協力してもらわねば……」
納得し、触れていた玄武の甲羅から手を離す。
いや~、これほど貴重な素材を生きている間に目にするとは、長生きはするもんじゃな。
しかし火の精霊王とは、どうやって会えばいいのか……。
一度王都に戻り、バールに相談する必要がありそうだ。
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