第845話 シュウゲン 26 家族との再会 2
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お手に取って頂けたら嬉しいです。
そんな事を考えていると不意に殺気を感じる。
振り返って見れば、小夜から鋭い視線を受け思わず顔を背けてしまった。
妙に後ろめたく思い、何か話題転換をと口を開こうとしたところ、
「シュウゲンさん。薙刀のお礼をしたいので、もしこれから時間があれば食事を一緒にしませんか?」
孫の沙良が実に良いタイミングで食事に誘ってくれたので、これ幸いと飛びついた。
「あぁ、時間ならたっぷりある。お言葉に甘えて良いかの」
「はい、じゃあ行きましょう」
バールに出掛けると伝え店の外に出ると、大きな魔物が数匹いて驚いた。
どうやら従魔らしく沙良に懐いておるようじゃ。
王都では冒険者が連れているのも珍しくはないが、黄金色の立派な毛並みを持つ狼系の魔物は初めて見る。
どこへ行くのか黄金と呼ばれた従魔の背に息子の奏と二人乗りさせられ、しばらく走ると突然景色が変わった。
ここは……、懐かしい日本に帰って来たのか!?
目の前の風景に目を見開き固まってしまう。
沙良から日本に戻ったわけではなく、自分の能力で再現された世界だと聞いても俄かには信じられん。
そんな魔法など聞いた事もない。
これから実家へ行くと言われ、呆然としつつ向かった。
そして今、記憶にある通りの娘の家が見える。
ここに美佐子が住んでいるというのか?
娘に会えると知り、期待で胸が高鳴った。
玄関を開けた孫たちに続いて、儂も家の中へ入っていく。
「お母さん。お祖父ちゃんが見付かったよ!」
リビングでTVを見ていた女性が、沙良の声に反応して体を反転させた。
そして儂の姿をじっと見つめた。
何かを探るような顔で、本当かどうか確かめているように見える。
最後に会った時から、少し年を重ねた娘の姿に目が熱くなった。
「美佐子、お前の事が心配だった。元気そうで安心したよ」
思わず零れた言葉に、
「……お父さんなの?」
震える声で美佐子が問いかけるように近付いて来た。
儂は大きく両手を広げ、そっと娘を抱き締める。
響君から妊娠したと聞かされたが、腹はまだ大きくなっていないようじゃ。
小夜との再会から、次々に家族と会えるとは夢を見ているのではないかと思ってしまう。
「年を取ったな……」
「これでも、若くなったのよ。本当は78歳だったんですもの」
言われた意味が理解できず首を傾げた。
どう見ても娘の姿は30代前半だろうに、78歳とはいかに?
「あなた……」
不思議に思っていると、小夜が傍に寄って来たので一緒に抱き締める。
息子は恥ずかしいのか輪に入って来なかった。
それから、落ち着いて話をするためソファーに座る。
響君から手紙を何通も渡され、一通り読んで状況を把握した。
なんと、小夜と奏以外は異世界に転移したそうだ。
沙良だけはリーシャという娘の体になっているようだが、他は沙良の能力で召喚されたので若返ったらしい。
いやはや何とも奇妙な……。
しかし、沙良だけ能力が特出しているように感じるのは気の所為かの?
このホームという能力で、異世界と日本世界を行き来できるらしいが……。
転生した奏からも現在の家族を紹介してもらい、その内容に混乱した。
貴族で伯爵なのは問題ないが、娘のアリサが日本人の記憶を持った転生者だと!?
しかも、それが美佐子の親友である結花さんとはな。
彼女には息子と娘がいて、尚人君と雫ちゃんが挨拶してくれた。
まだ20歳のアリサが既婚者で、同じ年の娘と22歳の息子がいると知り、奏は非常にショックを受けたようじゃ。
さもありなん。
儂が同じ立場であっても、動揺せずにはいられまい。
そうなると小夜の事が気にかかる。
妻は……。
料理が出来たと呼ばれテーブル席に着くと、ご馳走が並んでいた。
まるで盆と正月が一緒に来たみたいでテンションが上がる。
「これが食べたかったんじゃ」
ずっと日本料理が恋しく、二度と食べられないと思っていた。
ご飯やみそ汁だけでも充分満足だと思っていたが、実際数々のおかずを目にした今、食べないという選択肢はない。
さっそく鰤の煮付けに箸をつける。
あぁ、この味だ。
やはり小夜の料理が一番旨い!!
それからは、ご飯を何度もお代わりし全ての料理を平らげた。
異世界の不味い料理に何度涙をのんだ事か……。
いや~、幸せじゃ。
至福の時を堪能したあと落ち着いて茶を飲んでいると、
「シュウゲンさんは、何歳なんですか?」
沙良から年齢を聞かれた。
「572歳だ。ドワーフは長命な種族じゃからの。小夜は人族か……」
思えば長く生きたな。
しかし人族の小夜とは寿命が異なると気付き、一緒に居られる時間に思いを馳せる。
「あっ、Lv上げをしているところなので長生き出来ますよ!」
寂しいと感じる間もなく、沙良が解決策を講じていたようで安心した。
とはいえ、元が人族なら150歳くらいが限界だろう。
長生きしたカルドサリ国王は180歳で亡くなったが、あれはLvが100以上あったに違いない。
「それは良い! Lv100くらいまで上げてくれ!」
小夜と少しでも長く居られるように願望を伝える。
「私は78歳なんですよ。無理を言わないで下さいな。それに、もう充分長生きしました。今の夫との間には息子も孫もいるんです」
儂の言葉を聞いて苦笑した小夜が、知りたくない事実を語った。
日本や異世界でも女性が結婚せず生活するのは難しい。
分かってはいたが、本人の口から夫がいると言われると想像以上に胸が痛む。
「そうか……。そうじゃろうな、儂はずっと独身であったが……」
少しだけ恨めしい気持ちで小夜を見た。
「バールさんは、息子じゃないんですか?」
すると、沙良から思いもかけない事を言われ慌てて訂正する。
「ありゃ、只の弟子だ」
火の精霊王が儂に付けてくれた者だ。
出会った当初は敬うような態度を見せたが、今は気安く儂を親父と呼ぶようになったので勘違いしたのだろう。
老人に見える儂に対し、バールは姿が変わらなかったからの。
「兄も彼と結婚してるんですよ」
まるで何でもない事のようにサラッと告げられた言葉に、儂は思わず茶を吹き出した。
聞き間違いか!?
賢也が奏の孫の尚人君と結婚しているだと??
信じたくない気持ちからか脳が思考停止した。
「ちなみに私は、もうすぐ結婚します。相手は再婚なので、5人の子持ちになっちゃいますが……」
追い打ちをかけるような沙良の言葉に、今日一番の衝撃を受け身を乗り出す。
5人の子持ちと結婚するなど許せん!
「相手に会わせてくれ!」
そう願えば、響君から「事情を説明しますから落ち着いて下さい」と肩を叩かれた。
話によると、沙良がアシュカナ帝国の王から9番目の妻に望まれているらしい。
はっ、可愛い孫を9番目の妻にする心算か!!
それを防ぐための偽装結婚で、本当に結婚するわけじゃないと言われても納得できん。
そもそも5人の子持ちでは、相手が相当年上ではないか?
「やはり、一度会わせてくれ。孫を守れる男か見極めたい」
アシュカナ帝国の王が、どれくらい権力を持った人物なのか分からぬが危険を伴うだろう。
なりふり構わず妻を得ようとするなら、誘拐や夫となる相手を殺そうとする筈。
儂も守る心算ではいるが、簡単にやられる男では役に立たん。
実力を図り、相応しくない相手であれば儂が立候補しよう。
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