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第840話 シュウゲン 21 新たな師匠&ドワーフ王の称号

誤字脱字等を修正していますが、内容に変更はありません。

 ガンツ師匠から連絡がないまま、忘れた頃に1通の手紙が届いた。


『シュウゲンへ

 自分探しの旅に出かけています。

 探さないで下さい。

 あっ、鍛冶魔法のLvは上げておくように!

                       ガンツより』


「……(じじい)め、いい年こいて今更自分探しの旅に出かけるなぞ、ふざけておるのか!? 思春期でもあるまいし、探してなどやらんわ!!」


 こりゃ待つ意味がなさそうだと、届いた手紙をビリビリに破き捨てた。

 名ばかりの師匠を当てにしておっては、名匠(めいしょう)となるのに何年掛かるか分からぬ。

 自分で動いた方が早く目的を達成出来るのではないか? 国を出て他の師匠を探そう!

 幸い移転陣を見付けた事で特級冒険者のギルドカードもあるし、入国審査の資格は問題ない。

 鍛冶魔法に必要なイメージを強化するため、実際に鍛冶を習った方がいいだろう。

 そう思い立ち翌日には王都を出発した。


 同じ北大陸にある国の鍛冶屋を回り、店内の武器を確認し師匠と成り得る人物を探していく。

 8ヶ国目に入った武器屋で、遂にお目当ての武器を発見し歓喜した!

 儂が、この世界へ転生したように他の人物もいると思っていたのじゃ。

 【日本刀】を手に持ち、その精度を調べたいと店主へ試し切りを申し出る。

 50代半ばに見える店主は儂が手にした【日本刀】を見て眉を上げ、


「裏庭へ案内する」


 言葉少なに了解の意を示した。

 裏庭には、【日本刀】専用の巻き(わら)が準備されている。

 あぁ、店主は絶対日本人だろう。

 お互い無言で視線を交わしたあと、儂は(さや)から剣を抜き呼吸を整え、巻き藁に対し袈裟斬(けさぎ)りを行った。

 滑り落ちた巻き藁の断面を確認して、その手応えに満足する。


「うむ、良い切れ味だ」


 儂の行動をじっと見ていた店主が、僅かに目を(みは)(おもむろ)に口を開く。


「名は何と申す」


「日本名は木下雅美(まさみ)だが、今はシュウゲンと呼んでくれ」


「同郷の者がいるかもと鍛えた【日本刀】を扱えるとは……。シュウゲン殿、私は伊地知(いじち)伊織(いおり)です。これも何かの縁でしょう。今日は店を閉めるので、話をしませんか?」


「あぁ是非(ぜひ)とも、お願いしたい!」


 願ってもない申し出を受け、ここで出会った伊織殿とお互いの話に花を咲かせる。

 彼は生前に刀匠をしており、この世界でも同じ仕事を選んだそうだ。

 日本刀と剣では大きな違いがあるが、それでも覚えた鍛冶は役に立ったので店を早く構える事が出来たと笑う。

 亡くなったのは50代のようで、前世を合せると100歳を超えているらしい。

 儂は前世の職は道場の師範であった事と、80歳を過ぎているから同じ老人だと伝えた。


「伊織殿。実は儂も鍛冶職を目指しておってな、よければ弟子にしてくれんか?」


「それは奇遇な……。同じ同郷の(よしみ)ですから、お引き受けしましょう。ただし、私は厳しいですよ?」


「なに、教えてもらえるだけ御の字じゃ」


 ろくでもないガンツ師匠に比べたら、まともに鍛冶を学べるだろうて。

 こうして新たな師匠の(もと)、儂は本格的に鍛冶の基礎を習得していった。

 伊織殿に、お礼としてS級ダンジョンで採掘した鉱物を渡すと大変感謝され、【日本刀】の鍛え方まで教えてくれる。

 バールが魔法で鉱物を融かすのを見た時は、呆気(あっけ)に取られ大きく目を見開いておったな。

 鍛冶の技術を習得するまで暇だろうから、バールにもやらせてみると案外気に入ったようだ。

 

 伊織殿とは話も合い、独身同士の気軽さで家まで間借りさせてもらった。

 この世界の飯の不味さを愚痴りながら、風呂を提供し裸の付き合いもする。

 時々、実家に帰り顔を見せては両親を安心させた。

 帰る度に母親の腹が大きくなっておったのは、せっせと送った金で余裕が出来たからかの?

 知らぬ間に弟と妹が増えて驚いたわい。

 父親は鉱山の仕事を辞め引退し、家でのんびり過ごしているらしい。

 まぁ子沢山になったから、子育てが大変そうじゃがな。


 気付けば楽しくも厳しい修行が4年を過ぎ20歳を超え、伊織師匠から合格を言い渡された。

 名残惜しいが、小夜(さよ)薙刀(なぎなた)を作り探さねばならん。

 バールと共に最大限の感謝を伝え帰路についた。

 国に戻ってからは鍛冶魔法のLvを積極的に上げ、名匠となるための試験を受けようとしていた。

 伊織師匠から学んだ鍛冶の手法をイメージし、納得いくまで剣を作製する日々が続く。

 相変わらず、ガンツ師匠は行方不明のままであった。

 もう、あのクソ(じじい)には期待しておらんが、儂から逃げているのではないかとふと思う。

 最初から、やる気が一切感じられんかったしな……。


 王都に戻り半年が過ぎた頃、出来上がった剣を持ち鍛冶師ギルドの扉を潜った。

 試験を受けたいと申し出ると、やってきたギルドマスターの表情が何故(なぜ)か引き()っているように見える。


(つい)にか……。師匠のガンツが不在のため、私が試験を執り行う。これから目の前で、剣を作製してみせよ」

 

 試験は完成品の提出ではなく、実際に作製する必要があるらしい。

 儂は、一つ(うなず)いてバールにオリハルコン鉱石を手渡した。

 バールの(てのひら)で融ける鉱石に鍛冶魔法を使用しイメージを送ると、瞬く間に剣を形成していく。

 もう幾度となく行った過程は無駄なく伝わり、最初の時のような失敗はしない。

 熱を帯びていた剣が冷却され表面の色が変化し、鋭い刃を(のぞ)かせた。

 うむ、良い出来じゃ。

 満足のいく剣を見て、ギルドマスターに判定を(ゆだ)ねた。


「……時間、精度共に素晴らしい品であるな。名匠と名乗る事を許そう。あ~神殿への奉納の儀が近々行われるから、参加してもよいぞ」


 そう言いながらギルドマスターの目が泳いで見えるのは、気の所為(せい)かの?


「10年経つのは早いな……。奉納したい物があるので参加しよう」


「そっ、そうか……。時間稼ぎにもならんかったなぁ」


 ギルドマスターは最後に小さな声で呟くと、部屋を出ていった。

 よし、これで奉納の儀で儂の武器が選出されれば、各地へ武器が順繰りに(まつ)られる。

 薙刀を作製すれば、小夜が見て気付く可能性が高くなるだろう。

 かなり遠回りをしてしまったが、お互い別人になっている相手を探す方法としては、これが一番確実だった。


 1ヶ月後。

 国中の名匠達が集い王都の神殿に武器を奉納する儀式が始まった。

 年齢の若い儂が作製した武器を見てやろうと、腹に一物を抱えた名匠共が武器を収めた場所へ陣取っている。

 しかし、奉納された武器を見て戸惑いを隠せないようだ。

 皆、初めて目にした武器の形状に名称が分からず、口に出せないようじゃな。

 全ての武器が奉納され神殿奥から火竜がのそりと登場した瞬間、その場にいた全員が膝を突き(こうべ)を垂れた。


『皆の者、大儀であった。では、ドワーフ王の称号を与える者を決めよう。現王、ナラクは前に出よ』


 火竜の一声が掛かり顔を上げると、後ろに隠れていたナラク王が姿を表す。

 王を見た儂は思わず声を上げそうになり、厳粛な場である事を思い出し咄嗟(とっさ)に口を塞いだ。

 どうしてガンツ師匠が王と呼ばれているんじゃ!? 聞いた名前と違うではないか!!

 騙されていたのを知り唖然(あぜん)となっている間に奉納の儀は進み、選出が終った。


『まさか、この言葉を言う事になるとは思いませんでした……。ええっと、シュウゲン様? 貴方が新しいドワーフ王です。これで良いのか分かりませんが、(しばら)く王の交代はなさそうですね……』


 火竜の決定に名匠達がざわつき、前王だったガンツ師匠はどこかほっとした表情をしていた。

 儂は隣で誇らしげに胸を張るバールを横目に火竜の前へ立ち、ガンツ師匠から王冠を被せてもらう。

 こうして歴代最年少のドワーフ王となった儂は、師匠として0点だったクソ(じじい)(にら)み付けながら、後で納得のいく答えを聞き出そうとしていた。

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