第709話 旭 樹 再召喚 1 ティーナ&家族との再会
誤字脱字等を修正していますが、内容に変更はありません。
【旭 樹】
異世界でハイエルフの王女として300年を生きた後、お役目を終え日本での生活が始まった。
親友の響と一緒に、再び異世界に召喚されてもいいよう体を鍛える事にする。
ステータス表示が消えていないのは、何か理由がありそうだろ?
産んだ娘のティーナが、世界樹の精霊王の下で育つのだけが心配だったが……。
あの顔だけはいい精霊王に、子育てが出来るんだろうか?
かなり世間知らずな娘になりそうで不安だなぁ。
300年も王女となってのほほんと暮らしていた俺は、翌日から職場復帰したが仕事を忘れていたので、かなり苦労した。
同僚の顔も名前も朧気だ。
家族を養うため、どうにか仕事を思い出してなんとか生活に不安を覚えなくなった頃、妻から妊娠の報告を受ける。
女の子だと聞いて俺の娘を思い出した。
ティーナ……。
腕に抱いてやる事も出来ず、亡くなってしまいすまない。
自分達の手で育ててやりたかった。
響はあの世界で180年も生きたらしいから、神隠しに遭ってしまった娘がさぞかし心配だっただろう。
生まれた娘は、椎名家と同時期に生まれた双子達と一緒に育った。
雫は心臓に重大な欠陥があり、成人まで生きられないと医者から宣告を受ける。
それでも俺達夫婦は娘を育てようと決意した。
勉強嫌いの息子が、賢也君にお願いして医者を目指すと言った時は驚いたな。
医大に受かったのは奇跡だと思ったよ。
息子の実力だと自慢する程、馬鹿じゃない。
あれは賢也君が、献身的に勉強を教えてくれたからだと分かっている。
雫は18歳まで懸命に生きた。
健康な体じゃない分、我慢の多い人生だったろう。
だけど俺達家族に、かけがえのない幸せを与えてくれた。
尚人が外科医になった報告をしたその夜。
眠るように息を引き取ったのは、俺達のため必死に命を繋いでくれた証拠だろう。
もう頑張らなくていいんだ。
ゆっくりおやすみ……。
娘を失いショックを受けていた結花は、親友の美佐子さんから慰められ立ち直ってくれた。
しかし息子が45歳で突然死すると生きる気力を失い、どんどん痩せていく。
子供2人に先立たれた悲しみは深く、どんな言葉を掛けても癒されなかっただろう。
俺はそんな妻を支えてやれず、結花は70歳でこの世を去った。
家族が誰もいなくなり落ち込む日が多くなったが、親友の響もまた似たような経験をし、お互いを慰めあう。
響は沙良ちゃんを48歳で失くし、半年後に賢也君が行方不明になっていたのだ。
もしかしたらと思ったのは一度や二度じゃない。
俺達の家族は、あの世界で生きている可能性がある。
まぁ、俺の勝手な想像だから響には言わずにいたが……。
妻が亡くなって8年間。
俺の生活を心配した美佐子さんが毎食準備してくれ、美味しい料理が食べられた事だけは救いだった。
結花は料理が下手すぎたんだよなぁ。
ある日、夕食を食べに椎名家を訪れると2人の姿がなかった。
台所にはカレーの匂いが漂っていたから、ついさっきまで美佐子さんが料理をしていた筈なのに……。
その日、深夜になっても2人は家に帰ってこなかった。
俺は刑事の茜ちゃんへ連絡をして捜索をお願いしたが、2人の行方は分からないまま。
これは、どう考えても怪しいだろ。
2人はきっと、あの世界にいるに違いない。
俺は、いつ呼び出されてもいいよう異世界の記憶を思い出す事に専念した。
そうして、2ヶ月が経ったある日。
風呂に入っていた俺は異世界に召喚されたのだ。
髪を洗い流すため、シャワーの取っ手を掴もうとした所で何度も空振りする。
「……樹、お前は残念すぎる。取り敢えず、これで下を隠しておけ」
「あれ? この声は……。あ~、響! どこに行ってたんだよ! しかも若くなってる!」
良く知った声を聞き目を開けると、目の前に若返った親友の姿があった。
あぁ、これは間違いない。
俺は再び異世界に来たと確信を持った。
渡されたタオルを腰に巻き、周囲の状況を確認しようと正面を向く。
その瞬間、時が止まったかのように視線が釘付けになった。
あぁ、ヒルダとそっくりな娘の姿がある。
ティーナ! やっと会えた!
俺は自分の状態を忘れ、勢いよく立ち上がると娘に向かって走り出す。
「生きていたのか!?」
ティーナを思いっきり抱き締めようと手を伸ばす寸前、見知らぬ少女に思いっきり頭を叩かれた。
「あなたの娘は、こっちです!」
「えっ? でも娘は……。って誰?」
感動の再会を邪魔され、俺は少々不機嫌な声を上げる。
すると落ちたタオルを響が腰に巻き付け、俺の手を引き風呂場まで連れていった。
「頭が泡だらけだぞ? 説明は後でしてやるから、シャワーを浴びてこい」
響にそう言われ、髪を洗っている最中だったと思い出す。
確かに初めて娘に会う恰好じゃないよな。
ちゃんと体も洗って綺麗な状態になろう。
少ししか確認出来なかったけど、あの場には複数の人間がいたよなぁ。
まぁ男だし今更、裸を見られて恥ずかしがる年齢じゃないんだが……。
髪を洗い流し体も洗って、さっぱりした状態で風呂から出ると脱衣所には服が用意されている。
服を着て扉を開けると、外で待っていた響が簡単に事情を話してくれた。
俺は、どうやら沙良ちゃんの能力で召喚されたらしい。
あの場にいたのは、亡くなった俺の家族と響の家族のようだ。
妻と雫は別人の姿になっており、現在20歳だと言う。
そう説明されても直ぐには実感が湧かない。
ティーナの姿をしているのは、沙良ちゃんだと聞き頭が混乱した。
その件について、夜にまた教えてくれるそうだ。
俺は78歳から42歳に若返っている。
これは以前も経験したから、ヒルダの姿に戻らなくて良かったと安堵した。
また女性の姿で生きるのは勘弁してほしい。
一通り、事情を把握した俺は再び皆の前に戻った。
「ええっと、俺の奥さんは?」
「私よ!」
事前に聞いてはいたが……。
「結花が可愛くなってる! しかも若い! 俺、犯罪者にならない?」
妻は本当に別人になっていた。
しかも生前とは全く違うタイプの可愛い少女姿に唖然とする。
42歳に若返ってはいるけど、20歳の妻は……。
「お父さん!」
変な事に悩んでいると、もう1人の少女が抱き着いてくる。
「雫なのか? お前も姿が変わってるんだな」
こちらは妻より年上に見える。
となると息子は何処だ?
雫を抱き締めたまま周囲を探すと、記憶にある若い頃の姿をした息子がいた。
「尚人は、若返っているだけか……。家族全員に生きて会えるとは思わなかった……」
予感はあったものの、確実なものじゃない。
再び家族と再会し、嬉しさと懐かしさで自然と涙が溢れてくる。
違う姿になっている2人は、見ている間に慣れていくだろう。
俺と響が、この世界で別人になったように……。
性別が同じで本当に良かった。
妻が男性だったら、かなり困るよな?
俺は家族を抱き締めながら、娘のティーナに視線を向ける。
母親とは名乗れないので我慢するしかない。
無事に育ってくれたのが嬉しくて、また涙を零した。
「じゃあ、これでお先に失礼しますね。旭は実家に泊まるでしょ?」
俺達が再会を喜びあっていると、沙良ちゃんが帰ると言う。
いやいや、ちょっと待てくれ。
どう見ても、今いる場所は自分の家のようだ。
異世界召喚されたのに、何故家の中なのか分からないけど嫌な予感がする。
「せっかく皆が揃ったんだから、一緒に食事をしよう! それに色々と話も聞きたいし!」
俺は逃げられないよう、響と沙良ちゃんの手をしっかりと握り締めた。
「久し振りの再会だから、家族でゆっくりして下さい」
沙良ちゃんの笑顔が引き攣っている。
「あら、沢山作ったから問題ないわよ。いつもご馳走してもらってばかりだし、偶にはうちで食べていって?」
あぁ、やっぱり! 妻の手料理が待っていた!
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