第699話 王都 消えた第二王妃の肖像画&魔女の森
誤字脱字等を修正していますが、内容に変更はありません。
第二王妃の肖像画が消えた事に因る王宮封鎖に伴い、移動を制限されここに留まるしかなくなった。
目的を果たせず、他に用事がある訳じゃない私達は手持ち無沙汰となってしまう。
私が持っている念話の魔道具は、兄とガーグ老の長男のゼンさんに通じる物だから別行動している父達とも連絡が取れない。
「奏伯父さん。犯人が捕まるまで王宮から出られないのかな? 冒険者ギルドで待ち合わせしているお父さん達に、どう連絡しよう?」
「王族の肖像画が盗まれたのは、かなり重要な事件だ。1日は拘束されると思った方がいい。連絡は、これだけ大勢の貴族が王宮内にいると難しいだろうな……」
う~ん、それは困ったな。
あっ、さっき宮廷魔法師の女性が妖精さんに伝言を頼んでいたわよね?
同じ王都内なら伝えてくれるかも知れない。
「ちょっと妖精さんに、お願いしてみる」
私は妖精さんの姿を見かけた木の下へ行き、王都の冒険者ギルドで待っている2人へ伝言を頼めないか尋ねた。
すると、木の枝が揺れた後に1枚の羊皮紙が落ちてくる。
『サラ様。ご用命賜りました。御二方には事情を説明し、お待ち頂くようお伝え致します。』
相変わらず、硬い文で書かれているなぁ。
妖精さんのイメージが、どんどん崩れていくんだけど……。
私は伝言のお礼として、作り置きしたサンドイッチと唐揚げをアイテムBOXから取り出し、皿の上に載せ木の下へ置いた。
「妖精さんが、2人に連絡してくれるって。私達は、これからどうする?」
「王宮警備担当の騎士達が動き回っているからな、俺達はここで大人しく待機していよう」
そう言うと、奏伯父さんは建物内にあるサロンの1室を借りる。
このサロンは爵位によって借りられる部屋が違うそうだ。
当然部屋の大きさも、室内の装飾品も変わってくるのだろう。
室内は6畳くらいで、テーブルと4脚の椅子がある。
少人数用の部屋らしい。
特筆すべき物はなく私達は椅子に腰かけ、それぞれ時間を潰す事にした。
紅茶とケーキを出し、HP/MP値が上がる丸い玉をせっせと作っていると、茜は先週大人買いをした漫画を読み始める。
異世界のお金を父に換金してもらったら、刑事の給料より多かったと喜んでいた。
奏伯父さんは車を購入する予定のようで、カタログを真剣に見ている。
2時間程経過すると、警備責任者の老騎士が先触れの後に訪れた。
「フィンレイ伯爵。足止めをして申し訳ありません。現在犯人を捜索中ですが身元の確かな方より、お帰り願っております。伯爵も王宮から、お出になられて結構です」
「犯人の目星は付いたのか?」
「それが……。この建物を警備していた騎士達は、不審人物を誰も見ていないと申すので……。建物の出入り口はひとつしかありません。では、どうやって肖像画を持ち出したのかが分からず難航しております」
「そうか、第二王妃の肖像画を見に来たんだがな……。仕方ない、では私達は帰るとしよう」
「はっ、部下が門まで送ります」
老騎士は、事態を解決するべく奔走したのか額に汗を掻いていた。
その表情には疲れが見える。
警備担当の騎士に付き添われ、私達は王宮を出た。
それにしても、一体誰が何の目的で第二王妃の肖像画を盗んだんだろう?
あんな大きな物を持ち運ぶには、マジックバッグに入れるしかない。
けれど、冒険者でもない貴族が普段持ち歩くような物じゃないから注意を惹く事になる。
マジックバッグは、かなり大きいのだ。
今朝の時点では壁に飾られていたと言うのだから、どう考えても犯行は今日の筈。
まぁ今回は直接被害があった訳でもないし、私が犯人を捜す必要はないんだけど……。
気になるのは確かよね。
「伯父さん。第二王妃の肖像画は、王宮に飾られている物だけしかないの?」
「あぁ……いや、森の魔女の噂を聞いた事があったな。もしかしたら、王都から離れた森の中の建物にある可能性がある。第一王妃に毒を盛られた第二王妃が、身を守るために住んでいたとされる場所だ。ただ、その森には不思議な結界があり入れないらしい」
奏伯父さんが他にも肖像画があるかも知れないと教えてくれたけど、森に入れないなら確かめようがない。
ただなんとなく、その森を見てみたい気がした。
思ったより早く王宮を出られたので、一度足を運ぼうかしら?
奏伯父さんと話しながら、冒険者ギルドに到着する。
ギルド内にいた父達と合流し、これから第二王妃が住んでいた森へ行きたいと伝えた。
「せっかく肖像画を見に来たのに、盗まれて確認出来なかったの。せめて第二王妃が住んでいた森を見てみたい!」
「そっ、それは残念だったな。犯人が捕まるといいが……。森の中には入れないだろ? 見に行く必要はないと思うぞ?」
父はそう言うけど、どうせ移転するから一瞬だ。
たいして時間は掛からない。
「あっ、それと王宮で宮廷魔術師の綺麗な女性達に会ったんだよ。また、ヒルダさんに間違えられちゃった。でも私をティーナ様って呼んでたなぁ。きっとエルフの人ね! ガーグ老とも知り合いみたい」
「えっ!? 沙良ちゃんをティーナと呼んだの? そっ、その女性はどんな人だった?」
樹おじさんが私に詰め寄り、勢い尋ねてきた。
「え~っと、宮廷魔術師というより騎士みたいな感じの人だよ。年齢は50代くらいかな? 10人いた女性達もヒルダさんを知っているように見えた」
「もしかして……にょ……。女人達はエルフかも知れないね!」
女人って何? かなり動揺しているように見えるんですけど?
父の方を見ると、樹おじさんとは違い笑っていた。
そんな対象的な2人はおいて、私はさっさとマッピングで確認した森へと移転する。
目の前に広がる大きな森は見た所、変わっているように感じない。
私は近付ける場所まで歩いていこうと足を進めた。
奏伯父さんの情報通りなら、張られた結界で途中からは入れなくなるだろう。
すたすたと先頭を切り先に歩いていると、父と樹おじさんが慌てて付いてきた。
「沙良、それ以上は先へ行くな!」
父が引き留める声を無視し、どんどん森へ近付いていく。
丁度森の境目に辿り着くと、傍にいたシルバーが立ち止まって首を横へ振った。
どうやら、この先には入れないらしい。
私は確かめたくて、結界が張られている場所へ手を入れてみた。
すると何の抵抗もなく、するりと手が通過してしまう。
リーシャはエルフの血を引いているから、森の中に入れるんじゃない?
そう思い足を一歩踏み出した。
その瞬間、静謐な空気が流れる。
この懐かしいと感じる森の中で、私は茫然と立ちすくんだ。
目に映る全てが何かの記憶を思い起こす。
私は、この結界をよく知っている?
安全な繭の中に包まれているような穏やかな気持ちでいたら、急に手を掴まれ後ろへ引っ張られる。
私をしっかりと抱き寄せたのは、樹おじさんだった。
「沙良ちゃん、勝手に森へ近付いちゃ駄目だ。結界は、他者を排除する役目もある。下手をしたら、命の危険もあるんだ」
怖いくらい真剣な声で言われ驚いてしまう。
でも私、結界の中に入れたよ?
「多分、私は大丈夫だと思うんだけど……」
「いや、危険な行為はしない方がいい。もし仮にお前が入れたとして、何かあったらどうするんだ? 俺達は助けにいけないんだぞ?」
父に諭され、シルバーが行かないでと首を横に振ったのを見て諦めた。
第二王妃が住んでいた建物を見たかったのに……。
「分かった。ここから見るだけにする」
中に入れないならマッピングで覗いてみよう。
森の中を調べようとマッピングを使用したら、何も見えなかった。
これは結界の効果だろうか?
「マッピングじゃ見えないみたい」
そう言葉にすると、父と樹おじさんが安心したようにほっと息を吐いた。
2人が目配せを送り帰りを促してくる。
これ以上、外から森を見ても何も分からないため、私は頷き迷宮都市の家へ戻った。
評価をして下さった方、ブックマークを登録して下さった方、いいねを押して下さった方。
読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。
応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。
これからもよろしくお願いします。




