表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
361/669

第577話 世界樹の精霊王との邂逅 フェンリルの女王 2

誤字脱字等を修正していますが、内容に変更はありません。

 世界樹の精霊王に、娘へ許嫁(いいなずけ)を紹介したいと伝え呼び出してもらった。

 娘から産みの母親(・・・・・)には会いたくないと言われ、とても胸が痛む。

 育てられなかった私には、母親としての資格がない。

 あの子にとって、育ててくれた巫女姫が母親なのだろう。

 娘の言葉を聞き、精霊王は「困ったねぇ」とその場にいた私の方へ振り返る。

 私は静かに後退(あとずさ)り、娘からは見えない位置へ移動した。


 今日の本題は、許嫁(いいなずけ)を紹介する事だから娘と会えなくても構わない。

 兄妹達が厳選した立派な(おす)はハルクといい、(つがい)である娘を一生守ると誓ったそうだ。


「あ~、母親には会いたくないみたいだから、許嫁だけ紹介するよ」


 精霊王はそう言って、娘にハルクを紹介する。


「成長したと聞いたが、えらく小さい(めす)だな。その体で子供が産めるのか?」


 ハルクの第一声を聞き、頭が痛くなった。

 どうやら、この雄には教育的指導が必要らしい。

 初対面の許嫁から、あんまりな言葉を掛けられた娘は気分を害したのか、その後名前を尋ねられても応えず一言も話さなかった。

 ハルクはそんな娘の態度を意に介さず、また様子を見にくると言いその場を去る。

 確かに次代の許嫁に求められるのは、許嫁を守る強さだけどそればかりではない。


 相手に嫌われてしまったら、どうしようもないからだ。

 私はこの性格に難がありそうな雄に、女王として娘との接触は月に1度だけだと厳命した。

 毎日顔を見せにいけば、娘の態度は(かたく)なになってしまうかも知れない。

 本来であれば常に付き添い護衛を(にな)う許嫁だけど、姿を見せず遠くから守るよう言い付けた。

 それと娘と仲良くなるには、会話が重要であると教え(さと)す。

 私の話を聞き、ハルクは考え込んだ後で大きく(うなず)いた。


 それからハルクは私の言葉を守り、月に一度だけ娘の前へ現れては30分程話をして帰るようになる。

 私はその姿を遠くから見ていたため、実際彼が何を話していたのか分からない。

 娘の様子を見る限りでは、2人の仲が進展しているようには見えなかった。

 これは前途多難だな……。

 どうやら初対面の印象が悪すぎたのか、娘は許嫁が気に入らないらしい。

 何か印象を変えるような出来事でもあれば違ってくるだろうか?


 そうして10年が過ぎたある日。

 独りで精霊の森から出た娘に、ジャッカルが襲い掛かった。

 フェンリルの個体として小さすぎる娘は、魔力を感知しない野生の動物に獲物と判断されてしまったようだ。

 直ぐにジャッカルを排除するべく駆け付けようとした瞬間、ハルクが娘の前に(おど)り出て敵の首を刈り取った。


 あぁ、もうちゃんと娘にはその身を(てい)し守ってくれる存在がいたのだった。

 許嫁となり役目を果たしているハルクは、私の目から見ても立派な体格をした雄である。

 兄妹が厳選した番は、強さも群を抜いていたようだ。

 まぁ、私の夫には負けるけどね。

 この一件があり、娘の態度は明らかに変化を見せた。

 毎回一方的に話をして帰るだけだった逢瀬(おうせ)の時間に、会話が生まれたらしい。


 これで2人の仲も進展するだろう。

 娘は相変わらず小さな姿のままだけど、私が女王でいる期間はまだ数百年ある。

 その間に少しずつ成長していけば大丈夫だろう。

 許嫁との体格差は、人化して(つが)えば解消される問題だ。


 娘が200歳になった頃、世界樹の精霊王から巫女姫が転生する事を知らされる。

 そしてその護衛役に、娘が選ばれたと知り不安になった。

 200歳になっても、娘の姿は巫女姫に()(かか)えられるくらい小さい。

 果たして護衛役が務まるだろうか?

 私は今こそ娘を育ててくれた巫女姫に恩を返す時だと思い、精霊王へ護衛役を受けたいと申し出る。


 いつか巫女姫の役に立ちたいとずっと願っていたのだ。

 この機会を逃す手はない。

 それに、もしかしたら転生先で娘を育てられるかも知れないという、(わず)かな希望もあった。

 私と一緒に夫と長男も巫女姫の護衛役を受けると言う。


「もうあちらの世界へ渡る枠が残っていないのだよ」


 私達の申し出に、精霊王が困ったような表情を見せた。


「それに君達は種族として強い個体だからね。転生にはかなりの代償が必要になるし、正直時間軸がズレる可能性が高いと思うけど……。それでも転生先に渡る覚悟はあるかい?」


 代償なら幾らでも払う。

 時間軸のズレはいかんともし(がた)いけれど、娘と一緒に転生出来るのを願おう。


「はい、全て承知の上です。どうかよろしくお願いします」


 私達が不在の間は、兄妹達が森をしっかりと治めてくれるだろう。


「じゃあ、どうなるか分からないけど送ってあげよう。良き人生を……」


 精霊王の声を最後に意識を失った。


 そうして再び、その精霊王の姿をベッドの上で横になり目の当たりにする。

 あぁ、確かに払った代償は高かった。

 同じ思いを2度も味わう事になるとは……。

評価をして下さった方、ブックマークを登録して下さった方、いいねを押して下さった方。

読んで下さる全ての皆様、ありがとうございます。


応援して下さる皆様がいて、大変励みになっています。

これからもよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ