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6.友人

 休日。基本的に必要なものしか置いてない質素な私の部屋に、澪が訪れていた。いや、無理やり連れ込んでいた。


 私が生まれた時に、和室じゃ暮らしずらいだろうと、洋室にリフォームされた一角に自室はある。リビングや小さめのキッチンも備え付けてあって、ほとんど一軒家のため、家族は蒼唯邸とよんでいる。他の家族は本邸でほとんど過ごすため、実情本当に蒼唯邸だ。


「ちょっと、怖い顔してんじゃないよ。清楚な美人が台無しだけど?」

「うるさい」


 澪は私の表情を指摘し、何が面白いのかケラケラと笑う。彼女の本質は茶目っ気溢れる笑い上戸だ。


「心当たりはあるでしょ。ホントにタチ悪い」


 そう言って私が責めるような視線を向ける。


 この2人。良いところのお嬢様達のはずなのに、自宅に集まってするのは優雅なお茶会なんかじゃない。人の目がないと、どちらも普段装着している淑女の面を剥がし始めるのだ。


「あら?昨日のパーティーの事かしら。ちゃんと、強いお嬢様感出てたでしょ。感謝してくれていいのよ」


 何故か自慢げに言われる。狙ってやってたのは分かってたけど、何に感謝しろというんだ。分かるような分からないような…。


「ちょっかいかけてきただけじゃん。なんでこっちが感謝するのよ」


「ええっ。私悲しいわ。あのまま3人で仲良く話してたらどんな噂が飛ぶか分かったものじゃなかったのよ。2年生徒会組の3分の2と、誰かも分からない新入生。しかも、あの子は特待生でしょ。贔屓し過ぎると反感を買うのよ。2人にそんなつもりはないかもしれないけど、物は言いようよ。」


 澪にまくし立てられて言葉につまる。自分だって予測した事だ。隅にいたつもりだったけど、やっぱり人目を集めていたのだろう。


「贔屓、ね。特待生の子と話したくなるのは、別に自然なことでもあると思うけど」

「そうね。私がちゃんとフルネーム知ってたぐらいだもの、興味があるのはみんな同じでしょうね」


 そういえば、しっかりフルネーム呼んで帰ってたのを思い出す。


 澪は情報網が広い。この様子なら良くも悪くも、貴宮さんの評価は届いていたはずだ。


「評判が悪いって訳では…?」

「ないわ。むしろすこぶるいい」


 特待生は、各学年10人程度いる。前にも言ったけど、その中でここまで名前が上がるのも、評判がいいのも珍しい。


 だから怖いのよ。と、彼女は続ける。


「少数派の反感が溜まるのは良くない。そこで、私が来たってこと。ちょっとぐらい冷たい態度取る人を印象付けておけば、周りが贔屓だけじゃないって伝わるでしょう。まあ、私は好奇心の方が大きいけれどね」


 要するに、彼女なりの配慮ということか。最後の一言を気にせず、そう思う。


「なるほどね。…それこそ周りからは悪役令嬢なポジってわけだ。反発派の象徴」


 私の小声を聞き取った、彼女が目を光らせる。


「それ。いいわね。面白そう」


 悪役令嬢という言葉がお気に召したらしい。




 何かを思いついた澪を他所に勉強用具を取り出す。そもそも、今日の集まった名目はこっちだ。

 何か考える彼女の思考も気になるところだけど、面白いことを好む彼女でも、自分や友だちの私に不利益がかかることはしない。


 だから、まあ、心配せずとも大丈夫だろう。


「数学の範囲ってどこまでだっけ」

「たしか、1Aの演習テキストからだったと思う」

 

 ようやく勉強に取り掛かった澪の質問に答える。


 中間考査が近づいていた。これまで築き上げてきた鈴城蒼唯というネームバリューのためにも、テストは頑張らないといけないんだ。


 ヒロインの成績も気になるし。


――――


「お疲れ様です」


 休み明けの生徒会室で、一通り仕事を終えて、席を立つ。会議の内容をまとめたりする関係で、書記の仕事は時間がかかる。


 そのため、生徒会室に残っていたのは、書記の私と会長だけだった。


「ありがとうございます。お疲れ様です」


 会長はまだ仕事が残っているようで、顔だけ上げて声をかけてくれる。全校生徒どころか、教職員からも信頼の厚い、現会長様に回ってくる案件の多いこと多いこと。


 中等部の頃より、遥かに多い量だった。中間考査は近い。要領はいいだろう会長だが、時間は取れているのか心配にもなってくる。


 完璧な会長様の実情は存じ上げないので、もしかしたら、やらなくてもできるかもしれない。


「考査も近いですし、早めにキリをつけて終わってくださいね。明日以降で良ければ、私もお手伝いしますので」


 言ってから、会長の顔を見れば、少しだけ驚いている。窓際の会長の席に射し込む夕日がなんだか綺麗に見えた。


 ああ、余計なお世話だったかもしれない。と、少し後悔する。


「お気遣いありがとうございます。でも、大丈夫ですので、鈴城さんも頑張ってください 」


 お手伝いはなしだ。


 実際、私の余裕もないし、大丈夫ならそれでいい。けど、やっぱりこの距離感なんなんだろう。割と他の人にも似たような対応をしているように思うけど、この人距離感はどうにも分からない。


 この壁を破ってくれるのがヒロインなんだろうな。


 

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