5. さながら
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※サブタイトルに番号を入れる関係で全話更新し直しました。
「鈴城先輩は、生徒会なんですよね?」
と、貴宮さんに聞かれる。
つい先日全校生徒が、会長に向けていたような、あの尊敬の眼差しをストレートで受ける。あまりに純粋なそれに、真顔になりかける。
そんな立派な人間じゃないよ!と、全身で主張したいが、人前故に諦める。素敵な生徒会の人間らしく振る舞うしかないらしい。期待は裏切れない。
「ええ。僭越ながら。貴宮さんも、生徒会にご興味がありますか?」
「あ、えっと…実は少し」
そうして、貴宮さんは、「私なんて、特待生なので、恐れ多い話なんですけどね」と、小さくなる語尾で、眉を寄せながら照れて笑う。
例えヒロインでも、場を弁えず自信満々すぎるのもいただけない。だから、そうした控えめな姿には好印象しか感じなかった。簡易なパーティーとはいえ、一応は社交の場のようなものなのだ。
心配を払えるように、私も精一杯の微笑みでかえす。
「いえ、興味を持つことは素敵なことですし、生徒会役員としてもありがたいですよ」
その後、私の質問に答える形で貴宮さんの話を聞いた。学園には慣れたか。友達は出来たか。など。ヒロインの学園生活が知りたすぎて、母親のような質問内容になってしまったことは否めない。
いっそ、これから後方母親面でもしようかな。
とか、考えながら、1番気になるところを探ろうと試みる。
「生徒会に興味があると仰ってましたが、見学でしたり、他の役員とお話しましたか?」
本当は進藤や柿原のことも聞きたいが、不自然にはできない。進展を探ろうにも、まだこれが精一杯なのだ。
「見学とかは勝手が分からなくて行けてません」
「まあ。そうですか」
「あ、でも…」
少し考えて思いついたように顔を上げる。
「会長さんと、会計?の人にはお会いしました」
ビンゴ。
成瀬と橘に会ったという。進藤と出会ったのはこちらも知っているし、そうなれば柿原と出会っていてもおかしくは無い。
第1の出会いは完了していることに安堵する。原作通りに進んでいるのだろう。
「なになに??俺の話?」
いきなり、橘が私の後ろから顔を出す。偶然か、聞き耳でもたてていたのか。飄々とした彼からは読み取れない。
「あら?誰も橘くんの話なんてしてませんけど?」
「嘘つくなって。会計の橘くんは俺のことでしょ。冷たいなあ」
「今更でしょう。ちょうど今こちらの子とお話をしていたのよ。割り込む方がマナー違反ではなくて?」
しれっと、話を貴宮さんに向ける。攻略対象とヒロイン。その対峙を見るのはこれが初めてだった。
橘は彼女に目を向ける。というか、元から彼女しか視界に入っていない。
「やあ、また会ったね。会ったことを覚えててくれて嬉しいよ〜」
橘が本当に嬉しそうだというふうに言う。
「お久しぶりです!この前はありがとうございました。おかげで何とか授業にも間に合って、どうにかなりました」
先程と打って変わってハキハキ話し始める。“この前”に何があって“ありがとうございました”なのかは、ストーリーの記憶が曖昧でも何となく察しがつく。
確か、橘との出会いは校内で迷子になったとかその辺だったはずだ。
会うのは2回目ぐらいだろうに、貴宮さんに緊張が見られないのは、きっと橘のフレンドリーさ故だろう。私は気を張ってるとどうしても堅苦しく話してしまうので、本人には言わないが少し橘が羨ましい。
「で、会長にも会ったんだっけ?どう、かっこよかった?」
やっぱりこの人しっかり私たちの話聞いていただろ。橘の言葉についツッコミを入れたくなるのを、ぐっと堪える。こういうのを表に出せば、とっつきやすくもなるんだろうけど、染み付いてしまった外ズラを外すのは勇気がいる。
貴宮さんはと言うと、橘の急な話の転換に動揺しながらも、何とか答える。
「か、会長さんですか?もちろん、かっこよかったです。改めていい学校だなって思いました」
当たり障りない言葉だ。
「へえ、新入生なのにもう我が校の会長、会計、書記の3人と会ったことあるなんて、運いいのね。会長なんて特に珍しいのに」
そんな声とともにまた第三者がやってくる。その姿を確認するまでもなく気づいて、内心で頭を抱える。
我が友人佐香澪が、「面白そうだから来ました」と言わんばかりの笑顔でこちらにやってきたのだ。美人で華がある澪は目立つし、橘や貴宮さんだってもちろん目立つ。だんだんと視線を感じはじめてしまって仕方がない。
でも、そんなことより。
「澪。なんとなく棘のある言葉を選ぶのやめてちょうだい。貴宮さんが萎縮しちゃうでしょう」
ただでさえ、私に対して萎縮しているのに。
キツめに見られがちな美人。と私が形容するように、少し釣り気味の目元とハッキリした顔立ちと身体のラインを持つ澪は、高校2年生にしてさながら大人の女性である。加えて、そんなセリフを言ってしまえば、
澪。あんた悪役令嬢みたいじゃない。
もちろん、1番攻略対象と近い異性である私がサブキャラな時点で、佐香澪は悪役令嬢でもなんでもない。なんなら、原作には出てきたかも怪しい存在だ。
「ホントだよ。澪さん。もっと優しくして貰えないかな」
「あら。そんなつもりはなくってよ。私のお友達の蒼唯さんに変な虫が着いてないか確認しに来ただけですもの。悪くはしないわ。よろしくね。橘くん。貴宮梨沙さん」
それだけ言って、澪は去ってく。お得意のウィンクを私にぶつけて。
本当にさながら大人の女性どころか、さながら悪役令嬢だ。去り際の笑い声がオーッホッホッホとかじゃなかったことだけが救いだった。
「な、なんか強烈な人ですね」
ヒロイン様が苦笑いしている。
「うん。いいんだよ、気にしなくて」
あの橘すらも笑顔が引きってる。
可愛い可愛いと言いつつ、あまり容姿に言及して来なかったが、ヒロインの貴宮梨沙はほんとに見た目がいい。
髪は薄いピンクが入った茶色で、光が当たると綺麗なピンク色にも見える。肩ぐらいまでの長さがストレートで下ろされている。身長は日本人女性の平均ぐらい。愛くるしい可愛い顔と言うよりかは、全方面欠点の無い完璧な顔。
現在それに対面している橘だって、当たり前だか負けず劣らずの美形だ。オレンジがかった茶髪はふわふわな無造作ヘア。一見無気力そうな目は気だるげだが、実は気合いが入るとキリッとする。身長もある方で、今の貴宮さんとの身長差はとてもいい。
「そういえば、勉強はどう?特待生ちゃん的には授業簡単だったりするの?」
「ええっ、そんなことありませんよ!皆さん素晴らしくて、私は授業について行くのが精一杯です」
「へー。授業着いてけてるなら大丈夫だよ。俺より賢いね」
橘が遠い目で言う。彼は去年の授業中に何度も寝ていた記憶がある。賢い以前の問題だろう。
「勉強しか取り柄がないんで、頑張らないといけないんですよ」
世の中難しいもので、謙遜を通り越した自虐ばかりも良くは見えない。私もその辺の塩梅が得意ではないけど、向上心を見せる貴宮さんはやはり推せる。