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星の継承者  作者:


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第十五章 皇帝、来訪す(1)




 第十五章 皇帝、来訪す





 夕暮れの街角を嬉しそうに歩く青年が1名。


 年齢は23、4歳といったところだろうか。


 短く切りそろえられた漆黒の髪が印象的である。


 黒で統一された上下に洒落た純白のシャツを着ている。


 首筋には細い金のネックレス。


 片耳だけのイヤリング。


 かなり洒落た格好をしているが、この青年にはそれがよく映えた。


 細身の長身でモデル並に手足が長い。


 おまけに首筋は細く、頭が小さいのだ。


 全体的にモデル体型である。


 おまけに興味深そうに輝く黒い瞳が印象的な、人目を惹く顔立ち。


 華やかで凛としたその容貌は、美形といってなんら遜色はない。


 日本人にしてはやけに白い肌が、その美貌を更に引き立てる。


 黒い衣装を身につけているせいか、彼の美貌を際立てる結果になっていた。


 ポケットに手を突っ込んで、周囲を見回しながら歩いているが、どこか物珍しそうでもある。


 チラチラと向けられる視線の主を辿れば、大抵が女性や少女だ。


 中には頬を染め、ささやき合うというおまけがつくこともある。


 しかし注目を集めることに慣れているのか(これだけの美貌の主なら当然だが)本人には感銘を受けた様子もなかった。


「へ……」


 近くの路地から現れた青年が、慣れた呼び方をする前に、彼は軽く片手を上げた。


 それでハッとしたのか、名を呼びかけた青年が早足に近づいた。


「どうだ。わかったか、翠すい?」


 低く耳障りの良いテノール。


 容姿に似合った声質だ。


 新たに現れた翠と呼ばれた青年が、ホッとしたように頷いた。


「場所は掴みました。参りましょうか、衛えい」


 大仰に頷いてみせて衛と呼ばれた青年が歩き出す。


 その隣に並んで歩きながら、翠は歩く速度を彼に合わせた。


 衛えいも決して低いわけではない。


 おそらく180近くはあるだろう。


 しかしながら傍らを歩く青年、翠すいは文句もつけられないほど更に高い。


 190近くはあるだろう。


 目線の位置が変わってしまう身長差があれば、どうしても脚の長さも違ってくる。


 おまけに衛は華奢といえるほど細身の青年だが、対する翠は屈強な、とまでは言わないものの、衛と比較すれば男らしい身体付きをしていた。


 衛の方が線が細く色白で、翠は健康的な肌の色をしている。


 どうみても翠の方が健康そうで体力もありそうだ。


 どちらも負けず劣らずの美形だが、衛を華やかな美貌と形容するなら、翠は凛々しい美貌といった雰囲気がある。


 年齢もすこしばかり翠の方が上らしく、どうみても24、5には見えた。


 ふたりで並ぶと一種独特の雰囲気があり、道行く人々が唖然としたように注視する。


 それらを意識することなく、ふたりは自然体で歩を進めた。


「ところで翠。同じ服装の者を多く見掛けるが、あれは一体なんだ?」


 解せないと衛が指差すのは下校途中の中学生である。


 男子は一様に学ランを着て、女子は古典的なセーラー服だ。


 保守的な制服を伝統に則って守っているのだ。


 普通なら訊ねるまでもなくわかるはずである。


 が、問われた翠も軽く首を捻った。


「どうも近衛が身に付けるような制服の一種のようですね。ずいぶん若い世代の者が身に付ける制服のようですが」


「そのくらい見ればわかる。役に立たん奴だな、そなたは」


 ふてくされてしまう衛に翠は笑いながら「すみません」と頭を下げる。


「道端に置いてあるあの箱はなんだろうな? なにやら奇怪な物が並んでいるが」


 気味悪そうに衛が見ているのは、なんと自販機である。


 タバコの自販機もあれば、ジュースの自販機もある。


「あれはおそらく飲み物です。先程購入して飲んでいる者を見掛けましたから。もうひとつの方はよくわかりません」


「飲み物? 飲んでみたい。買ってこい」


「おやめください。ここは宮ではないのですから」


 頭から叱りつけられ、またまた衛はふてくされる。


 不機嫌そうに押し黙る幼なじみ兼従弟に翠は苦笑した。


 目的地まで歩く道すがら、衛は興味深そうに周囲を見ていたが、やがてスーツ姿の青年と話すひとりの少年に目が止まった。


「相変わらず強引ですね、兄さんは。いきなり食事に付き合え……ですか」


 ガックリ肩を落とした弟に兄は悪びれずに笑う。


「別に構わないだろう? 予約は入れてある。早くおいで、隼人。久しぶりだからね。色々こちらでの話も聞きたい」


「ぼくの都合はどうなるんですか。先約があったんですよ?」


 いやだいやだと訴える隼人に、結城財団の若社長は物悲しげに肩を落とす。


 当て付けにも見える仕草に隼人は呆れて開いた口が塞がらない。


 この兄は立派な大人のくせに、隼人の前ではまるで子供である。


 どちらが兄かわからないなと、思わずため息まで出てしまう。


「わかりました。付き合いますよ、今回は。当て付けはやめてください」


 不承不承ではあったが隼人がそう言うと、冬馬は実に嬉しそうに笑った。


 そそくさと車へと弟を連れていく。


 移動しかけた隼人は、ふとこちらを眺める二人連れに気がついた。


 特に強い視線を感じたのは線の細い青年の方である。


 真正面からふたりの視線がぶつかる。


 怪訝そうに瞳を細め、衛を眺めていた隼人は、兄に促され車に乗り込んだ。


(どこかで逢った?)


 何故そう思うのか、隼人にもわからなかったが、印象的な視線を感じた青年を知っていると感じたのだ。


 しかし何度考えても知人ではなく、名前すら浮かばない。


 既視感だけを抱いた青年を隼人は見えなくなるまで目で追っていた。


「あの少年がどうかなさったのですか、衛?」


 傍らから怪訝そうな声。心ここに非ずで衛はゆっくり首を振る。


「ただ……なんとなく……」


 意味もなく惹かれるものを感じた。


 それを上手く言葉で表現する自信は、今の衛にはなかった。


 なにが引っ掛かるのか、それさえも理解していないのだから。


 走り去った車はとうに見えなくなっているのに、未だに視線を固定したまま動かさない衛に、翠も道路の向こうに眼をやった。


 暮れかかる夕暮れの空に、答えなんてありはしないけれど。





「イテッ」


 夕食の準備の最中に、めずらしく包丁で指を切った。


 赤い血が流れ、ため息をつき指先を口に含む。


 そのまま手当てをしようと動いた遠夜に、近くに控えていた樹が腕を伸ばした。


「かして。ぼくが癒すよ、遠夜」


「え……」


 強引に腕を引かれ断る隙もなく、樹に指先を舐められた。


 血を舌先で拭い、そのまま口に含まれて、遠夜は小さく息を噛む。


 驚愕に抵抗することも忘れ、ただじっとしている遠夜に、顔を上げた樹が叱りつけるように睨んだ。


「もうすこし気をつけてほしい。包丁でケガをするなんてきみらしくない」


「ごめん」


 謝りながら指先を見れば、結構深く切ったのだが、綺麗に完治していた。


 さすがに慣れている。


 一門の宗主ならこういう真似もできるのだろうか?


 治癒までできるとは思わなかった。


 海里も同じ台所にいてふたりのやり取りを見ている。


 大地の方は所用があって出掛けていた。


 その意味を理解しているのは海里だけである。


 樹には報告したかったのだが、今日は土曜日で、週休2日制の学園に通っている遠夜は、土曜は休みの日なのだ。


 遠夜の生い立ちのせいか、正体が判明する前から、家族の触れ合いを大事にしていた樹は、朝からずっと遠夜の傍に控えている。


 そのせいで言えなかったのだ。


 何度か隙を探ってみたが、樹が見事なくらい遠夜を優先しているので、現在では諦めていた。


 遠夜は未だになにも知らない。


 そのために彼がいる場で打ち明けることができなかったのである。


 事は故郷に関わってくることで、「和宮樹」に関わることではなかったので。


 遠夜の前でうかつに説明しようものなら、隠していることをすべて打ち明ける必要性が生じる。


 それは都合が悪かった。


 そういった権限は海里にはなかったので。


 唯一、命令をくだせる樹に、その気はないようだったし、尚更なにも言えなかったのである。


 すこしぐらい気づいてくれてもいいだろうにというのが、密談をしたくて傍に控えている海里の感想だった。


「ぼくが傍にいると、そんなに落ちつかない? 何度目? そうやってケガをするの」


 ため息まじりの嫌味に、遠夜は「うっ」と答えに詰まる。


 そうなのだ。


 このところ樹は食事の支度のときとか、テレビを見ているときとか、必ず遠夜の傍にいる。


 以前から家族としての触れ合いを、大事にしてくれる義兄だったが、このところはすこし度を越えていた。


 特にキッチンでなにかしているときには、どんなに大切な仕事があっても、必ず中断して傍にいるのだ。


 かといってなにをするわけでもなく、ただじっと遠夜を見ているだけ。


 正直に言えば視線が気になって、落ちつくどころの話ではなかった。


「……だってさぁ。すっごく気になるんだ。なんでそこにいるわけ? そんなにじっと見られたら、おれだって気になって落ちつけないって。手伝ってくれるわけでもないのに、なんでそんなにおれを見てるんだ、樹は?」


「ぼくだってきみひとりに家事をさせて、平気なわけじゃないんだよ? ひとりで呑気に構えているのも悪いと思っているし……。でも、手伝いたくても足手纏いになるから」


「それで傍で見てるわけ?」


 呆れた、と、顔に書いた遠夜に、樹は気まずい顔で首肯する。


 もともとそういう気持ちは強かったのだが、紫苑だとわかったことでさらに強くなった。


 なにしろ、惺夜にとっては護るべき相手であり、言い換えるなら主人でもある。


 継承者に家事をさせ、三度三度の食事の支度までさせる守護者など、前代未聞だ。


 堅苦しいほど礼儀正しい樹にしてみれば、このところ恐縮しまくっていたのである。


 そんなこととは知らない遠夜は素直に呆れていた。


 気を遣うにしても他に方法はなかったのかと。


 気を遣った結果がこれではあんまりである。


 海里は微笑ましいふたりのやり取りに、つい笑っていた。


「あのさあ、3年近くこういう状態でいて、今更なにを気にしてるんだ、樹?」


「いや。だから、ぼくは……」


 まだ言い募ろうとする樹に、軽く首を振り遠夜は微笑みかける。


「気にするなよ。半分くらい自業自得なんだし」


「自業自得?」


「だっておれが厄介な事情なんて抱えてなかったら、別に人を雇うことぐらい、樹には造作もないことなんだ。でも、おれのことを考えて不自由な生活を送ってくれてるんだから、おれは別に気にしてないよ」


「……そのわりにはいつも文句を言ってない、きみ?」


 疑い深そうな樹に遠夜はケラケラと笑った。


「納得してても文句くらい言うって」


 納得できないと顔に書いている樹に遠夜は肩を竦める。


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