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星の継承者  作者:


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第十四章 痛みの記憶(4)

 財閥の当主として自分より年上の者たちを指揮してきたのだ。


 年齢の意味を問うこと自体が間違いなのかもしれない。


 だから、このときも疑問は投げ掛けずに、遠夜は海里と一緒に学校へと向かった。


 ふたりが出ていくと樹が惺夜として大地を振り向いた。


「なにかあったのかな? 海里の態度からして故郷絡みだと思うんだけど」


「詳しい説明を致します。リビングの方へ移動してからご報告したいのですが?」


「そうだね。玄関先で立ったまま説明を受けるのはいやだからね」


 そう言って樹が先導するように先に立って歩き出した。


 リビングに移動すると樹は自分専用の椅子に座り、大地にその向かいに座るように合図した。


 その身分を思えば不敬罪だが、樹がそうしろと言っているのである。


 言われて逆らうのも不敬罪だ。


 大地は樹に指図された通り彼の正面に腰掛けた。


「それでなにがあったのかな?」


「皇帝陛下が地球に来訪されます」


 あれほどくどく言われたのに、結局結論から口にしてしまう、徹底して説明に向いていない大地である。


 一瞬呆気にとられた後で樹は、これは余程巧く誘導しないことには、まともな理由はわからないと気付いた。


 これなら海里に説明してもらう方が楽である。


 まあ遠夜がいたらできない説明なら、大地がするしかないのだが。


 遠夜の守護が海里の役目なのだから。


「兄上が地球に? どうしてそういうことになったのか訊いてもいいかな?」


「昨夜自宅で皇帝陛下に連絡を取り、おふたりが再会されたこと、現在は義兄弟として同居されていることなど、最近の近況をご報告致しました」


「きみたちは故郷にいる兄上と直接連絡を取れるのかい?」


 驚いた顔をする樹に大地は頷いてみせた。


「陛下のたってのお望みで直接、連絡を取ることが可能になりました。その手段も陛下から頂きましたので」


「驚いたよ。地球にいて兄上と連絡が取れるなんてね。兄上か。ずいぶん懐かしいね。それでどうして皇帝として多忙を極める兄上が、地球にやってくることになったんだい? ちょっと問題だと思うんだけど。第一翠が認めないよ。そんな危険なこと」


 翠の過保護ぶりを知っている樹にしてみると、樹の決断は無謀だと言わざるを得ない。


 大体皇帝がやるようなことではない。


 皇帝が故郷を離れてどうするのか。


 だが、一度言い出したら引かないのも衛の特徴なのである。


 いい意味でも悪い意味でも。


 これはなにかあったのだなと樹は解釈する。


 それを大地から訊き出せるかどうかには自信はなかったが。


 大地は徹底して説明に向いていないのだ。


 詳しいことを知りたかったら、海里の帰宅を待つしかないかもしれない。


「こちらの近況を説明した後で惺夜さまの近況、紫苑さまの近況など、陛下がお知りになりたがったことは、すべて教えしました。その結果、陛下はご自分が介入なさることで、紫苑さまや惺夜さまの記憶が戻る手助けになるのではないかと仰せになり」


「それっ地球にくることにしたっていうのかい? 無謀だね」


「わたしたちも何度もお止めしたのですが、陛下は頑として引かず来訪すると言い切られました。そのときには連絡が入ることになっているのですが」


「どうやって?」


「おそらく陛下から頂いた連絡方法である水鏡に連絡が入ると思います。惺夜さまも連絡を取られますか? なんでしたら今からでも陛下と連絡は取れますが」


「兄上と連絡を取る?」


 不思議な感じのすることだった。


 遠い昔に死に別れた兄と逢えるなんて。


 兄はあの頃から変わっていないのだろうか。


 皇帝なのだ。


 おそらく出ていったときと、そう外見は変わっていないだろう。


 時が逆流していくような気がする。


 衛……兄上。


「いや。今はやめておくよ。心の準備ができていないし、それに待っていれば兄上は地球に訪れるんだろう?」


「はい」


「だったらそのときに逢うよ。きっとその方が何倍も嬉しいだろうから」


 あれだけ可愛がってくれた兄に逢える。


 それは不思議な暖かさを伴って樹に感動を与えてくれた。


 どうして近況を聞いただけで、来訪する気になったのかは、大地の説明ではわからなかったが、その辺は帰宅してから海里にでも聞けばいい。


 衛に逢える。


 そう思うとそれだけで樹は懐かしさで胸が一杯になるのだった。





「おはよう。隼人。今日も元気ないな。ここのところ毎日じゃないか?」


 自分の席まで移動してから、遠夜は隣に座っている隼人に声を投げた。


 隼人は全然気付いていなかったのか、声をかけられてから、びっくりしたように遠夜を振り向いた。


「遠夜だったのか。驚いたよ」


「本当に元気ないな。なにかあったのか? もしかして樹と連絡を取れる状態になっていないから、兄さんに責められたとか?」


 遠夜の的外れな気遣いに隼人は苦笑した。


「それはないよ。兄さんはとてもぼくを可愛がってくれているから」


「ふうん。それならいいんだけど、それにしては元気がないな。ここんとこ毎日だぜ? なにか理由でもあるのか? おれで力になれることならなんでもするけど」


 本当に優しい少年である。


 葉月に似た遠夜。


 彼になら言ってみてもいいかもしれない。


 他愛のない夢の話を。


「最近、夢見が悪くてね」


「なんか変な夢でも見てるのか?」


「大昔の日本の夢だよ。古事記とかに出てきそうな古い時代の。でも、魔物とか神様も出てくるんだ」


「へえ。ファンタジックな夢だな。それでどうして隼人の元気がなくなるんだ?」


「その中でぼくはいつも同じ名前で呼ばれていてね。夢を見る回数が増えるほど記憶に自信がなくなってくるというか。夢の中のぼくとこのぼくと、一体どちらが本当のぼくなのか、わからなくなってくるんだ」


「隼人」


「ある人にぼくが見ている夢は現実だって言われた」


「現実? 魔物や神様の出てくる夢がか?」


 怪訝そうな遠夜に自分も同じ気分で隼人が頷いた。


「それはぼくの過去だとそう言われたんだよ。だから、それが夢でも疑わずに受け入れること。そうすることでぼくは知るだろう。そう言われた。だから、余計に悩んでしまってね」


「予言者みたいな言葉だな。信じられるのか? そいつ」


「さあ? 少なくとも嘘はついていないみたいだよ。実はぼくは小さい頃から、その不思議な夢を見ていてね。その夢にね。ある事件のときに聞いた名前の少年が出てくるんだよ」


「なんて名前?」


「惺夜という名前だよ」


 ギクリとして青ざめるのが自分でもわかった。


 どうしてだろう?


 胸が痛くなってくるような名前だ。


 聞いたこともないのに。


 いや。


 それともあるのだろうか?


 この既視感はそのせい?


 なにか大切なことを忘れている。


 そんな気がしてならなかった。


「どうかしたのかい、遠夜?」


「別に。なんとなく気になって」


 まさか彼も関わっているのか? と、隼人の顔に疑惑が浮かぶ。


 だが、遠夜はそのことにすら気づいていないようだった。


 なにかに戸惑っているような、混乱しているような顔をしている。


 夢がすべて現実でもし今に繋がっているのなら、彼もいるのだろうか。


 生命を捧げることさえ躊躇しなかった「彼」も。


 もしもあの夢が隼人の予想どおり前世の夢だとしたら、惺夜も紫苑も実在していなければおかしい。


 だがそんな夢のような荒唐無稽な話があっていいのだろうか?


 隼人はまだ信じることができずにいた。


 そういえば夢に出てくる生徒会長、紫とそっくり同じ顔をした吸血鬼、魔将、紫と精神生命体である幻将、蓮。


 彼らが今自分たちの傍にいるふたりだとしたら?


 そしてあの夢が本当に隼人の前世なら、必ず惺夜や紫苑の転生者もいるはずだ。


 条件はすべて同じなのだから。


 では隼人は本当に人間ではないのか?


 その夢を暗示した海里はいったい何者だ?


 どうして今、隼人の傍にいて、謎かけのような言葉ばかり繰り返すのか。


 考えだすと止まらない疑惑に、隼人はいつまでも不思議な表情を浮かべている遠夜を見ていた。





 時は螺旋を描いて運命の輪を回す。


 海里や大地の登場もある意味では歴史の必然なのだ。


 そうあるべく定められた運命。


 その中心に位置するのは遠夜こと、紫苑。


 継承者以外に運命の中核になれる者はいない。


 いるとしたら衛ひとりだ。


 その衛が地球に訪れるときも近い。


 そのとき、なにが動きだすのか、それはまだだれも知らなかった。


 どうでしたか?


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