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星の継承者  作者:


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第十四章 痛みの記憶(2)

「陛下にはずっとご報告する決心ができなかったのですが……」


『なんだ? 海里のそんな顔は初めてみるが』


「紫苑さまがお生命を墜とされた原因について、です」


『そのことについては以前、わからないと報告を受けていたが?』


「……本当はわかっていたのです。惺夜さまがお産まれになってから、紫苑さまがお産まれになるまでの空白を利用して、何度も過去に意識を飛ばした結果として」


『なぜ黙っていた?』


 衛の静かな声に海里は一度きつく目を瞑った。


 今から自分が告げる内容が、衛に与える衝撃を思って。


「……陛下にはお伝えしにくい内容でしたので……」


『どういう意味だ?』


「まず時を遡ってご説明致します」


 衛の怪訝そうな問いを断ち切るような勢いで、海里がそう言い切った。


 珍しい海里の強引さに、これはよほどの理由がありそうだと気づいた衛も、神妙な顔になっている。


 これから彼のする説明に耳を傾けて。


「おふたりがこの星に降りられるより早く、地球に干渉していた者がいます」


『なんだって?』


「その者が魔族、幻族、鬼族を纏め、やがては魔族の王と呼ばれる立場になりました。その結果としてこちらの人間たちは、存亡の危機に立ち、そこへおふたりが介入なさったのです。人間を庇う守護神として」


 海里の説明は腑に落ちない点があった。


 先に介入していた者の名前を言っていない。


 そのことに気づき、衛は不安な気分になった。


 なにか知りたくない内容を聞く、そんな気がして。


「幾度かの対戦の後に、おふたりは相手の将軍とも言うべき人物に逢いました。そのときからです。紫苑さまの態度がおかしくなったのわ」


『…』


「惺夜さまも幾度も理由を問われましたが、紫苑さまがその理由を説明なさることはありませんでした。そうして最終決戦を迎えたのです。人の子と魔物の生存権を賭けた戦いが」


 海里は自分の言葉が衛に与える痛みの強さも深さも知っている。


 なにも言われないのは彼もわかっているからかと苦い気分になる。


「その戦いで紫苑さまは敵軍の将を討ちました。そのときに風の竜を操っていたのですが、敵の将軍を倒した時点で紫苑さまは無防備な状態になられ、一時的に制御を忘れてしまったのです。

 その結果として風の竜が暴走。紫苑さまは標的となった人物を庇うため、暴走の進路を変更され、ご自分を標的になさったのです。

 それが紫苑さまがお生命を堕とされた原因です。奇しくも相討ちに近い形で、両軍の将は倒れました。それが過去に起きた戦いの顛末です」


『敵軍の将の名はなんという? さっきから海里は名前を口にしていない。それがわたしに言えない理由だったのか?』


 衛の静かな問いに海里は目を閉じる。


 できれば言いたくない。


 だが、その後のことを説明するためにも言わなければならないのだ。


 例えその一言が衛を傷つけても。


「……水樹さま、とおっしゃいます」


『水樹……だって? 今紫苑と敵対していたのは水樹だと言ったのか?』


 衛の勢いに押されながら海里は苦い表情で頷いた。


 背後では衛の傷ついた様子を覗き見た大地が、同じ表情で痛ましそうに皇帝、衛を見ている。


「そうです。……公爵さまです」


『……兄弟で殺し合ったというのか。あれほど必要としていたふたりがっ!!』


 頭を抱え込んでしまう衛を、ふたりが痛ましげに見ている。


 衛の受けた衝撃はふたりにも想像できない。


 今どんな気分でいるのだろう?


 それは想像することもできない次元の話だった。


「公爵さまの望みは実の弟君であられる紫苑さまに討たれることのようでした。決戦の場面は過去へ意識を飛ばし覗き見ましたが、水樹さまは抵抗ひとつされず、逆に震えて脅えている紫苑さまを招かれました。紫苑さまによるトドメを望むように」


『信じられない。どうしてそんなことになったんだ? あのふたりは見ている方が微笑ましくなるほど、お互いを必要としていたのに』


「その辺りのことはわかりません。紫苑さまと水樹さまご本人にお訊ねしないことには。推測でしか判断できません。それに推測で判断できるようなことでもございませんし」


 海里の声も耳に入らないといった素振りの衛である。


 彼を傷つけることはわかっていたが、実際に傷ついた衛を目の前にして、海里は自分の選択が間違っていたような気がしてきていた。


 やはり口にするべきではなかっただろうか?


 衛にとってはあまりにも辛い事実だ。


 公爵水樹は無二の親友だったというし、その実弟である紫苑は、彼が養子として迎え入れ目の中に入れても痛くないほど溺愛していた少年だ。


 そのふたりが殺し合い相討ちになったと聞いて冷静ではいられないだろう。


『海里が言えなかった気持ちはよくわかる。わたしを傷付けると思ったからだろう?』


「はい。陛下にとってどんな事実よりも、辛い真実だと思えましたので」


『その思い遣りは有難いと思う。だが、これからは隠さずに教えてくれ。すべての結果を招いたのは、わたしの選択によるもの。逃げるわけにはいかない。それがどんなに辛い現実でも』


「皇帝陛下」


 傷付いた目をしていても現実から目を逸らさない衛に、海里は自分の選択が間違っていないことを知った。


 衛はどんなに辛い現実にも立ち向かっていける人だ。


 こんな皇帝に仕えることのできる自分たちは幸せ者だと海里と大地は思った。


『だが、もう水樹はいないのだな。一言も謝れないまま逝ってしまったのか』


 後悔の色を見せた衛に海里はすこしだけ笑った。


「昔はそうだったかもしれません。ですが現在もそうだとは限りません」


『どういう意味だ? 水樹はもう遥かな昔に』


「同じ頃にお生命を墜とされた紫苑さまと惺夜さまは復活されているのですよ? 皇家とも縁深い公爵だけが例外だと思われますか?」


 うっすら笑みを浮かべた海里に、衛は大きく目を見開いた。


『水樹も転生しているのか』


「はい。現在は結城隼人と名乗っておられます。不思議なことに遠夜さま、つまり紫苑さまの今生でのお名前ですが、遠夜さまと同じクラスの一員なのです。ご兄弟であることに気付き、わたしが隣同士にしてしまいましたが」


 少なくとも幻族の長たる幻将、蓮を傍に置いておくより安全だと思ったのだ。


 海里が蓮を移動させたのは、彼の秘密を知っているからだった。


 遠夜にとって重要な意味を持つ存在である隼人。


 ふたりの仲を取り持ちたかったのである。


 過去の過ちを現在の関係で修復できることを祈って。


『水樹の記憶の方は?』


「覚醒間近といったところでしょう。どうも幼い頃から前世の記憶を夢で見ていらしたようで、疑問を抱いていらっしゃるようでした。かなりの範囲の記憶が戻っておられるようでしたので、公爵が覚醒されるのは時間の問題だと思われます。むしろ紫苑さまはもちろんのこととして、惺夜さまの覚醒の方が問題があるように思われます」


『と言うと?』


 短く促す衛に海里はここ最近に起きたことをすべて打ち明けた。


 事件が切っ掛けとなって樹と逢ったこと。


 彼にすべてを話して聞かせたこと。


 そして現在はふたりと同じマンションに住んでいることなど。


 どうでしたか?


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