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星の継承者  作者:
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第二章 和宮一門(1)




 第二章 和宮一門





 遠夜が樹の勧める藤崎学園に編入できたのは、突然、倒れて1週間ほどが過ぎてからだった。


 倒れた当日が編入予定日だったから、この1週間、樹は今日も行けないという旨の報告を学園側にやっていた。


 藤崎学園の理事長は和宮一門の宗主であり、現在では樹がやっている。


だから、行けるようになってから連絡するだけでもよかったのだが、一応、義務は果たしたというわけである。


 1年A組に転入させられた遠夜は、和宮の姓は名乗らず、引き取られる前の宮城姓を使っていた。


 これは樹と相談した結果である。


 和宮の名前はやはり有名で、和宮遠夜などと名乗ろうものなら、野心をもつ者たちに嗅ぎ付けられでもしたら、厄介な目に遭いかねない。


 厄介事は避けるにこしたことはないので、和宮の姓は名乗らないことに決めたのだ。


 それに遠夜としても財産目当てだなんて思われたくないので、和宮の名は名乗りたくなかった。


 樹は遠夜を引き取った直後に本宅を出て、姿をくらませてしまったので、現在ふたりが住んでいるマンションには、一門の関係者は訪れない。


 それは樹が遠夜を一門に紹介していない現実を意味した。


 樹が一門をきらっていることもあるのだろうが、彼が遠夜を一門に関わらせまいとしていることは事実である。


 それに遠夜は別段、和宮の遺産は欲しくなかった。


 何故なら父から莫大な遺産を受け継いでいたからである。


 成人するまで遺産の管理は樹がやっているが、必要なら使えばいいとは言われていた。


 父は謎めいた人だった。


 生涯仕事をもたず、家も転々としていた。


 それで収入源を気にしないわけがなく、遠夜が10歳になったばかりの頃、どうやって生計を成り立てているのか訊いたことがある。


 そのとき、父が莫大な遺産を受け継いでいることを知った。


 まったく父の受け継いだ遺産は、目の回るような額だった。


 遠夜は金額を訊いたが、わからないとしか言ってもらえなかった。


 わからないほどの額を受け継いでいる、と。


 当然、相続税などもあったはずだが、それは樹がなんとかしたようだった。


 金銭感覚的に庶民派の遠夜は、「そんなに莫大な遺産があってもなあ」と思っている。


 使いきれないと。


 せいぜい税金として搾り取られるのがオチだろうと。


 が、父の遺産は相続税を払った後でも、すこしも減らないようだった。


 これは樹から聞いたことである。


 どうやって相続税を払ったのか訊くと、彼は遠夜名義の株券をすこし処理しただけで済んだと言ったのだ。


 ほとんどの遺産は手付かずて残っている、と。


 これで財産目当てだなんて言われるのは、遠夜としては業腹である。


 尤も。


 和宮の次男となった遠夜が、それだけの資産家だということは知られていないのだが。


 藤崎学園は一門の宗主が理事長をやっているだけあって、名門の子弟や令嬢ばかりが集まっていた。


 なんだか分不相応だなあと思いつつ、遠夜は今日も樹の運転で学園に送ってもらっていた。


「樹さあ、おれと出逢ってから、一度も学校には通わないけどなんで? それに樹ってまだ17だよな? 運転免許取れないだろ? なんで堂々と運転してるんだ?」


「言ってなかったかな?」


 器用にハンドルをさばきつつ、樹が視線だけを投げた。


「ぼくは10歳のときに修士課程を終えていてね。通学の必要がないんだ。いくつか博士号も持ってるし、実は教員免許も持ってるんだよ。これは単なる道楽で取ったものだけど」


「樹って天才だったんだあ?」


「アメリカではそんなことも言われたね。運転に関しては実家のコネだよ。警察も和宮一門の息がかかってるから、検挙されても問題視されないし。まあいいことではないんだろうけど」


 要するに裏から手を回しているということである。


 それで堂々と振る舞っているのかと、遠夜は呆れてしまった。


 一門のことはきらいだと言いながらも、そういうところではちゃっかり利用する樹に呆れて。


 たぶん検挙されたときのために、偽造された運転免許証でも持っているのだろう。


 末端にまで一門の手が伸びているとは限らないから、その場を切り抜ける手を持っている方が無難だろうから。


「それより転校して3日経つけど友達はできたかい? その手の話はまったく聞かないけど」


「友達なあ。おれとしては深入りしてほしくないから友達はいらないかな」


「気にしなくていいのに。きみはぼくが護るよ」


「樹にも深入りしてほしくないんだけど?」


「遠夜?」


 意外なことを言われ、樹が振り向いた。


「樹にまで危険な目に遭ってほしくないんだよ。自分の身は自分で護るよ」


「気にしなくていいよ。これはきみを引き取るときの、きみのお父さんとの約束だから。ぼくは納得してきみの傍にいる。それを忘れないでほしいな。さっきみたいな気の使い方はされたくないよ」


「ごめん」


 生まれたときから追われ続けている遠夜は、その境遇的に友達とは縁がなかった。


 樹が気にしたのも、これまでの彼の生い立ちを知っているからである。


 そこで遠ざけるようなことを言われ、すこしだけ傷ついていた。


 樹はすべてを承知て遠夜を引き取った。


 そのために生じる厄介事はすべて引き受ける覚悟がある。


 それをわかってほしかった。


 校門のところで車を停めると、遠夜が鞄を片手に助手席から外に出た。


「なんだか賑やかだね。なにかあるのかい? まだ朝も早いっていうのに」


「ああ。もうすぐ学園祭なんだよ。そのときに生徒会が劇をやるとかで、一般の生徒からも立候補、推薦なんでもアリで、配役やら裏方やらを募ってるんだ。そのせいで落ち着きがないだけ。まあおれには関係ないだろうけど」


「推薦されても受けたらダメだよ。きみが目立つのは御法度なんだから」


「だったら送り迎えやめてくれる? 樹がくるだけで目立つって。ちょっとは外見考えてくれよ」


 情けなさそうな遠夜に樹は不本意である。


 好きでこんな外見に生まれたわけではないのだ。


 大体、遠夜と樹は顔立ちがよく似ている。


 義理ではなく、実の兄弟と名乗っても、だれも疑わないくらいには。


 出逢った当時はそうでもなかった。


 遠夜がどんどん樹に似てくるようになったのは、つい最近である。


 成長と共に遠夜は樹に似てくるようになった。


 遠夜の両親は天涯孤独だと聞いていたから、遠夜も樹と出逢った当時は驚いたものだ。


 樹が亡くなった父親によく似ていたので。


 当時は子供の頃は父親に似ているなんて言われたことはなかったが、今の彼なら父親似だと言われるだろう。


 つまりはそういうことである。


 樹の美貌が完璧で目立つなら、当然、似ている遠夜も目立つということである。


 推薦されても受けるなと樹がクギを刺したのも、外見のせいで推薦される可能性があると見抜いてのことだった。


「学校が終わったら迎えにくるから」


「ちょっとは自由な放課後を味わわせてくれよ」


 嘆く遠夜を無視して樹は車を発進させようとした。


 そのとき遠夜の隣に並んだ男子生徒が、当然のごとく彼に声をかけて、ちょっとだけ視線を投げた。


「よう宮城。今日も車での登校か?」


「秋月か。うん。そうだけど?」


「名字で呼ぶなよ。蓮って呼べよ。名字で呼ばれるのキライだって、初対面のときに言っただろうが」


「ごめん。つい」


 こめかみを掻く遠夜に樹がきつい目を向けた。


(蓮?)


 その名が引っ掛かったのだ。


 いつもならさっさと引き上げている樹が、いつまでも車を発進させないので、遠夜が窓から覗き込んだ。


「どうしたんだ、樹? 帰らないのか?」


「もう帰るよ。隣にいるのは遠夜のクラスメイトかい?」


「うん。秋月蓮っていうんだ」


「蓮……」


 重々しく呟く樹に蓮が視線を向ける。


 それはなにか秘めているような、なにかを含んだ視線だった。


「蓮。こっちはおれの兄貴の樹。よろしくな」


 言ってから遠夜はこの場の妙な雰囲気に気づいた。


 樹も蓮もじっとお互いをみている。


 まるで知り合いのような態度だった。


「樹? 蓮のこと知ってるのか?」


「昔の知り合いに同じ名の人がいたから、もしかしてと思っただけだよ」


「当たってるぜ?」


 皮肉な笑みで言われ、樹が表情を険しくさせる。


「きみがこの学園にいるとはね。手の内にいるとは思わなかったよ」


「敵視される前に恩を売っておく。紫もいるぜ?」


「え?」


「生徒会長やってるよ。栗原紫はな」


「あの糸の切れたタコが生徒会長? 世も末だね」


「それは俺も同感だ」


「今日の放課後ふたりに話がある。紫にもそう言っておいてほしい。じゃあ」


 言うだけ言うと樹は車を発進させた。


 見送って遠夜は隣に立つクラスメイトを振り向いた。


「樹と知り合いだったんだ?」


「まあ腐れ縁ってやつかな」


「生徒会長とも?」


「幼なじみってのともちょっと違うんだけどな。それより教室に行こうぜ。もうすぐ予鈴だ」


「わっ。ほんとだっ」


 慌てだす遠夜に蓮が小さく笑った。





 校門に駆け込んでいくふたりを見送る人影があった。


 海里である。


 電柱に隠れていたので、だれにも気づかれていなかったが。


「幻将、蓮か」


 小さく呟く。


 樹が警戒するのも無理からぬことである。


 かつて敵対していた幻将が相手では。


 遥かなる昔、日本には3種族の魔物がいた。


 親から子へと力が受け継がれていく鬼族と、不特定多数の魂だけの種族である幻族。


 そして残りの魔物を統括して呼ばれた魔族。


 鬼族を統べていたのは鬼女王、綾乃。


 その補佐をしていたのが鬼将、悠。


 幻族を統べていたのが最強との誉れも高かった幻将、蓮。


 魔族を統べていたのは吸血族の長であり、その力の強さでは幻将にも鬼女王にも劣らない魔将、紫。


 幻族は人間の死骸を器とする。


 それで剥き出しの本体を護るのだ。


 つまりあの蓮も器は死んでいることを意味する。


 人間として生きるために力を使って、体温を保ち心臓を動かしているのだろう。


 死体が腐乱しないようにも気を使っているはずだ。


 でなければ人間としては暮らせない。


 蓮の言い分を信じるなら、魔将も生徒としてこの学園にもぐり込んでいるらしい。


 紫苑さまの死因となった魔将、紫が。


 樹と逢ったらいったいどんな事態になるだろう?


「どちらにせよ。動くべき時がきているということか。放っておけないね、さすがに」


 呟いて気配と姿を消すと遠夜の後をついていった。




 どうでしたか?


 面白かったでしょうか?


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