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星の継承者  作者:


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第十三章 紫苑一SHION一(3)

 同性として生まれた衛と翠、そして紫苑と惺夜はそういった意味では悲劇的だったのかもしれない。


 どんなに愛しても報われない愛だからだ。


 まあ翠も惺夜もそういう意味で、継承者を見ているわけではなかったが。


 だが、もし衛や紫苑が異性だったら、ふたりは即婚約を申し込んだろう。


 継承者と守護者とはそういう関係なのだ。


 継承者は必ず男性として生を受けるので(未来の皇帝なのだから当然だ)この場合、守護者であるふたりの性別が問題だったことになるのだが。


「紫苑の件では惺夜にかなり助けられているよ。紫苑も惺夜にだけは心を開いていて、どんなワガママを言っているときでも、惺夜のにだけは心を開いていて、惺夜の言うことだけはきくから」


「きかないと後が怖いからではないですか? 惺夜はああ見えて強情だし、結構怒ると怖い一面がありますからね」


「惺夜は翠に似ているのだな。困ったことだ」


「それはどういう意味ですか、衛?」


 眉間に皺など作る守護者に衛は曖昧に微笑むばかりだった。





 絶食はやめよう。


 紫苑がそう決意したのは、食事を終えた後の散歩のせいだった。


 満足に歩けなかったのである。


 継承者はそれでなくても肉体的な問題を抱えているのに、必要もない絶食をしたものだから体力が衰えてしまったのだ。


 これでは必要なときに動きだせない。


 せっかくあの人のことを調べると決めたのだ。


 いつでも動きだせるように体調を整えていたほうがいい。


 そう決意していきなり優等生に変わった紫苑に、惺夜はうさんくさそうな目を向けていた。


 なにか企んでいるのではないかと疑う目だった。


 本当に惺夜はいやになるほど鋭い。


 動き出すときは惺夜が動けないときがいいだろう。


 紫苑はそう決めて動きだすときを待っていた。


 頼りになるのはおぼろげに憶えている過去の記憶だ。


 それだけを頼りに他人に聞いて歩くしかない。


 王宮まで馬車で移動したのなら、実家はそれほど離れていないはずだ。


 だから、探し出せるはずだと紫苑はそう思っていた。


 機会はそう遠くない日に訪れた。


 惺夜が令嬢たちのお茶会に招待され、政治的な意味で断れず出掛けていったのだ。


 これは惺夜のお見合いを兼ねている。


 といっても婚姻を意識したものではなく、付き合ってみないか? というお誘いのようなものだったが。


 つまり惺夜と令嬢たちを引き合わせるのが目的のお茶会なのである。


 これに惺夜が出席しないわけにはいかない。


 最初は散々抵抗していた惺夜だが、皇帝の実弟として無視できない大貴族の令嬢の名を出され、渋々出掛けていったのである。


 紫苑は諸手をあげて歓迎した。


 惺夜が自分以外に大切に想う相手ができれば、自然と紫苑に構わなくなるだろうし、あの人を捜すためにも、惺夜には留守になってもらう方がいいのである。


 諸手をあげて歓迎した後で紫苑は慌ててお忍びに出掛ける準備をした。


 王宮へ移動した道のりはなんとなく憶えている。


 ずっと泣き叫びながらあの人を見ていたからだ。


 そのせいで道のりはクッキリと記憶に刻み込まれていた。


 後はその場所を特定できればいいのだ。


 それとそこが間違いなく紫苑の実家であるという事実とあの人の正体と。


 あの人が紫苑にとってなんだったのか、それが知りたい。


 たぶん家族だろうとは思っているが、紫苑は自分の家族のことはほとんど憶えていない。


 父のことも母のことも。


 だから、もうひとつ自信が持てないのである。


それと宮廷の外に出るのは初めてだ。


 継承者としてまだ身体が丈夫ではないからと、外出の許可を貰ったことはない。


 だから、外に出るのは本当に初めてなのだ。


 それで本当に記憶通りの道を探せるのか、そのことにも自信がなかった。


 でも、躊躇ってばかりいても前には進めない。


 待っているのはやめると決めたのだ。


 今は動き出さなければ。


 決意して王宮を抜け出した紫苑は、そのすぐ後で困惑することとなった。


 なんとか街に出たのはいいのだが、道に迷ってしまったのである。


 当時とは舗装も変わっているのだろう。


 紫苑にとって馴染みのない光景が広がっていて、どうしても記憶に連なる道程を見付けることができなかったのである。


 気が付くと王都の中心地、市街地にやってきていた。


「ここってどこからどう見ても王都の市街地だよなあ?」


 記憶と違ってしまっているのだから、今手掛かりにできるとしたら、店の人の記憶。


 道筋は変わっても店が変わっているというのは少ないだろうし、まだ人々の記憶の方がアテになるかもしれない。


 そう決めて紫苑は何軒か訪ねて回った。


 人々の反応は概ね似たようなものだった。


「紫苑の花に囲まれた屋敷? 悪いが知らないねえ」


「店を出したのは最近で、それ以上前のことを訊かれてもわからないよ。悪いね」


 概ねにこんな感じだったのだが、最後にと決めて入ったパン屋に顔を出した途端店の主人らしい老年の女性に肩を掴まれ泣きつかれた。


「坊っちゃまっ!! 本当に坊っちゃまなのですねっ!! 今までどこにおられたのですっ!?  どれほどご心配申し上げたかっ!!」


「待ってくれよ。だれかと勘違いしてないか? おれなこの店にきたのは初めてだ」


 言われたおかみは頭の先から足の先まで紫苑を検分し、恥じ入るように頬を染めた。


「そう言われてみると記憶の中の坊っちゃまと全然年齢が変わっていないような? 幾ら公爵家の坊っちゃまとはいえ、お姿を見なくなってから、ずいぶん経っているのに姿が変わらないわけないですよね。すみません。昔のお得意様によく似ていたものですから」


「その人はおれによく似ていた?」


「そっくりですともっ!! 当時の若様にそっくりですよ、あなたは」


 涙ぐむおかみに紫苑は思案するように目を伏せ何気なく問いかけてみた。


「紫苑の花に囲まれた白亜の館を知らないか?」


「え?」


「おれの実家なんだ。ずっと探している。この辺りの人にも訊いてみたけど、だれも知らなかった。おれに似た人を知っているあなたなら知らないか? 紫苑の花に囲まれた白亜の館を」


「あなたはもしや……行方不明になられた坊っちゃまの弟君ですか?」


「わからない。おれは自分の出自を知らないんだ。名前も知らない。だから、探している。知っていたら教えてくれないか?」


 紫苑の言葉とその姿を見比べて、おかみは自信を持ったらしい。幾分涙ぐみながら紫苑を見た。


「ああ。本当に坊っちゃまの弟君なのですねえ。よく似ていらっしゃる若様に。紫苑の花に囲まれた白亜の館と言えば、この辺りでは一軒しかありませんよ。セーヌ川の向こうにある公爵さまのお館です」


「公爵の館。その人たちは今どうして?」


 紫苑が問うとおかみは暗い表情になった。


 すでに紫苑が公爵家の若君だと信じて疑わない表情でポツリと言った。


「あれはあなたさまがお産まれになって一月ほど経った頃でした。公爵さまご一家は幼いご兄弟を残されて、大陸の中央にあるアルト神に祈願するために旅行に出られたのです」


「なんの祈願?」


「産まれたばかりのあなたさまが、あまりにご病弱で無事に成長できるようにと、その祈願に行かれるところだったのですよ」


 自分がその公爵家の次男なら符号は合う。


 紫苑はおかみが語る過去を聞きながら自分の記憶を追っていた。


「ですが不運にも旅先で盗賊に襲われ、幼いご兄弟を残して公爵ざご一家はすべて……」


「……殺されたのか?」


 自分の家族が殺されたと思ったこともない紫苑は、純粋に驚いた声を出した。


 しかも原因は自分の成長の祈願のためだという。


 そんな無駄なことをしなければ死ぬこともなかったのに。


 継承者の育成は皇帝にしかできない。


 衛に紫苑を引き渡せば死ぬことはなかったのだ。


 それともその頃には知らなかったのだろうか?


 自分たちの子供が継承者だと。


「残された坊っちゃまは気丈にも、幼い弟君を抱えて公爵として頑張っておられましたよ。半年ほどのあいだは。ですがある日突然お姿を消されてしまって」


「それはいつ頃の話なんだ?」


「そうですねえ。そうそう。その頃はおめでたいことがありましてね」


「おめでたいこと?」


「皇帝陛下がお世継ぎを得られたんですよ。今振り返ってみると坊っちゃまのお姿をお見かけしなくなったのは、その頃ですね」


 すべての符号が重なった。


 紫苑によく似た少年。


 病弱な次男を抱え殺されてしまった公爵一家。


 探していた答えは、こんなにも残酷なものだったのだ。


 あの人はもうどこにもいない。


 紫苑が宮廷に引き取られたときに、きっと姿を消してしまったのだ。


 最後にたったひとり残された家族だった自分を衛に引き渡したために。


「その人の名前を教えてくれないか?」


「水樹さまとおっしゃいます」


「水樹……兄上?」


 信じられないと問う声におかみは涙を流しながら頷いた。


 当時のことを思い出しているのだろう。


 そして今の紫苑の姿にそっくりだったという水樹のことを思い出してもいるのだ。


 その瞳に懐かしむ色がある。


「もう一度だけ公爵家の館へ行く道筋を教えてくれないか? おれはこの辺りの地理に詳しくないから」


「この先をすけし歩くと大きな川に出ます。セーヌ川といって王都をふたつに区切っている川です。その川にかけられた橋を渡って、半刻ほども歩けば公爵さまのお館に辿り着けますよ。ただ使われなくなって、だいぶ経っていますから今では当時の面影もございませんが」


「ありがとう。これから行ってみるよ」


「坊っちゃまっ!!」


 踵を返しかけた紫苑の背に呼びかける声がした。


 振り向けばおかみが涙ぐんだまま紫苑を見ていた。


「ぼっちゃまは今どちらにおられるのです? どうしておふたりは離れ離れにっ」


 水樹の失踪で心を痛めてくれていたのだろう。


 彼女の想いやりがわかるから、紫苑は嘘を答えられなかった。


「おれは宮廷にいるよ」


「きゅう……てい……?」


「おれは第一皇子の紫苑という。皇帝が名付けた名前だから、本名ではないけどね」


「世継ぎの君? 継承者っ!? ああっ。だから、おふたりは……っ」


 泣いて泣いてもうなにも言えないおかみに軽く会釈して、紫苑は教えられたとおりの道を歩きだした。





 そこにあった物はすでに記憶の中の華麗な館ではなかった。


 完全な廃屋だったのである。


 埃っぽくカビくさい。


 紫苑の花も枯れてしまっていて、見ていると幽霊屋敷みたいだった。


 でも、記憶の中の姿と見事に一致する。


 まだ紫苑の花が全開だった頃、この花園の中心に立ち、あの人は……水樹兄上は笑ったのだ。


 紫苑を見て笑ってくれた。


 幼い頃、この花園が好きでよく遊んでいた。


 その度に叱られたけど。


 中に入れないものかと扉に手をかけてみるがビクともしなかった。


 頑丈に閉じられているのだろう。


 おそらく衛の手配で。


 行方不明の水樹兄上が戻ってきたときに、公爵家の財産が奪われていたなんて事態を招かないために。


「力を使うしかないか。惺夜や衛に気づかれないといいんだけど」


 言いながら紫苑は精神を集中させ、次の瞬間には屋敷の中に転移していた。




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