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星の継承者  作者:


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第十三章 紫苑一SHION一(1)






 第十三章 紫苑一SHION一







 小さい頃のことは朧気にしか憶えていない。


 憶えているのは屋敷にいつも紫苑の花が咲いていたこと。


 自分の名前の由来になった花が。


 そしてその花に囲まれて振り向く、大好きな人がいたことだけだった。


 今となっては顔も名前も憶えていない。


 小さすぎて自分の本名も忘れてしまった。


 でも、もう一度出逢えればわかるような気がする。


 大好きだったのだ。


 その人がいないと泣いて泣いて眠れないほど好きだった。


 だから、逢えれば思い出せると信じている。


 それでも大好きな人と引き離され、ただ継承者だというだけで、王宮に引き取られた現実を紫苑は受け入れることができずにいた。


「また駄々を捏ねているんだって、紫苑?」


 寝室に無許可で入ってきた惺夜が呆れたようにそう言った。


 出逢いが悪かったのか。


 惺夜は幾つになっても紫苑を子供扱いする。


 まあたしかに惺夜から見れば、紫苑は幾つになっても子供なのだろうが。


「駄々なんて捏ねてないよ。子供扱いするなよ、惺夜」


 枕元まで歩いてきた惺夜が、ちょっとだけ笑った。


「食事を摂らないって駄々を捏ねてるって聞いたけど?」


「だから、駄々なんて捏ねてないってばっ!! 欲しくないだけだよっ!!」


 まるで駄々っ子のような紫苑を見て、惺夜は徐に彼の額に片手を当てた。


「熱もないのに欲しくないって? それを駄々を捏ねるって言うんだよ、紫苑。ただ抵抗してるだけだろう? 全く。幾つになっても駄々っ子なんだから」


「子供扱いするなってばっ!!」


「子供扱いされたくなければ、きちんと食事を摂るんだね。食べられるね、紫苑?」


 振り向けば彼の背後に侍女がいて、きちんと食事を運んできていた。


 絶食はそろそろ2日目になる。


 最初は父たる衛が何度も説得にきていたが、応じないのを見て惺夜を寄越したのだろう。


 惺夜はそういう意味では強かった。


 紫苑を一言で言い含めてしまう。


 まあ衛ではない、というのが1番大きな理由だったが。


 衛が相手のときは余計に意地を張ってしまうのだ。


 本心から心配されているのがわかっても、彼がいなければ今も自分はあの大好きな人と一緒にいられたのだと思うと、どうしても素直になれないのである。


 どんなに愛されているか知っていても。


 衛を受け入れたら、あの人に悪いような気がして。


 だから、一度も父とは呼んでいない。


 いつも「衛」と名前を呼んでいた。


 そのことで衛がすこし寂しい想いをしていることを知っていても。


 でも今の境遇を築いたのは彼だから、受け入れたらあの人に悪い。


 迎えにきてくれると言った小さい頃の約束を今も信じている。


 そんな日はこないとわかっていても待っている。


 あの人が迎えにきてくれる日を。


 だから、衛のことは父だとは呼ばないのだ。


 自分の家族は忘れてしまった記憶の中にいる。


 それを忘れないために。


「絶食していたからね。普通の食事は無理だろうから、そのことはきちんと配慮してあるよ。今のきみでも食べられるものしか用意していない。だから、食べられるね、紫苑?」


 半ば強引に惺夜は食事の用意をしてしまった。


 寝台で上半身を起こした紫苑が、無理なく食べられるようにと、あっという間に用意が整えられていく。


 これは食べるしかないかなと紫苑は諦めの気分だった。


 ここで食べないと惺夜がキレる。


 そうなると手に負えない。


 惺夜は滅多に怒らないが、その分、たまに怒ると非常に怖い。


 紫苑はまだ死にたくない。


 あの人と再会できるまでは。


「わかったよ、食べるよ。食べればいいんだろっ!!」


 やけくそになって怒鳴ると、惺夜が呆れたような顔をした。


「はじめからそうしていればいいんだよ。全く。兄上を困らせるのが趣味なんだから、きみは」


「どんな趣味だよ、それは……」


 呆れ返った紫苑の言葉には、惺夜は答えなかった。


 ただ黙って紫苑の手元を見ている。


 本当に食べるのかどうか確認するように。


 これは食べるしかないらしいと観念した紫苑が食事を食べ始めた。


 絶食していた紫苑でも無理なく食べられる病人食だ。


 その分、味はしないが紫苑の食事は、普段から病人食に近いものがあるので、あまり気にならなかった。


 継承者は育成が難しいらしく、色んな面で気を遣われているのだ。


 紫苑は今、14、5歳といった姿である。


 王宮にやってきてから、ずいぶん時が流れているのだ。


 出逢ったころ、惺夜は12歳くらいの外見だったが、今の惺夜は17歳ぐらいの外見である。


 皇族の特徴がそんなところに現れているのだ。


 皇族はすべて継承者の血族なので、乳幼児の頃を除いて成長が遅いのである。


 だから、皇族が降嫁した名門貴族なども成長が遅い。


 継承者というのはその血に重い宿命を背負っているのだろう。


 紫苑にしてみれば嬉しくないことだったが。


 自分がその継承者だったために、あの人から引き離されてしまったのだから。


 食事を摂りながら、紫苑はあの人が今どこでどうしているのか、調べてみようと心に決めた。


 今の紫苑はただ待っていなければならない子供ではない。


 自分で行動を起こせる。


 そのための知恵もある。


 こんなときに動きださないでいつ動きだすのか。


 だが、惺夜の前では態度に出さないほうが利口だった。


 なにしろ惺夜は独占欲が強い。


 紫苑が他のだれかのことを考えているとすぐに不機嫌になる。


 だから、あの人に想いを馳せていると、惺夜は必ずといっていいほど気分を害した。


 妨害される恐れがあるので惺夜には言わない方がいい。


 まあ衛に言わせると守護者はみなそうらしいが。


 衛の守護者にして片腕の翠は、紫苑から見ればクールな青年だ。


 だが、その彼も衛のことになると冷静さが吹っ飛ぶらしい。


 だから、惺夜の独占欲が強いのも、守護者故、ということになる。


 厄介である。


 これでは紫苑は恋愛もできない。


 まあまだ紫苑は恋愛なんかに興味を持つ年齢ではないが。


 継承者の成長は外見的なものだけでなく、精神的なものまで遅い。


 精神的な成長は外見よりもっと遅いのだ。


 だから、普通ならとっくに初恋のひとつやふたつ経験していてもおかしくない年齢の紫苑も、恋愛に意識を向けたことがないのである。


 まあもし紫苑が恋愛騒ぎを起こしたら独占欲が強い惺夜が黙っていないだろうが。


 衛が未だに結婚できないのも、どうやら翠が絡んでいるらしいし。


 翠が妨害するから衛は個人的な付き合いができないのだ。


 そのせいで未だに妃を迎えられずにいる。


 世継ぎが運命的に決まっている皇帝だから助かっているが。


 もし普通の皇帝で世継ぎが必要とされていたら、きっと大きな問題となっただろう。


 まあ衛自身も結婚を意識するような年齢ではないのだが。


 衛の即位はずいぶん幼い時期に起きたらしいので。


 だから、紫苑にしてみれば衛は父と呼ぶには若すぎるという問題もあった。


 衛はどちらといえば、兄に近い年齢なのである。


 それで父と呼べ、と言われても困惑するばかりだった。


 無理なく食べられる病人食とはいえ、2日近く絶食していた紫苑には拷問に等しい量だった。


 苦労して食べ終わったときには、ホッと安堵してしまったほどだ。


 紫苑がこれ以上は食べられないと、フォークとスプーンを置くと惺夜がにこやかに声をかけてきた。


 嫌味なことに食べ終わるまで見張っていたのである。


「きちんと食べられたらようだね。でも、ちょっと量が多かったかな? 次からは無理なく食べられる量を指定しておくよ。さあ。ちょっと眠るかい? それとも軽く食後の散歩でもするかい? 散歩するなら付き合うけど」


「惺夜はさあ」


「なに?」


「おれの面倒を見ること以外にすることないのか? 自分の時間を作ったって別に構わないのにさ。おれは別に怒ったりしないよ? 惺夜にだって自分の時間があって当然なんだから」


 紫苑がすこしはひとりになりたくてそう言うと、惺夜はおかしなことを言われたとばかりに笑った。




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