プロローグ―終
短いです。
転移を使い悪魔ちゃんは揺り籠の最下層、彼女が目覚めた居住区域に戻っていた。相変わらず、何もない。何もかもが無くなってしまった場所。だというのに、どうしてかここの景色が見たくなった。
「ヨルム、ポリクス、クリステ、カルチェ、ソフィア……」
脳裏に浮かぶのは、昔日の思い出。
『――ちゃんはね、もう少し我儘になっても良いと思うんだよね』
第一の側近であり、無二の親友であった者。
『あなた様の献身に、充分に応えることの出来ない、不甲斐ない我々をお許しください』
古くからの臣下で、大袈裟なくらいに忠義に篤かった者。
『王様、次のレースではどれに賭けるよ。俺の見立てじゃあ2―6―3が鉄板だぜ』
不真面目ではあるが、他者の心の機微をくみ取るのに長けていた者。
『ぼくは、王様さえいればいいよ』
少々危なっかしくはあったが、よく自分に懐いていた者。
『王様ー、見てみてー‼ 今日はこんなに大きな芋が取れたんだよー‼』
『あっ、ズルい! 王様、あたしもあたしも、いっぱいお豆取ったよ!』
家の手伝いを嬉しそうに報告してくれる、愛くるしい子どもたち。
『あまり自惚れるな。お前は確かに最強で、この星の創生以来誰よりも王としての役割を全うしてきた。だがこの星は、既にお前の手を離れている。いつまでも過保護を続けるのは余計なお節介でしかない』
自分と同じく、王としての役割を背負った者。
『例え、お前が全てを投げ出したとしても、誰一人として責める者はいない』
だからお前は好きにしろと、あの不器用な王は言ったのだったか。
(虫のいい感傷じゃな)
かつての臣下たち。自分の過ちで、日常を奪われた者たち。彼らは、どんな最期を迎えたのだろう。どこまでも、ただの勘違いならば、それでいい。それがいい。けれど、現実はそうあってはくれなかった。
「行ってくる。必ず、仇は討とう」
――だから、どうか安らかに。
最強は動き出す。一度は投げ捨てたものを、もう一度掬い上げて。例え何もかもが手遅れだとしても、己が責務を果たすために。