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003 童帝パンチ

 俺の身体が上下真っ二つに切断された。

 

 まじか、冗談きついぜ。


 と、そんなひとり言を心の中で漏らしつつ、


「わぁぁぁぁぁ!」


 俺(上半身)は壁に頭から突き刺さっていた。


 だが、不思議と痛みや喪失感は無い。


 俺は両手に力を込めて壁からひょっこりと顔を出し、軽くかぶりを振る。


「というか、喋れる?」

 

 というか、喋っている。


 なるほど、これもまた『累乗』によってもたらされた恩恵ということか。


 俺は試しに、巨大な死神の前に置き去りにされたまま直立している下半身に力を込めた。

 すると、


『なに……!?』


 下半身(俺)がひとりでに何度かジャンプした後、足を思い切り上げた。というか、蹴り上げた。死神の股間めがけて。


『ヌ――ッッッ』

「ヌ――ッッッ」


 俺も死神と同じ反応をしてしまった。


 あれは駄目だ。たとえ死神相手でも、男の子にとっては駄目なやつだ。


 死神は暫くの間、硬直していた。いくら骨だけとはいえ、股間は多分ある。だから、多分痛いのだろう。


「と、それはそれとして。いつまで経ってもこのままだと気色悪いから戻るとするか」


 俺は再び力を込め、今度は上半身と下半身の切断面にそれぞれ意識を集中させ、なんとか身体を繋ごうとする。

 と、その最中、


『ルゥトさん、後ろです、後ろ』


 死神からずっと遠く離れた位置に逃げていた精霊様が、俺に注意喚起した。


 俺はすぐさま後ろを振り返り、


「どぶ――っ!?」


 突然飛んできた巨大な拳に顔面をぶん殴られ、上半身のみの俺は死神の方へと飛んでいく。


『汝、よくもやってくれたな。同じ男として、やってはならないことをよくもやってくれたな。これはその罰だ。天罰だ。いや、死罰だ。獄罰だ。死神と死人共のフラストレーション、舐めるなよ?』


 と、ここまでを超早口で言い終えた死神は、鎌を思い切り振りかざし、薪割りの要領で俺の下半身を真っ二つにしやがった。


「い――ったく、ない?」


 痛みはない。だが、飛んできた拳の持ち主である骸骨の巨人が上半身(俺)の前に拳を構えていた。

 拳が、放たれた。


「おおぅっ!」


 両腕をクロスさせて防御。


 しかし、骨が軋む音が聞こえた。


 不味い、と思った時だった。


 バキバキバキィッ! 

 バギボギボギバギィッッッ! 


 バキバキバキィッ! 

 バギボギボギバギィッッッ!


 バキバキバキィッ! 

 バギボギボギバギィッッッ!


 ホネホネ巨人の骨が瞬く間にひび割れて、そのまま弾け飛んだのだった。


 ものの見事な破砕劇。


 多分、こいつは、俺が咄嗟にした防御に触れたせいで自爆したというところだろう。


「俺、もはや歩く凶器やん」


 びっくりというか、呆れたというか。


 あ、今こうして感情に浸っている間にも、死神さんが鎌を振り上げてまた俺の股を裂こうとしている。


 いや、股はもう裂けているから単純にスライスさせられるやつか。


 というか、上半身と下半身の断面もそうだけど、ここも下の『ニブルヘイム』並みに寒さがヤバいので、ちょうどいい具合に凍り付いているからグロテスクな心配はない。


 R15指定はきっちり守られているというわけだ。


「そもそも俺がこんなに軽い感じのキャラで姿や顔が中々描写されてないのも、そういう界隈の人たちが好き好んで読みやすいように調整したからなのかね?」


 メタ的なことを自問自答する俺。


 あ、死神が俺の下半身をスライスにした。

 もういい加減苛立ってきた。

 いや、だって、何が悲しくて未使用で新品な俺の竿をここまでいたぶられないといけないのだ。


「テメエら死神は良いよな。竿を使わなきゃと焦る心配も、未使用ゆえに生じる焦りも無くってよぉ」


 俺は両手だけで爆速で走り、死神の前で立ち止まって拳を固める。


「大体、おかしいと思わねぇか。ひでぇと思わねぇか。何が悲しくて、この股にぶら下がっている宝刀を未だに抜刀せずにいる俺が、王女様を襲った罪でこの訳の分からないダンジョンに投獄なんていう、屈辱この上無い仕打ちを受けなきゃいけないのかッ!」


『汝は、狂っている』


「狂っているのはこの世界だ。性悪で屑で外道で顔が良いだけが取り柄の輩に女が集っていく、この世界だ馬鹿野郎ォォォォォォッッッ!」


『そういう男も陰で努力したり色々な失敗を積み重ねたり、なにより話を聞くのが上手いから色々な女子をゲットできるわけで――』


「知ったこっちゃねぇのさぁぁぁぁぁぁ!」


 俺は、俺の身体を散々痛めつけた死神さんをアッパーでぶっ飛ばした。


「童帝パンチ、効くだろコレ」


 死神が吹き飛んでいった拍子に上の階層の穴が次々と開いていく。


「アレだな、これはもう、とっととこのダンジョンを出て街に戻ってアイツ……イネクスに去ねクズって言いに行くか」


 傍らで安らかにお昼寝をしていた精霊様を無理やり起こし、気味の悪い霧と死神の階層を後にし、


「ぶっっっ飛ぶぜっ!!」


 上半身とスライス状になっている下半身を繋げて。


 精霊様を横抱きにして抱えて。


 思い切り、その場でロケットジャンプをかまして超級ダンジョンから脱出したのだった。


 そして。


「よぉ、イネクスさんよぉ」


「……お前、ルゥトか?」


 何となく飛んで降り立った街の商店街で、女とデートをしていただろうイネクスと再会したのだった。


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