8話:前兆【騎士団視点】
ボンドがお姫様姉妹と会っている中。
騎士団では普段通り、依頼が殺到していた。
「失礼します、団長」
書類を持った秘書官が団長室に入って来る。
「急な依頼とは何かね。私は忙しいのだが?」
ウィスキーの入ったグラスを片手に。
頬を赤く染めたヴェルナーが嫌そうな顔をしてそう言う。
秘書官は特に気にする素振りも見せず、書類をヴェルナーの作業用デスクに置くと。
「サンド伯爵からの緊急依頼です。領内北部の森林地帯で異常変異した魔物が大量出現したとのことで」
「ああ~いつもの大規模討伐依頼か」
はいはいと言わんばかりに書類を手に取る。
大規模討伐依頼は数ある討伐依頼の中でも大きな依頼で、他の騎士団では複数の騎士団が協力して行い、依頼の達成を目指すほどの規模のものだ。
だがロンド騎士団では5年前からこれを単独で受け持ち、依頼をこなしてきた。
その実績が他の騎士団との大きな差別化となっていた。
依頼主も複数の騎士団にお金を懸けずに済むし、騎士団は実績で名声を挙げられる。
両者が得をする唯一無二のシステムを持っていることが、今のロンド騎士団が他の組織よりも抜きんでている強さの所以だった。
「こんなのは全部第三討伐部隊に任せておけばいい。あいつらはその類のスペシャリストなんだからな」
ヴェルナーは読めているのか分からないような速度で書類に目を通すと、吐き捨てるように言った。
第三討伐部隊は大規模討伐依頼に特化した精鋭部隊だ。
ボンドはこの部隊に所属しており、尚且つ部隊長という地位を持っていた。
そしてその実績も殆ど彼によるものだった。
上の連中はこの事実を知らないが。
「で、ですが今回の依頼は結構大所帯なものらしくて、いくら経験があるとはいえ、第三討伐部隊だけで出向させるのはリスクが伴うかと……」
秘書官は不安げな表情でヴェルナーに訴える。
だがヴェルナーは秘書官に対し、鼻で笑うと。
「君は心配性だな。今まで彼らが積み上げてきた実績を知らないわけではないだろう?」
「わ、わたくしも彼らを信用していないわけではないのです。ですが――」
「うるさい! 私が任せておけばいいと言ったらそれでいいのだ! それとも何か? 君は私の命令には従えぬと言いたいのか?」
圧をかけるように、吐き散らす一言。
当然、自分よりも身分が上の人間にこんなことを言われれば、逆らえるわけもなく。
「い、いえ。決してそのようなことは……」
「なら今すぐそれを行動で示せ。それと他の部隊には各々別の依頼で動くように伝えろ。騎士団運営は効率重視だからな」
「しょ、承知致しました……」
秘書官はトボトボと団長室を去っていった。
「ふんっ、どいつもこいつも下の奴らは気弱な連中ばかりで困る。さてと、邪魔者は消えたことだし、晩酌の続きでもするか」
再びグラスを持ち、呑気に晩酌に浸るヴェルナー。
そう、ただひたすら呑気に。
騎士団に立ち込める暗雲に気付くこともなく。
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