7話:人生を変える誘い
「あぁ~最高だったわ。たまにはこういうのもいいわね」
フィオナはご満悦に笑顔を浮かべる。
空腹感が満たされた俺たちはしばし噴水広場でゆったりとしていた。
「ありがとうね。ホント、あんたにはさっきから助けられてばかりだわ」
「ご馳走様でした」
「いえいえ」
俺も会話を通して少しは二人との距離を掴んでいた。
未だ違和感は拭えないが、さっきよりも自然に話せているような気がする。
「ふぅ……なんだか、このまま寝ちゃいたい気分ね」
「ダメだよ、お姉さま。寝る前に今日中にやることをやらないと。明日のお昼までには城に帰らないとなんだし、そもそもわたしたちがここまで来たのは――」
「言われなくても分かってるわよ。忘れてないから安心なさい」
のんびりしたいのか少し気怠そうに返答するフィオナ。
そんな彼女に俺はあることを聞いてみることに。
「あの、一つ聞いてもいい?」
「ん、なによ?」
今までずっと気になっていたこと。
そもそもなんでこんなところに王家の要人がいるんだということ。
(それに王家のご子女なら、普通は護衛とかつけて厳重に守られるはずだよな?)
まぁ一遍に聞くのはあれなので、まずはこの場所にいる理由を聞いてみると、フィオナが口を開いた。
「ああ、それはこの街に用があったからなの。お父様にお使いを頼まれていてね」
「お使い?」
「この街に注文していた品があるみたいで、それを受け取ってきてほしいって言われてるの。最初は城の召使が行くことになっていたんだけど、ちょうど暇だったから依頼として受けたのよ」
「ちなみにわたしは同行者としてやむなくついていくことに……」
「だ、だって一人で行くのはその……つまらないでしょ!」
あ~多分、一人で行くのは心細かったんだなぁ……と心の中で思っていると。
「な、なによ! 何か文句でもあるの?」
「いや、別に文句は……」
察しられてしまった。
このお姫様、中々に読心力がある。
「と、とにかくそういうことだから! 別に寂しいとかそういうんじゃないから!」
「お、おう……」
結局、自分で言っちゃったよ。
何て分かりやすい人なんだ……表情とかも含めて。
「でも、護衛が一人もいないのはどうしてなんだ? 普通、どこかに出掛ける時は数人つくんじゃ?」
ここにいる理由が分かったので、二つ目の質問へ。
すると今度はティアナが理由を教えてくれた。
「それはお姉さまがお父様に頼んだんです。自分たちの身は自分で守るから、護衛なんか必要ないわって。当初は猛反対されたんですけど、お姉さまが勢いで押し切っちゃって……」
「なるほど。で、結局魔物に絡まれてあんなことに……」
「うっ……!」
俺たちの会話を通じて、フィオナの表情に焦りが出てくる。
自分から啖呵を切っておいて、あんなことになったんだ。
そりゃ、立場的に辛いよな。
色々と。
「あ、あれはその……運が悪かったのよ! そもそも、あんなに強い魔物と戦ったのは初めてだったんだし……」
言い訳を始めるフィオナ。
だがフィオナも相当気にしていたのか。
「いえ、ごめんなさい。それは違うわね。単にアタシの判断が甘かっただけ。結果的にアタシのせいで二人を巻き込んでしまった。ホント、最低よね。後に一国を背負うことになるかもしれない人間が身内のみならず、関係のない一般人にも迷惑をかけちゃうなんて……」
しゅんと沈むフィオナ。
それを聞いてすぐにティアナが、
「確かに護衛をつけなかったのは良くなかったけど、お姉さまはわたしのことを全力で守ろうとしてくれた。それはすごく嬉しかったし、カッコイイって思ったよ」
「フィオナ……」
「それに、わたしももっと護衛をつけることを主張すれば良かったんだし。お互い様だよ。あ、でも一応この件はお父様に報告しないと」
「えっ……それ本当に言ってる?」
マジ? みたいな表情を見せる。
隠す気満々だったと言わんばかりの顔だ。
でもティアナはそれを許さないみたいで。
「当たり前だよ。あんなことがあって、しかも助けられておいて一報も入れないのは流石に駄目! 元々、凄く反対されてたんだから尚更だよ」
「う、うぅぅ……っ! でもお父様にバレると面倒なことに――」
「お、ね、え、さ、まぁーーーーーー?」
「す、すみません……ティアナさんのおっしゃるとおりです。はい……」
マジメな性格故に少し怖い部分が出てしまったティアナに押し負けるフィオナ。
もしかしたら本当は妹の方が強かったり?
ほんわかとした笑顔の中に謎の怖さがあったから、多分本気で怒らせるとティアナの方が……
「ま、まぁそれはいいとして。それよりも、今度はあんたのことについて教えなさいよ」
「俺のこと?」
「そ。今までアタシたちの話題ばかりだったからあんたのことも聞きたいわ」
ああ……
確かに俺のことは名前以外、全く話していなかったな。
このままでは不公平だし、別に隠すようなことなんて何もないし。
「分かった、じゃあ今度は俺の話をしようか」
話題は俺のことに切り替わる。
俺は改めて自分の名前、そして仕事のことや、最近あった出来事まで全てを話した。
正直、そこまで言う必要はなかったかもしれない。
けど、誰かに打ち明けたい気持ちがあるのは事実だった。
吐き出して少しは楽になりたい。
そんな想いが、俺の中にあったのだ。
「――ま、こんなところかな」
全てを話し終え、ふぅっと息を吐く。
二人は身じろぎもせずに俺の話を真剣に聞いてくれた。
でも話を聞いた二人の表情は何だか煮え切らない感じだった。
「ひ、酷いです! いくらなんでもあんまりです!」
「同意するわ。ありもしないことを言われて、挙句組織からも追い出されるなんて。正気の沙汰とは思えないわね。アンタは何も反抗はしなかったの?」
「もちろんしたさ。でも無駄だった」
あの場に俺の味方はいなかった。
何を言おうが、俺の言葉は戯言に変えられてしまった。
「でも、流石に騎士の資格まで剥奪だなんてやり過ぎよ。これは間違いなく意図的なものが絡んでいるわね」
「俺もそう思う。せめて本当の理由くらいは知りたかったけどな……」
まぁ多分ロクな理由じゃないんだろうけど。
「じゃあ、今のあんたは無職ってこと?」
「そうなるね。だから明日あたりにでも職業安定所に行こうと思ってるよ」
「そう……」
話が進むにつれて、雰囲気が悪くなっていく。
やはり余計なことを話すべきではなかったか。
「なんかごめん。しんみりとさせちゃったね」
「い、いいの。あんたも苦労してたんだなってことが知れたから、良かったわ」
気を遣ってくれたのか、フィオナは笑顔でそう返してくれる。
そして何かを考え込むようにじっと一点だけを見つめる。
「フィオナ……?」
「お姉さま、どうしたの?」
覗きこむ俺たちに構わず、思考を張り巡らせるフィオナ。
すると何か閃いたのか。
「あ、そうだ! ねぇあんた、また騎士になる気はある?」
「騎士に? それはもちろん、戻れるものなら戻りたいが……」
「なら、アタシたちの騎士になる気はない? ちょうど前にお父様がアタシたちに剣術を教える新しい〝指導騎士〟が欲しいって言ってたし。あんたの実力なら、きっとお父様にも認めてもらえると思うわ」
「えっと、それってつまり――」
「アタシたちの国に来るのよ! 騎士の王国、ローレンスにね!」
俺が答えを言うよりも先に。
フィオナは躍動感のある喋り方で、そう言った。
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