4話:二人の少女
ボンドが湖でゆっくりとした時間を過ごしている中、同じ場所では二人の少女が馬車に揺られながら楽しく歓談をしていた。
「本当にわたしたちだけでお城出て来ちゃって大丈夫だったのかな……」
「大丈夫、大丈夫! なんたってこのアタシがついてるんだからっ! 心配いらないわ!」
「でもやっぱり護衛の騎士さんたちを連れてきた方が……もし、道中で魔物に襲われでもしたら……」
「ティアナはホント、心配性ね。そう簡単に魔物が出てくるわけ――」
「お、お客さん! 逃げてください!」
「へ?」
気の抜けた声を出す少女に相反して馭者が顔を真っ青にしながら。
「ま、魔物です! しかも群れのようで……」
「う、ウソ……でしょ?」
だが残念ながら、ウソではなかった。
外を見ると既に魔物が馬車を取り囲んでいたのだ。
しかも数匹なんてレベルじゃない。
20、30……いやそれ以上はいる。
「お、お姉さま! こ、これ……っ!」
「お、落ち着きなさい! アタシが何とかするわ!」
強気の言葉を発する少女の名はフィオナ。
彼女は予め持参していた護身用の剣を手に取ると、馬車を飛び降りた。
剣を構え、魔物たちとにらみ合いをしながら、妹のティアナに伝える。
「アンタは馬車の中にいなさい。アタシがこいつらの相手をするから」
「で、でも……!」
「心配はいらないわ。なんたってアタシはお父様の娘なんだもん。小さい頃から剣の鍛錬は――きゃあっっ!」
「お姉さま……っ!」
複数で同時に襲われ攻撃を受けるフィオナ。
何とか剣体で攻撃を跳ね除けたものの、今の一発で彼女は確信する。
「くっ、この魔物たち……結構な戦闘経験を積んでいるわね。でも……!」
今度は反撃に転じる。
が、その壁のように硬い皮膚に剣先は弾かれてしまう。
何度攻撃しても結果は同じ。
ダメージは通らず、いつしか攻撃を避けるだけでも精一杯になっていた。
「はぁ……はぁ……はぁ……」
「お姉さま、大丈夫……っ?」
「へ、平気よ……これくらい……」
口でそう言うものの、フィオナの体力は限界に近付いていた。
それを傍で見ていたティアナは思わず馬車を飛び出した。
「あ、あんたなにしてるのよ! 馬車の中にいなさいと言ったのに!」
「お姉さまだけに辛い想いはさせない! わたしも……戦う!」
守られるだけでは嫌だ。
そんな想いがティアナから込み上げてきての行動だった。
「でもあんたの剣の腕は……」
「分かってる。でも、それでも戦わないと! わたしだって、お父様の娘でお姉さまの妹だもん!」
でないとフィオナは間違いなくやられてしまう。
多勢に無勢なこの環境下で自分たちの勝ち目は限りなく薄い。
自分は剣の腕がない。
それを知った上での覚悟を持った行動だった。
「し、仕方ないわね。なら、さっさとアタシの後ろにつきなさい。出来る限り、死角を無くすわよ」
「う、うん!」
フィオナは内心嬉しく思いながら、表情だけは必死に隠した。
そして二人は背中合わせになり、魔物たちと対峙することに。
だが、現実はそんなに甘くはない。
二人の深いキズナなど物ともせずに魔物たちは怒涛の攻撃を繰り返す。
一個の取り巻きを追い払っても次の取り巻きが襲い掛かって来る。
そしてこのループが延々と続く。
「うぐっ……!」
反撃をする間もなく、ただひたすらに防御に回る二人。
そして遂に二人の体力に限界が来てしまった。
「はぁ……はぁ……」
「はぁ……うっ……!」
「……っ! ティアナ!」
剣を地に落とし、片膝を地につけるティアナ。
戦闘経験の殆どない彼女にとってはハードワークだった。
もう剣を握る気力すら残っていなかった。
「ご、ごめんお姉さま。わたしもう……だから、お姉さまだけでも逃げて。囮になるくらいのことはできると思うから……」
「な、なに言ってるのよ! あんたを置いて逃げるなんて出来るわけないでしょ!」
「でもそうしないと――!」
――GYUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUUU!!
「……っ!」「……あっ……!」
二人が魔物たちの方を見た時には既に歯ぎしりをしながら、目の前まで迫ってきていた。
ゆっくり、ゆっくりと。
その一歩が一歩が彼女たちにとっては死へのカウントダウンだった。
「だ、誰か……っ!」
声を張り、助けを呼ぶティアナ。
恐怖で震え声ながらも、その声は森に響く。
だがそんなことなどお構いなしに魔物たちは寄って来る。
その重々しい足音が二人の心に恐怖を植え付ける。
もうダメだ、殺される……
震えあがる二人はそう思い、覚悟を決めようとした――次の瞬間。
――GYAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!?
一瞬。
ほんの一瞬だけ、魔物たちの間に光が放たれる。
その瞬間、魔物たちが瞬時に一刀両断されていった。
30以上いた魔物たちが一瞬にしてその場から消されていく。
「え、なに……?」
唖然とする二人。
そして両断された魔物の奥からひっそりと黒い人影が二人の前に現れたのだった。
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