42話:ケイオス
「け、ケイオス様!? どうしてこんなところに……」
ケイオスと呼ばれるその少女は俺たちの前にふわっと着地する。
少女はニコリと笑うと、
「空間遊覧をしていたら、見覚えのある顔があったからさ。ちょっと顔を出しただけだよ」
「久しいな、ケイオス殿」
「あ、アトモスいたんだ。影が薄くて分からなかった!」
「なっ!」
アトモスは目を丸くする。
さっき神の使者だがなんだか言っていたけど、扱いが酷くないか?
「それより、これはどういうことだいクリーク」
「ど、どういうことと言いますと?」
「この神界に人の子を連れてくるなんて、まさか気まぐれとかではないよね?」
「いえ、それは……」
なんだ? 雰囲気が一気に変わったぞ?
ただならぬ圧を感じる。
無意識に身体が震えるくらいだ。
この世界に人間が来るのはタブーなのだろうか。
「……ま、いいや。クリークが連れてくるってことはこの子はただの人子ではないんだろうからね」
少女はそういうと俺の元に近づいてくる。
俺の顔を興味津々に見つめ回し、ふむふむと頷いた。
「なぁるほど。この子には神力が効かないみたいだね」
「なっ、何故それを……!」
「これでも神だからね。それくらいは分かるよ」
目の前で人知の超えた会話が繰り広げられる。
神だの神域だの、俺は本の世界にでも迷い込んだのだろうか。
「でもこれならこの神界に来られた理由も納得だよ。大概、人界から転移する時は神力による空間変化の圧力で速攻でスクラップになっちゃうからね」
あ、ああ……さっきのとんでもない力のことか。
正直、死ぬかと思ったけどな。
「あ、ごめんね。人子くん。ジロジロ見るような真似しちゃって」
「い、いえ……」
「ボクはケイオス! 一応神様だよ、よろしく!」
「ボンドと申します。えっと、人界では騎士をやっています」
「ボンドくんか! うん、いい名前だね!」
「あ、ありがとうございます」
フレンドリーな神様だな。
ケイオス……ん、ちょっと待て。
よくよく考えてみればケイオスという言葉、どこかで聞いたことがある。
確か、俺がよく読んでいた小説の中に……
「もしかして、貴女は原初の神カオス様……なのですか?」
「あれ、ボクのこと知っているの?」
「人界の書物に名前を見かけたことがありまして……」
「ああ、それってもしかして『リーヴェルト戦記』って本じゃないの?」
「えっ、なんでそれを?」
「だって、あれボクが人界に遊びに行った時に書いたんだもん。頻繁にボクの名前が出てきたでしょ?」
「書いたって神様が!?」
「そだよ。ボクの崇高なる力と歴史を刻みたいと思ってね。一筆したのさ!」
マジかよ……あれって本当の神が書いた作品だったのか。
確かに内容も妙にリアリティがあった。
神なんて人からすれば所詮幻想の存在に過ぎないのに、あの本には幻想を幻想であると感じさせない魅力があった。
でもこの話を聞けば納得だ。
「ま、途中で書くのやめちゃったんだけどね!」
「そ、そうですよ! なんでやめちゃったんですか!」
「え、ちょっ……」
俺はケイオス様の方をガシッと掴むと、
「ずっと楽しみにしていたんですよ! でも途中から続刊が出なくなって、もしかして打ち切りになっちゃったのかなって思っていたんです!」
「お、落ち着いてボンドくん!」
「あ、すみません!」
俺はすぐにケイオス様の方から手を退けると。
「ふぅ、まさかここまで熱狂的なファンがいたなんて」
「申し訳ございません、ケイオス様。取り乱してしまって……」
「いやいや、むしろ気分が良くなったよ。君は他の人子とは違うみたいだ。そこでなんだが、キミに提案がある」
「て、提案……?」
ケイオス様はニヤリと笑うと、俺の顔に指をさしてきた。
「ボンドくん! キミ、ボクの眷属になる気はないか!」
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