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37話:暴走開始(騎士団視点)


 ボンドたちが機械人形事件に巻きこまれていた頃。

 ロンド騎士団の方でも大きな事態を抱えていた。


「なにっ!? その話は本当か!?」


 ヴェルナーの一言に秘書官はそっと頷いた。


「は、はい。数時間前に現地に向かった第二、第四、第五部隊からの連絡が未だにないので、恐らくは全滅かと……」


「調べろ! これは我々にとって重要な――」


「し、失礼致します!」


 ヴェルナーが声を張り上げようとした途端、部屋に一人の騎士が入ってきた。

 ヴェルナーは怪訝な表情で騎士に問う。


「ノックもせずに入室とはどういう了見だ!」


「も、申し訳ござません! 緊急のお知らせゆえ、どうかお許しを!」


 ただならぬ騎士の姿にヴェルナーは何かを勘付いたのか、


「何事だ。簡潔に申せ」


 イスに腰をかけ、柔らかな口調でそう言った。

 騎士もその一言を聞くと、報告に移る。


「はっ! 先ほど伝令部隊を通じて、第二部隊部隊長のサレン様より、戦況報告がありました。以下、そのままお読み致します。『報告。現地での魔物の勢力は我々の予想よりも遥かに上回っている。その結果、同じく現地に派遣された第四、第五部隊は半壊、我が第二部隊も重傷者を複数名出している。よって、これ以上の戦闘継続は困難が予想されるため、我々第二部隊及び、第四、第五部隊は現地統括指揮官、サレン=フォン・アルカディアの判断により、軍勢からの撤退を敢行することとする』……とのことです」


「撤退だと? あの役立たずの小娘め……勝手なことを!」


 ヴェルナーは怒りを露わにすると、再び立ち上がった。

 拳を握り、その姿には焦りが生じていた。


「お、お言葉ですがヴェルナー団長。確かに今回の一件は並の事ではありません。偵察部隊によれば、数だけではなく突然変異した魔物の存在も確認されています。あまりこういうことは言いたくはありませんが……」


「我々の手には余る、とでも言いたいのか?」


「は、はい……」


「そうか。……この臆病者め」


「え……ぐあぁぁっ!」


 ヴェルナーは一言言うと、懐に刺した細剣で騎士の胸元を切り裂いた。

 血が部屋内に飛び散り、近くにいた秘書官の服にべチャッとかかる。


「ヴぇ、ヴェルナー様……」


「この件はまだ国の連中には知られていないのだな?」


 ヴェルナーは秘書官に目を向けると、彼は慌てながら答えた。


「えっ、あ、はい。私の方で手を回しておきましたので、大事にはなっておりません。ルートヴィックの件も我々の方で対処すると伝えてあります。ですがこれほどの事態です。彼らの耳に入るのはもう時間の問題かと」


「昨晩の幹部会議では、()()()()での事態収拾が絶対事項だという結論に至った。この意味が分かるな?」


「も、もちろんでございます」


「で、あればすべきことは一つしかない。この状況で、我が騎士団が絶対的な立場を守るには、何かを犠牲にせねばならない。撤退中の部隊に伝えておけ。……命をかけて、時間を稼げと」


「ま、まさか団長。アレを使うおつもりですか?」


「何か異議でもあるのか?」


「アレは戦時下のみ使用を許された特殊術式ですよ? 国の認可が下りないと、使えないはずでは?」


「だが非常事態では別だ。その際は私の一存で、使用することが許されている。兵力で敵わぬのなら、戦略魔法を行使するしかなかろう」


「で、ですが魔物が現れた地点は近くに集落や小規模の街もあります。被害範囲からして考えると、それこそ甚大な被害が……」


「黙れ! これは命令だ! それとも、貴様もそこにいる臆病者と同じ末路を辿りたいか!」


「そ、それは……!」


 横に血まみれになって倒れる騎士を見ながら、秘書官は言葉を詰まらせた。

 

「いいか。この騎士団では私の命令こそが絶対だ。貴様も我が騎士団の一人なら、大人しく私の言うことに従っていればよいのだ」


「はい……承知しております」


「ならば早急に準備を進めろ。もはや一刻の猶予もない。失敗すれば自分の首が吹っ飛ぶと思え!」


 ヴェルナーは秘書官に怒声を浴びさせると、そのまま足早に部屋を後にした。

 

「ええい、何故こうも上手くいかぬのだ! このままでは国の連中はおろか、ルートヴィックの連中も粋がるのは時間の問題。最悪の決断になるが、やはり奴を……」


 ヴェルナーは溢れんばかりの怒りを抑えつつも。

 自身は別の目的のため、行動を開始するのだった。

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