2話:貴族宴会【騎士団視点】
ボンドが騎士団を去ったその日の晩。
騎士団本部が所在する都市アルトのとある高級レストランでは、定例の幹部会が開かれていた。
「ヴェルナー公爵、とうとうあの男を追放することが出来たのですね」
「ああ。これであの男の名は組織から完全に消えることになるわけだ」
ワイングラスを片手に持ちながら。
一人の幹部の言葉に騎士団長のヴェルナーはニヤリと笑みを浮かべながら答えた。
「ということは例の作戦は上手くいったのですね」
「完璧だ。彼はまんまと引っかかってくれたよ。私の策にね」
策……というのは予めヴェルナーが仕掛けていたものだ。
今回の一件は全てヴェルナーが作った盛大な〝ウソ〟だったのだ。
全ては彼をこの騎士団から消すため。
だから実際、ボンドは実績の改ざんなんてものはしていない。
だが彼を追い出すには相応の大義名分が必要だった。
そこで考えたのが彼を罪人として追い出すこと。
もちろん、例のレポートも予めヴェルナーが作ったものだった。
そして証言者たちも……
「私の作った作品が役に立ったようで何よりです」
「助かったぞ、ダイク伯爵。やはり貴殿の錬金術は流石と言ったところだな」
錬金術によって作られた偽物だった。
だから彼らが放った証言も全て嘘。
準備されていたものだった。
「ようやく我々の威厳を元の状態に戻すことが出来るというわけですか」
「あの男には随分とかき乱されましたからな」
「まったくだ。平民の癖に図に乗りやがって。これで今日から気持ちよく眠れるというものだ」
次々と共感の声が幹部衆からあがって来る。
彼らにとって、ボンドという平民の存在は非常に目障りだった。
その理由はただ一つ。
自分たちの貴族としての威厳が損なわれかけていたからである。
というのも、ボンドの実績は騎士団の枠を飛び出して一般人にもその名を知られるようになっていた。
平民出身という肩書を持ちながら、実力は騎士系貴族家出身の人間を遥かに凌ぐ実力を持ち、入団から数日も経たずに国から依頼されていた大規模任務を遂げるという実績をたった一人で上げた。
これまで騎士団でも手を焼いていた任務だったのにも関わらずだ。
これは一時期、『貴族殺しの平民騎士』なんてタイトルで記事にもなり話題になったものだ。
だが、その評判がいつしか良からぬ方向へと湾曲していった。
それは貴族たちが平民騎士のお荷物になっているんじゃないかという噂が蔓延したことだ。
しかしながら実際の騎士団の実績は他の組織よりも一歩前に出ていた。
ボンドが来てからその差が広がったのは紛れもない事実だが、元々実力者揃いの場だった。
何故なら個々が貴族家の、しかも騎士家系の人間で構成されていたからである。
だから組織内の戦闘力は高かった。
組織としての評判も悪くはなかった。
実際、他の貴族が運営している騎士団でも平然と平民騎士が受け入れられているところもある。
だから平民が貴族騎士団に入団すること自体は珍しくはない。
だが、その中でもボンドが圧倒的すぎたのだ。
おかげで彼ばかりに人の目が行ってしまい、名のある貴族騎士団だからといっても大したことはないと言われる始末。
彼の強さが、良からぬ波紋を生んでしまったのだ。
そのせいで群衆の中で変な噂をまき散らす者が出てきてしまった。
当然、幹部衆……組織内で強い権力を持つ者たちにとっては面白くない話だ。
同じ貴族ならまだしも、相手は平民。
自分たちの顔に泥でも塗られたような気分だった。
騎士団の幹部は国内でも由緒ある家柄の出身だけで構成されているため、プライドがやたらと高い者が多い。
要するに、彼らにとってボンドという存在は自分たちの存在を汚しかねない不安材料だったのだ。
「やはり平民なぞ入れるべきではなかったですね。試験的にとはいえ、神聖なる我が騎士団に下級国民を属させること自体が間違いでした」
「その通りだ。私も世間を気にするあまり、誤った判断をしてしまった。これからは貴族至上主義の掟を強め、一切の平民を寄せつかせないようにするとしよう」
ボンドを入れたのは、時代の変化に対応するためだった。
ロンド騎士団は国内の騎士団の中でも古い歴史を持ち、代々名のある貴族家の元で運営されてきた。
平民禁制、貴族のみが力を振るえる場所として。
だが時代と共に伝統にも変化が必要な時が訪れた。
それで真っ先に考えられたのが入団条件に身分を無くすことだった。
当然反対の声しかなかったが、組織自体が大きかったため時代の流れに合わせずにはいられなかった。
いつまでも古い価値観に固執する組織と思われたくなかったからだ。
その変わりに入団のハードルを高くし、腕の立つ平民を半試験的に騎士団に入れることにしたのだ。
それも全て、世間の組織に対する評価を高めるため。
〝我が団は長年の伝統に縛られず、平民もしっかりと受け入れます〟
そんな建前塗れの印象を人々に植えつける為に、騎士団が講じた策だった。
昔とは違い、現代では絶対的な貴族主義を敷いてしまうと民衆の中には快く思わない者が出てくる。
そういったことを無くすために、ボンドは数多くの入団志望者の中から厳正に選ばれたのだ。
今となってはそれが裏目に出てしまったが。
「もうこれで我々は今まで通りに過ごすことが出来る。本来あるべき、我々の日常に」
はははっと笑い、ヴェルナーはワインを一口含む。
「ところで、後始末についてはどうされるので?」
「団員にはもう報告済みだ。『彼は自己都合で、今日を持って騎士団を辞めた』とな。色々と理由は聞かれたが、適当にあしらっといた。その内、民衆にも知れ渡ることになるだろう」
「あの男、無駄に人望はありましたからね。しかしながら、騎士協会の方はどうされたので?」
「そっちも既に手回し済みだ。騎士の資格も理由を作って剥奪させた」
「さ、流石はヴェルナー様! お仕事がお早い!」
「ふふっ、私の権力を以てすれば容易いことだそれこそ、情報の改ざんなんてのはな。これで奴は騎士に戻ることは出来ない。ただの、無価値な平民に逆戻りだ」
「やはりヴェルナー様はすごいお方だ!」
「これからも一生ついていきますぞ!」
全員でヴェルナーを言葉で胴上げする幹部たち。
ヴェルナーは心の中で静かながらも愉快な笑みを浮かべていた。
「まぁ、奴の話はこれくらいにして、今は宴を楽しもうではないか。せっかく気分がいいのだ。今宵は酒に飲まれてやるとしよう」
「あ、それなら私もお供しますよ! ちょうど今日、団員から会費を巻き上げてきたところだったんです。これでいい酒が飲み放題ですよ!」
「ほう、それはいい。今日は素晴らしい夜になりそうだな。ふはははははっっ!」
ヴェルナーの盛大な笑い声がレストランのVIPルーム内にこだまする。
だがこの時の彼らは知る由もなかった。
ボンドがいなくなったことで、組織に大きな穴が開いてしまっていたということを。
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