20話:早朝鍛錬
騎士の朝は早い。
目覚めたのはまだ日も昇っていない時刻。
俺は王宮騎士が使う寮を出て、一人訓練場へと足を運んでいた。
「さて、今日もいっちょ頑張るか」
腰に差した相棒を引き抜き、素振りを始める。
俺が騎士を志してから、毎日続けてきたことだ。
必ず一日の初めか終わりに剣と向き合う時間を作る。
どんなに忙しくても、疲れていても、この時間は必ず設けるようにしていた。
騎士団にいた時は朝早くに団の訓練場を借りて行っていたし、朝から仕事で忙しい時は寝る前に近くの広場に行って素振りをしていた。
まぁ、俺が騎士として生きていく上でのこだわりみたいなものだ。
「流石にこの時間は誰もいないな」
ローレンス王宮騎士団の訓練場だから、もしかしたらと思ったが……
「あら、こんな時間に先客がいるなんて珍しいわね」
そう思っていた時。
背後から誰かの声が聞こえてきた。
振り向くとそこに立っていたのはフィオナだった。
「フィオナ?」
「なんだ、アンタだったのね」
訓練用の木刀を持ち、服装も動きやすいように訓練着に着替えていた。
「どうしてここに?」
「どうしてって……朝の鍛錬をしに来たからに決まっているでしょ」
「こんな時間からか?」
「アタシの日課なの。この時間は訓練場を隅から隅まで使えるしね」
そう言えば前にティアナと鍛錬について話をしていたな。
ティアナ曰く、結構な時間を鍛錬に使っているって。
「ティアナは一緒じゃないのか?」
「あの子はそういう柄じゃないの。そもそも朝が弱いしね」
「意外だな。性格的に逆なような気がするんだが……」
「どういう意味よ、それ!」
ぷくっと頬を膨らませるフィオナ。
でもティアナが朝が弱いというのは驚きだな。
「そんなことよりも、アンタこそこんな早くにどうしたのよ」
「俺もフィオナと同じようなもんだ。日課なんでな」
「へぇ、あんたも結構そういうところはきちんとしているのね。別に鍛錬なんてしなくてもあんたの実力ならば敵なしでしょうに」
「そんなことはない。上を見れば俺の実力なんでちっぽけなものだ」
例えば、師匠とか。
「それに、俺はもっと強くなりたいと思っている。今も常に上を見続けているし、今の実力に甘んじる気もない。自分の実力に終止符を打ち、歩みを止めてしまってはそこからの成長はないからな」
どんな剣豪でも、日々の積み重ねは決して絶やさなかった。
数々の伝記にそれが記されているように、強さというのは人が決めるものでもなければ、自分が決めるものでもない。
上を見続け、小さなことを積み重ねていった分だけ、人はより強くなれるのだ。
「だから俺は死ぬまで剣を振り続けるつもりだ。おっさんになってもおじいちゃんになってもな」
「なるほどね。それがあんたが持つ規格外の強さの所以なのね」
「所以かどうかは分からないが、要因の一つにはなっているかもな」
それでも、俺の実力では全然届いていない。
あの人の傍にさえも、俺はまだ立てないだろう。
「ねぇ、せっかくだし一緒に鍛錬をしない?」
過去のことを考えていると、フィオナが提案をしてきた。
「いいけど……一緒にって何をするんだ?」
フィオナはふふっと笑いかけると、俺に木刀を向けながら。
「アタシと勝負をしましょ! 勝ったら、相手の言うことを何でも一つ聞く! どうかしら?」
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