1話:お前はクビだ
「ただいま戻りました」
場所は騎士団本部。
俺は任務結果を報告するべく、団長室を訪れていた。
「ボンドか。ちょうどいい。貴様に話がある」
「なんでしょう?」
任務結果をまとめた書類を作業用のデスクに置き、耳を傾ける。
団長が個人的に話があると言ってくるのは中々に珍しいこと。
一体何の話だろうと、思っていると飛んできた言葉は想像を絶する一言だった。
「ボンド、今日限りで貴様をクビとする!」
「……………はい?」
団長室内で高らかに告げられるクビ宣告。
俺は一瞬、何が起きたのか分からずにいた。
「く、クビって……どういうことですか団長!」
「言葉の通りだ。貴様には本日を持ってこの騎士団から出て行ってもらう」
本当に唐突のことだった。
事前に言われていたわけでもなく、今この瞬間明かされたこと。
俺は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
「ど、どうしてですか? 自分が何をしたというのです?」
俺は即座に理由を聞いた。
俺には追放される理由が分からなかったからだ。
仮にあるとすれば、身分が絡むことくらい。
というのも俺の所属するロンド・ロイヤル・オーダー(通称、ロンド貴族騎士団)は普通の騎士団とは違い、貴族階級の人間だけで構成された組織だったからだ。
しかも貴族階級の中でも騎士家系の人間を中心に構成され、国内でもその名を轟かせるほどの大所帯だった。
俺はその中で唯一の平民あがりの騎士として、試験に合格し、この騎士団に入団した。
とはいえ、俺もその辺りはしっかりと弁えていた。
中には高名な貴族家出身の団員もいたので、逆に神経質に接していたくらい。
だが団長は俺の問いに「は?」と言わんばかりの表情をこちらに向けると。
「何を恍けているんだ。貴様は大罪を犯しただろう?」
「大罪?」
「団員から聞いたぞ。貴様、実績の改ざんをしていたんだってな」
「え?」
何を言われるのかと思えば、まさかの俺の脳内にはない情報が団長の口から出てきた。
もちろん、俺はそんなことなどしていない。
確かに俺は組織内で、一定の実績を残している。
その例として組織内では部隊長や現場での代理指揮官など騎士たちを統治し、管理する立場にあった。
でもそれはあくまで自らの実力で積み重ねていったもの。
断じて実績を改ざんするなんて卑怯なことは……
「何かの間違いです! 自分はそんなことはしていません!」
「これを見てもそんなことが言えるか……?」
そう言って団長が懐から取り出したのは数枚で纏められた書類。
バインダーで丁寧に止められており、ちらっと表紙を見ると上から下までぎっしりと文字が書かれていた。
「これは今回の貴様の犯行の証拠を示すレポートだ。先日、とある団員が私宛に送ってきてな。面白いぞ、貴様の犯行の詳細が事細かに記載されている。しかも一枚だけではなく、数枚同じような記述を見つけた」
レポートをテーブルの上に並べる団長。
俺はそれを聞くと、すぐ団長のデスクに駆け寄った。
「その書類、自分にも見せてください。俺が見れば、事実かどうか――」
「まぁ待て。証拠はこれだけではない」
「えっ……?」
団長は不敵な笑みを浮かべ、トントンと人差し指で二回デスクを叩くと。
「……入れ」
その一言の後に背後で扉の開く音がした。
中に入ってきたのは数名の騎士たち。
しかも……全員見覚えのある顔が揃っていた。
そう、その五人とは俺の直属の部下だった。
「お、お前ら……」
「彼らが今回の一件の証人だ。まず貴様から、事の詳細を伝えよ」
そう言って一人の騎士を指さすと、差された騎士は口を開いた。
「はい。私は先日の大規模魔物討伐任務において調査レポートの改ざんを頼まれました。全て自分の実績として処理するようにと……脳天に剣を突き付けながら」
そして流れるように次の証人の証言へと移る。
「私も同様に頼まれました。自分の場合は情報改ざんに反対したのですが、そうしたら喉仏に剣を突き付けてきて……「やらなきゃ、殺すぞ」と脅されて……」
更に証言者たちの話は続いた。
俺はその出鱈目な内容に唖然と立ち尽くすだけだった。
「これで分かっただろう? 貴様は完全に〝クロ〟なのだ! 現に貴様のここ最近の功績は異常なものだった。入団してから半年もたたずに管理職へと昇進する時点で怪しいとは睨んでいたが、まさかこんな裏があったとはな」
「ちょっと待ってください! 俺は――」
「黙れ! これはもう決定事項だ。我が騎士団は完全実力主義。その組織内で実績の改ざんがどれほど重罪であるかは貴様にも分かっていたはずだ」
団長は語調を荒くし、俺の意見をかき消す。
後ろの五人も俺が何を言おうとも、口を開くことはなかった。
どうやらこの状況で俺の身の潔白を証明することなんて、出来なさそうだ。
でも、悔しい。
俺はそんなこと、していないのに……
自らの努力で勝ち取ってきた地位なのに……
「まったく平民如きが。少し腕が立つからと言って調子に乗りやがって」
団長は捨てるように言葉を吐いた。
その言葉には何か強い想いが秘められているように感じたが、今の俺にはそんなことなどいちいち考えている余裕はなかった。
「まぁいい。とにかく、今日中に荷物を纏めて失せろ。貴様みたいな大罪人といつまでも一緒にいると私まで疑われてしまうからな」
「……」
「なんだ何か言いたいことでもあるのか?」
言いたいことなんて山ほどある。
でも言ったところで何も変わらない。
むしろ……
「まぁ、これ以上面倒な手間をかけさせるなら衛兵を呼んで無理矢理にでも追い出すがな」
だろうな。
分かっていた。
俺の居場所はもう、ここにはないのだ。
「……いえ、何もありません。分かりました。今日中に騎士団から出ていきます」
「よろしい。ま、せいぜい頑張って生きてくれ。大罪人のボンドくん」
「……失礼します」
その後。
俺は一度も団長の目を見ることなく、静かに団長室を去った。
そして、5年間務めた騎士団から出ていくことになったのだった。
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