18話:歓迎会
試験が終わり、俺が指導騎士として正式に任命された日の夜。
俺は王都内の大衆居酒屋で歓迎会を受けていた。
「それでは、ボンドくんの入団を祝して――乾杯!」
「「「「「乾杯!!」」」」」
盛大に始まる歓迎会。
一番意外だったのは会場が都内にある普通の居酒屋だったという点。
もちろん貸し切りだが、やるならてっきり王宮でやると思っていたから……
「この煮魚美味しいわ! ティアナも食べてみなさいよ!」
「……(ぱくっ)。……ホントだ、美味しい!」
席の隣で料理を堪能する二人。
俺が酒の入ったジョッキを片手に周りの様子を見てるとフィオナが声をかけてきた。
「どうしたの? さっきから周りを見て」
「いや、場所のチョイスが意外だなって思ってさ。王族とかお偉いさんってあまりこういうところを使わないイメージだったから」
「それは偏見だわ。むしろアタシたちはこういう庶民的な場所が好きなのよ。特にお父様はね」
「陛下も?」
「そうよ。あの人、暇さえあれば街に出て、昼間から居酒屋でお酒を飲んでいるくらいなんだから」
「そ、そうなのか……」
なんか聞いているだけだと、ダメ親父って感じなんだが。
「というか、むしろ王宮で食事するよりもこういうところでの方が好きって前に言ってたしね。この前も家族で定食屋に行ったし」
「王族とは思えないな……」
二人の庶民感覚も親譲りだったわけか。
「買い物も使用人じゃなくて、お父様自ら行くこともあるわ。俺が選んだ方が安い買い物が出来る! とか言ってね」
「まるで主婦だな……って、そう言えばフィオナたちのお母さんはいないのか? 今日は一度も見ていないが……」
「お母様は、数年前の戦争で死んでしまいました」
俺の問いにティアナが少し寂しそうに答えた。
地雷を踏んでしまったと思い、すぐに謝った。
「す、すまない。余計なことを聞いた」
「大丈夫です。もう何年も前のことですし、まだ幼かったので記憶もあまりないですし」
そう言えば、ローレンス王妃だったシーラ様は先の大戦で戦死したって何かの書物に書いてあった気がする。
騎士王アルバス国王陛下と並ぶ剣の実力者でついた異名は『閃光の戦乙女』。
詳しい話はそこまでしか知らないが、彼女もローレンスに富を齎した人物の一人として歴史書に名を刻んでいた。
「お母様がいないのは寂しいけど、この国の為に天国に行ったってお父様から聞いているから、アタシはむしろその遺志を受け継ぎたいと思っているわ。今のローレンスがあるのは紛れもなくお父様とお母様のおかげだもの」
「わたしも同じ気持ちです。お母様の分まで生きて、わたし達がこの国をより良い方向へ導く。それがわたしたちの目標の一つであり、夢でもあるんです」
「そうか……」
立派な夢だ。
後に自分が置かれる立場を理解し、成し遂げようと思っているビジョンがある。
実に素晴らしいことだ。
「おうおう、なんだなんだ? ママンの話でもしていたのか~~? あの女は良い女だったぜぇ~~~?」
「お、お父様!?」
ジョッキを持ちながらやってきたのはアルバス国王陛下。
かなり酒が回っているみたいで言動から人格まで何もかもが変わっていた。
「へ、陛下! はしたないですよ!」
「いいんだよ、こういう時こそ好きにさせてくれぃ。お前たちも陛下陛下なんて言ってないで、飲むんだぁぁぁ~!」
「それでも限度がありますって!」
取り巻きの騎士たちが止めようとするも、聞く耳を持たない。
「な、なんかすごいことになっているな……」
「お酒を入れ過ぎるとああなるのよ。別にこれが初めてじゃないわ」
はぁ……とため息をするフィオナ。
試験の時の凄まじい威厳はどこへ? というレベルの変化。
傍から見れば本当にダメ親父と化していた。
「ボンドくん、君も今日はじゃんじゃん飲んでくれぃ! 今日は君が主役なんだからなぁ!」
「は、はい……」
酒を爆飲する陛下にはもう誰も手をつけられない。
そう言わんばかりに取り巻きの騎士たちはもう止めることを諦めていた。
「ところでボンドくん」
「はい?」
「もし君が良いならの話なんだが……」
陛下がここで一度話を止めると、俺の耳にすっと口元を寄せ……
「二人を嫁に貰う気はないか?」
「………えっ?」
「ちょっ、お父様! それは……!」
「ん、聞こえていたのか?」
「そんなに大きな声で耳打ちしたら聞こえるに決まっているでしょ!」
「ボンドさんが、わたしたちの――っっ………!」
ティアナも聞こえていたみたいで、分かりやすく赤面する。
それを超えて、頬を赤く染め上げたフィオナが慌てて話し始めた
「お父様はいつも話が飛び過ぎなのよ! コイツとはまだ会って間もないのに……!」
「だが、私でさえボコせるほどの実力者なのだ。何が不満だというのだ?」
「そういう問題じゃないの! こういうのには順序が――」
「わ、わたしは……ボンドさんとなら、いい……かな」
「ティアナ!?」「えぇっ!?」
突然の発言に俺もフィオナもびっくり。
というか俺もどちらかというフィオナと同じ意見だったから……
「ほら、ティアナもそう言っているではないか。こういうのは勢いが大事だぞ、勢いが」
「で、でも……それならせめてどちらかじゃないと……」
「二人とも幸せになれるのなら、一夫多妻制でも良いではないか。私は賛成派だぞ」
「そ、それでも……!」
赤さが増していくフィオナ。
俺も何を言っていいのか、分からない中、言葉選びに悩んでいたその時だった。
アルバス国王の身体がふらふらと左右に動き、
――バタッ!!
「へ、陛下っ!?」
「お、お父様っ!?」
突然。
陛下はまるで眠るようにその場に倒れたのだった。
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