15話:平民騎士VS騎士王
『始めっ!!』
アナウンスと共に再びどよめきを取り戻す観客席。
先手を打ったのは俺の方だった。
俺は合図と共に地を力強く蹴り上げると、剣を構えて正面から向かっていった。
「はぁぁっ!」
「……ッ!」
俺の初撃を剣体で受け止める陛下。
その強烈な一撃で周りに衝撃波が走る。
だが俺は攻撃の手を止めない。
相手の防御を崩し、身体を一回転させるとすかさず二撃目を放った。
「ぬぅっ……!」
(……受け止めたか)
しかしこれも受け止められてしまったため、一旦態勢を立て直そうとした瞬間。
「……ッ!?」
それを狙っていたのか陛下は剣体で俺の剣を弾き、身体をよろけさせると、反撃に出てきた。
カウンターだ。
「ぐっ……!」
不安定な中、何とか攻撃を凌ぐ。
だが向こうもこっちの状況は分かっているので二撃目がやってくる。
俺はすぐに剣を横に構えると、低姿勢になりながらも、二撃目を防ぐ。
そして力づくで相手の剣を吹き飛ばすと、素早く距離を取った。
「危なかったな……」
一秒でも判断を間違えていたら、一本取られていた。
しかしながら、流石だ。
あの攻撃を受けたタイミングで反撃をしてくるなんて。
でもなぜか、攻撃に圧を感じなかった。
探りを入れられているような……その感じだ。
「ふむ、なるほど。速さ・力強さ・状況判断、全てにおいて卓越している。私の連続攻撃を受けてもなお防ぎ、弾き返しまでしたのは君が初めてだ。『貴族殺し』の噂は偽りない真実だったというわけだな」
「……その様子だと、既にご存じだったようですね」
「力ある騎士の噂を我々が知らないはずはない。ロンド・ロイヤル・オーダー唯一の平民騎士、通称『貴族殺しの平民騎士』。ボンドという名を聞いた時はまさかとは思っていたが、やはり私の予想は正しかったようだ」
なるほど、素性を悟った上で俺をこの場に誘ったわけか。
探りを入れていたのもこれが理由なら、筋が通る。
最初は試験だからかと思っていたが、どうやら違ったみたいだ。
「会えて嬉しいぞ、ボンドくん。君の実力ならば、久しぶりに私も力を振るえそうだ」
「それは嬉しいお話を聞きました」
剣を構えながらニヤリと笑みを浮かべる陛下。
俺も不器用ながら、笑みで返す。
しばらく睨み合いが続き、互いに間合いを取る。
恐らくここからが真の勝負となろう。
そして。
「では……今度は私から行こう。行くぞ、ボンドくん!」
来た。
陛下は剣先を俺へと向けると、さっきの俺と同じように正面から勝負を仕掛けてきた。
爆速で迫る陛下。
歳の割に尋常じゃないほど俊敏な動きだが。
「……っ!?」
一瞬の出来事だった。
目の前にいたはずの陛下の姿が突如として消えたのだ。
しかしここで慌ててはいけない。
早い敵を仕留めるのは前の仕事で慣れている。
それこそ色々な魔物を討伐して経験値を貯めてきたからな。
「後ろか!」
即座に気配を察知。
一瞬だけ見失ったが、間違いなく俺の後ろに回り込んでいる。
だが振り向くまでの時間がない。
気づいた時には向こうの剣は俺の背中を捉えていた。
「ならばっ!」
「……なにっ!?」
俺は身体を向かせるよりも先に剣を向け、防御に徹する。
流石の陛下もこの動きには驚いたのか、戸惑いの顔を見せていた。
だがこのままではこちらが不利だ。
俺は防御した瞬間に陛下の足元に自身の足をかけると、その隙を利用して振り向きざまの一刀を浴びせた。
「ぐぬっ……!」
一撃は鎧を掠める。
なんと間一髪で攻撃を避けたのだ。
陛下は流石にマズいと思ったか、すぐに俺から距離を取った。
「――お、おいおいマジかよ。あいつ、あの陛下を退けさせたぞ」
「――騎士王とあそこまでやり合うなんて……何者なんだ、あの青年は!」
ボソボソと聞こえてくるギャラリーの声。
さっきまでの熱狂から一転して、皆俺たちの一戦を真剣に見入っていた。
「お、お父様と互角に渡り合ってる……やっぱりただ者じゃないわ」
「ボンドさん、凄い……!」
それはフィオナたちも同様だった。
誰もが二人の勝負に釘付けになり、無駄な雑談すらも湧かなくなった。
「ふぅ……」
目を瞑りながら、静かに息を吐くアルバス国王陛下。
そしてゆっくりと目を開けると、
「見事だ。君の実力は私の想像を遥かに超えていたよ」
「陛下にそう言って貰えて光栄です。どうでしょうか、これなら指導騎士としてやっていきそうですか?」
「うむ。君ならば、娘たちを強い騎士に育てることができるだろう」
「じゃあ――」
「だが、もっと先を見てみたいと思ってしまった」
「見てみたいとは……?」
「君の剣術をだ。まだ、何か隠しているのではないか?」
「……」
この人には分かるのか?
確かに俺にはまだ見せていない一面がある。
奥義剣術を。
「もし良ければ私に見せてくれぬか? もちろん、私も全力を持って相手をするつもりだ」
「ということは、陛下もまだ隠している力があるということですね?」
「ほう、察しが良いな。確かに私にはまだまだ出せる〝力〟がある。今度はこの力を解放して、君に臨もうと思う」
陛下は続ける。
「だからここからは試験関係なしに一騎士としての君に勝負を挑みたいのだが、どうかね?」
要するにここからは試験ではなく、本格的な真剣勝負をしたい……ということなのか。
試験に合格した今、俺には陛下に刃を向ける理由がなくなってしまったが。
「もちろん、そういうことでしたら喜んでお受けしましょう。自分ももう少し陛下と手合わせしたいと思っていたところですから」
返答はもちろんOKだ。
こんな機会、滅多にないからな。
しかも、英雄と呼ばれた人間から挑戦状を受けたのだ。
同じ騎士として、受ける以外の選択肢はない。
「快い承諾、感謝するぞ。では、第二ラウンドと行くとしよう!」
ここからは試験関係なしの勝負。
本来ならば、ここで模擬戦は終わっているはずだが……
「何だろう、この高揚感は……」
これは戦士としての性なのだろうか。
俺は今からの戦いに胸を躍らせていた。
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