14話:試験開始
日差し差し込む訓練場内。
周りには百を超える王宮騎士たち。
そんな状況の中、俺は剣を持ち、舞台に立っていた。
「――あの青年が陛下の対戦相手か」
「――誰だ? 王宮騎士にあんな青年いたか?」
「――いや、なんでも陛下の指名で彼が対戦相手に選ばれたんだとさ。王宮騎士ではないらしい」
「――マジで!? あの陛下が対戦相手に指名するなんて、余程のことだぞ? どうなってるんだ?」
「――さぁな。経緯は俺も分からねぇ」
観客席から聞こえてくる俺の話題。
会話を聞く限り、今回の模擬戦の筋までは知らないみたいだった。
「よくぞ、来てくれた。ボンドくん」
目の前に立つは騎士王と呼ばれし英雄。
鎧で身を包んだその姿からは戦士の風格というものを強く感じる。
「凄い人ですね。試合前から驚きましたよ」
「すまない。まさかここまで大事になるとは思ってもいなくてな。ちょーっと模擬戦で訓練場を使うと言っただけなのに」
原因は貴方か!
そう言いたくなる気持ちをグッと心に抑え込む。
でも騎士王が模擬戦をしにいくと言えばまぁこうなるわな。
その噂の広がりようが想像を超えてこのくらいの規模になっただけで。
「だが、いくら観戦者が増えようともこれは試験に変わりはない。お互いにフェアでソードマンシップに乗っ取った戦いをしようではないか」
「もちろんです」
ちょっと予想外の出来事は起きたが、陛下の言う通りこれはれっきとした試験。
俺が指導騎士になるための砦なのだ。
どんな状況下であれ、俺は俺の果たすべき目的を達さなくてはならない。
「準備はいいかな?」
「自分なら、いつでも大丈夫です」
鞘から剣を引き抜き、刃をアルバス国王へと向ける。
この剣は修行を通し、俺が一人の剣士として歩みを始めた時に師匠から貰ったものだ。
だから、かれこれ十数年の付き合いがある。
俺の相棒だ。
「では私も……」
アルバス国王も腰に差していた一刀を抜く。
剣体には王家の紋様が入っており、刃は日光に当たって眩しい輝きを放っている。
(あれが英雄と呼ばれた騎士の剣か……)
相当念入りに手入れされている。
だが、よく見ると刃ではない部分にはちょっとした傷がついていた。
先の大戦によってついた傷なのかどうかは分からないが、かなり大きな修繕跡があるからそうなのだろう。
「本当に実剣で良かったのか? これは命のやり取りではないから、訓練用の木刀でも良かったのだぞ?」
「構いません。自分の剣を使った方が力を発揮できると思いますので」
試験開始前。
俺は実剣か木刀かのどちらで戦うのかと陛下に聞かれていた。
陛下の言う通り、これは命のやり取りではないからわざわざ実剣を使わなくても良かった。
怪我のリスクも増えるし。
でもさっき言った通り、この剣は俺の相棒だ。
覚悟を決めて戦う時や大きな仕事をこなすときはいつも一緒だった。
この剣は俺の身体の一部みたいなものだ。
それに、今回の試験は落ちられないしな。
落ちたらフィオナたちに怒られてしまう。
だから迷うことなく俺は実剣での勝負を選んだ。
「君がいいならそれでいいが。ただ、怪我をする可能性はあることは承知してもらいたい。せめて鎧くらいは着たらどうだね?」
「いえ、鎧も大丈夫です。ケガなんて、覚悟の上ですから」
鎧も同様。
俺は昔から着たことなんて一度もない。
どうにも慣れないのだ。
重いし、ガチャガチャするし、動きにくしで。
「ふふ、確かにそのようだ。今の君は中々にいい眼をしている。さっきの青年と同一人物とは思えないな。その眼は戦士としての目かな?」
「どうでしょうか。あまり自分の目は見たことがないので分かりかねます」
「はははっ、それもそうだ」
笑いを浮かべるアルバス国王。
だが次の瞬間、
「さて。では……そろそろ始めよう」
落差のある表情。
陛下の顔に笑みはなく、その眼は獲物を仕留めんとする者の表情だった。
「……」
空気が一気に変わる。
『それでは両者準備が整ったとのことなので、これより模擬戦を始めます』
アナウンスと共に観客席は一気に静まり返る。
この静けさが緊迫感を生み出し、トクントクンと心臓の鼓動だけが自身の耳に入って来る。
「……行くぞ、相棒」
俺は力強く剣を握ると、臨戦態勢を整えるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます!
モチベーションの向上にも繋がりますので、面白い・応援したいと思っていただけましたら是非ブックマークと広告下にある「☆☆☆☆☆」から評価をしていただけると大変嬉しく思います。
宜しくお願い致します。