11話:国王陛下1
俺は今、とんでもないものを目の前にしている。
あの英雄と呼ばれた最強の騎士が二人の少女の身体に抱き着き、泣き叫んでいるのだ。
「お、お父様! 止めて、恥ずかしいから止めてってばっ!」
「お、落ち着いてください、お父様」
恥ずかしさのあまり、全力で拒絶するフィオナと困惑するティアナ。
だが当の本人は周りの目などお構いなしだった。
「よくぞ、よくぞ戻ってきてくれたっ……我が娘たちよ! 私は、私は今猛烈に感動している!」
ローレンス国王ってこんな感じだったのか……?
噂では、かなり厳格な人だと聞いていたのだが……
まるでその逆、いや……むしろ圧倒的にイメージとかけ離れている。
「陛下」
すると、隣の女騎士が少し張った声でそう言った。
その一言でハッとしたのか、アルバス国王はすぐに離れると。
「おっと、すまんすまん。無事が嬉しくて、つい取り乱してしまった」
アルバス国王はコホンと咳払いする。
そして気持ちを改め、二人の顔を見ると。
「よくぞ、戻った。我が愛娘たちよ! 魔物に襲われた時は心臓が止まりそうになったが、本当に……ほんっとうに、無事で良かったっ!」
「陛下、お言葉ですがつい今朝まで心肺停止に近い状態だったのですよ。我々の方こそひやひやしましたよ、二重の意味で」
隣にいた女騎士が会話に入って来る。
なんか今、さらっととんでもない会話が飛び交った気がするのだが……
「ん、そうだったのか? どうりで昨日の夕方以降の記憶がすっぱりないわけだ。本当にショックで死にかけてしまっていたとはな、ガッハッハッハ!」
「ガッハッハッハ! じゃないですよ! それよりも陛下はお二人におっしゃりたいことがあったのではないですか?」
「あぁ、そうであった」
アルバス国王は再び頭のスイッチを切り替えると。
「フィオナ、ティアナよ。私がこれから言いたいことは、分かるな?」
さっきまでの和やかな雰囲気から変わって。
一気に緊迫感が走る。
フィオナはその真意にもう気付いているみたいで。
「……やっぱり見ていたのですね、お父様」
「うむ。お前たちが国を出ていった後、密かに見張りの騎士を派遣していたのだ。緊急事態以外、手だしはするなと伝えてな」
アルバス国王は続ける。
「私も同行したかったが、流石にそれはマズイと言われてな。仕方なく、これで二人の動向を見ることにしたのだ」
そう言って国王は懐から水晶玉のようなものを取り出す。
大きさからして手の平よりも少し大きいくらいの球体だ。
恐らく魔道具か何かだと思うが。
「ま、まさか……それでずっと見ていたのですか? アタシたちのことを……」
「全部ではない。派遣した騎士とこの投影水晶をリンクさせ、視点の共有をしたのだ。本来ならば、四六時中見守っていたかったが、二人が外にいる間しか見れなかったのだ」
残念な表情でそう話すアルバス国王の傍ら。
俺の隣ではフィオナが拳を握りながら、唇を噛みしめていた。
「四六時中見られたらたまったもんじゃないわよ! というかもし見られていたら、この場ではっ倒しているところだったわ!」
「でも、その魔道具のおかげでわたしたちが魔物に襲われたことを知っていたんですね」
「そういうことだ」
頷く国王陛下。
隣ではやっぱりか、と言わんばかりにフィオナが溜息をついていた。
さっき馬車に乗っている時にフィオナの様子がおかしかったのは、このことを危惧していたからだったのか。
「完全に私の考えが甘かった。お前たちの成長のことを考え、苦渋の決断をしたのだが、やはり二人だけにさせるべきではなかった。そのせいで危うく大切な生命を失うところだったのだからな」
「お父様……」
その一言で、アルバス国王の想いを強く感じた。
さっきのは流石に驚いたけど、よほどフィオナたちのことが心配だったのだろう。
国王である以前に二人は自分にとって大切な娘たち。
その深い愛情に込められた言葉は部外者の俺でさえ、心に響いた。
「あの、お父様……」
その想いはもちろん、フィオナたちにも伝わっていた。
二人は一歩前に出ると。
「その……ごめんなさい!」
「ごめんなさい……」
同時に謝った。
しっかりと頭を下げ、誠意を込めて。
その誠意に嘘偽りはない。
心からの謝罪だった。
それを見たアルバス国王は再び二人の元に近寄ると。
両手でそっと、二人の頭の上に手を乗せた。
「その言葉が聞けただけでも十分だ、娘たちよ。それに今回の件は私の責任でもある。娘が窮地におちていた時に何もできなかったのだからな。だから、あまり自分を卑下するでない。これから気をつけていいのだ」
「お、お父様! 恥ずかしいから、公の場でそういうことは……」
「えへへ。お父様の手、温かい……」
撫でられることに、恥じらいを感じるフィオナに全く気にしていないティアナ。
性格の違い故の反応だが、二人とも幸せそうだ。
何となく安心しているというか、そんな感じを受けた。
この一面を見ると、あの時助けられて本当に良かったなと思う。
一歩間違えていたら、逆の展開もあったわけだし。
そんなことを思いながら。
二人を微笑ましく見守っていると。
「ところで、君が噂のボンドくんかな?」
「あ、はい。そうです!」
突然話しかけられたので、しっかりとした挨拶とかせずに返答をしてしまう。
その瞬間にハッとし、姿勢を低くして再度挨拶をしようと試みるが、堅苦しい挨拶はよいと言われた。
「私がローレンス国王、アルバス=フォン・ローレンスだ。歓迎するぞ、ボンドくん」
「ご丁寧な挨拶痛み入ります、陛下。ボンドと申します。姓はありません」
手を差し出すアルバス国王に少し躊躇しながらも。
最後はしっかりと握手を交わした。
「いきなりで申し訳ないが、まずは君に言いたいことがある」
そう言ってアルバス国王は俺の前に立つと。
ただ、じっと俺の顔を見てくる。
「な、何でしょうか?」
いきなりの言いたいことがある発言。
一体何を言われるのだろうか……と緊張感が高まる。
無理もない。
何故なら目の前には普通の人なら逆立ちしても会えないような人物がいるのだから。
距離にしてほんの1mくらい。
目を合わせるだけでも鼓動が高まる中、アルバス国王は俺の前で膝を地につけた。
(な、何をするつもりなんだ……?)
突然行使される謎の行動。
その行動に疑問を感じた、その時だった。
「君には、本当に世話になったっっ!! 君は私の大切なものを救ってくれた恩人だ。本当に心から、感謝を申し上げたい!」
「え、えぇぇぇっっ!?」
それは刹那の出来事であった。
アルバス国王は大きな声でそう叫ぶと、額を地につけ、盛大なる土下座を見せたのである。
その土下座は隙が無く、余分なところが何一つない完璧な形だった。
俺は驚きのあまり、思わず変な叫び声を上げてしまった。
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※明日から一話更新になる予定です!