9話:目指すは……
あれから時は経ち、次の日の早朝。
俺はいつもよりも早くに起床し、身支度をしていた。
いつものように騎士団へ出勤……ではない。
今日で俺はこの街を出る。
そして、向かう先は――
「アタシが迎えに来たわよっ!」
「うわっっ!」
突然、バタンと部屋の扉が開く。
中に入ってきたのはフィオナだった。
「おはよう。昨日はよく眠れたかしら?」
「お、おはよう。まぁそこそこ眠れた……ってなんで君がここに?」
「なんでって、昨日あんたが教えてくれたんじゃない。馬車で迎えに行く時に家の場所を知っておけば、集合する手間が省けるからって」
「ああ、そう言えばそうだったな……」
何せ滅多に人がこないんでね。
いきなり人が入ってくると驚くわけよ。
ん……? でも待てよ。
「フィオナ、君どこから入ってきた?」
「普通に玄関からよ」
「玄関からってまさか……」
「うん、ナチュラルに鍵が開いてたから気になって入ってきちゃったわ。泥棒でも入ったのかと思って心配したけど、あんた、戸締りはしないタイプだったのね」
「いやいや、普通に忘れてただけです。お騒がせしてすみません」
やっぱり忘れてたのか。
どうりで入ってこれたわけだ。
昨日は色々と考えることが多かったからな。
その影響で戸締りを忘れてしまったのだろう。
「そんなことよりも、準備が済んだら出発するわよ。もう外に馬車を待機させているから」
「早いな」
「当然よ。王女たるもの時間には余裕を持たないと」
いい心構えだ。
予定時間より30分も早いから、相当気を付けているのだろう。
昨日の内に粗方準備をしておいてよかった。
「よし、後はこれを詰めて終わりっと。お待たせしました」
「出来た? なら行くわよ」
荷物を持って部屋を出る。
そして玄関を出ると、フィオナが言った通り馬車が待機していた。
「あっ、おはようございますボンドさん」
馬車の中からひょっこりとティアナが顔を出す。
俺も挨拶を返すと、馬車に荷物を乗せて――
「それじゃあ、早速出発するわよ! 我が故郷ローレンスへ!」
フィオナの一声と同時に馬車が揺れ始め、目的地へと出発する。
目指す先はローレンス王国。
ここから東に進んだところにある隣国ローレンスは騎士たちが主体となって国を統治する騎士制という制度を導入している珍しい国だ。
なので別名、騎士の楽園とも呼ばれている。
最初は俺もローレンスで職を、とは考えていたが、その前にロンド騎士団に入団することが決まったので行くまでには至らなかった。
でも結局、行くことになったのは他でもなくフィオナの誘いに乗ったからだ。
ローレンスでは普通の国とは違って騎士に対する待遇が異なる。
その例の一つとして騎士協会での規約が他の国とは異なる点が挙げられる。
ローレンスも大陸連盟に加盟する一国ではあるが、騎士協会に関しては例外がある唯一の国。
騎士の国と謳っているだけあって、かなりの融通が利くのだ。
例えば騎士であることを証明する騎士手帳を紛失した際の再発行は通常なら発行代を取られるのだが、ローレンスでは無料で再発行をしてくれる。
他にも、騎士の職を引退をしても一度でも騎士試験に合格していれば、再度騎士として役職を持つことができたりもするらしいのだ。
なので俺も制度を使えば、一度失った騎士の資格を再度復活させることが出来るかもしれないということだ。
幸い騎士手帳はこっちの手中にある。
今のままでは効力はないが、ここには今まで俺が積み重ねてきた実績が事細かに記載されている。
フィオナ曰く、これを使えば確実に騎士の資格は取り戻せるという。
もちろん、これは数ある制度の一部に過ぎない。
しかもその上、フィオナが俺を自分たちの指導騎士として、王宮に招き入れたいと言ってきた。
まぁこればっかりは二人のお父様であるローレンス国王が決めることなので、まだ分からないが。
……というようなことを色々と教えてもらい、一晩考えた末に俺はローレンス行きを決断した。
俺としては騎士として再スタートが切れるだけでも在り難いし、元々ローレンスには行ってみたいとは思っていた。
隣国とはいえ、仕事の関係で中々行く機会がなかったからな。
「ところで、ローレンスにはどれくらいで着くんだ?」
「大体昼頃には着くわよ。アルトはローレンス寄りの隣国都市だから、そう長くはかからないわ」
出発したのは朝の7時前だから、大体4~5時間くらいで着くのか。
意外と近くてびっくりだ。
「でも暇ですね……」
「そうね……」
確かに馬車に揺られる時間ほど暇な時はない。
俺は遠征とかで長時間移動は慣れているからいいが、暇なのは一緒だ。
でも大丈夫。
こんなこともあろうかといいものを持参してきたのだ。
「んじゃ、みんなでこれでもやるか?」
そう言いながら、俺が袋からトランプを取り出すと。
「あっ、いいわね! やりましょ!」
「トランプですか! 確かにこれなら暇を潰せそうですね!」
見事に食いつく二人。
やはり持ってきて良かった。
「ルールはどうする? ババ抜き、神経衰弱、大富豪なんでもいけるぞ」
「あ、それなら『大陸戦争』をやりましょ!」
「……え?」
「いえ、お姉さま。ここは人数を考えて『陣地滅却』をやった方が盛り上がると思うよ」
「……はい?」
なんだなんだ、その揃いも揃って物騒な名前のルールは……
聞いたことのないルールに黙る俺。
そんな中で二人は互いにやりたいルールをぶつけ合っていた。
「あんたはどう思う!?」
「ボンドさんの意見も聞きたいです!」
「えっ、俺はその……」
そもそもどっちもルールを知らないです。
というか、今の子たちはすごいルールを知っているんだな。
これがジェネレーションギャップというやつなのか。
「じゃ、じゃあどっちもやろう。時間はまだいっぱいあるんだし」
「確かにそうね。別に焦る必要はなかったわ」
「ついヒートアップしてしまいました。お見苦しいところをお見せしてしまってすみません」
口論が終わると、すぐにルールも決まった。
「それじゃ、早速やるわよ! 王家の娯楽女王の異名を持つアタシの力を見せたげるわ!」
「そんな異名初めて聞いたよ……」
「あははは……」
その後。
俺は二人とトランプをして楽しんだ。
慣れないルールで教えてもらいながらだったが、なんだかんだで楽しい時間を過ごすことが出来たのだった。
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