0話:平民騎士ボンド
今日も今日とて俺は仕事に励む。
俺は部下たちを引き連れて、深い森の中にいた。
「……ぐっ!」
「くそっ、こいつら倒しても倒してもキリがない!」
剣を構える十数人の騎士。
周りには数十体の魔物たち。
俺はその背後で彼らの指揮を執っていた。
「もっと右側の守りを固めるんだ! 隙を突かれるぞ!」
部下に命令を出しつつも。
自身も剣を握り、戦闘に入る。
俺はとある騎士団に所属している騎士だ。
そして一つの部隊を任されている部隊長でもある。
今日は魔物討伐の任務を受け、現地に赴いていた。
「今度は左から大物が3体来るぞ! 前衛と後衛に分かれて、対処! 右側からの魔物は俺が対応する!」
声を張り上げ、部下たちを動かす。
もちろん、自身も戦いながら。
指揮官だからといって指示だけで終わらないのが俺のやり方だ。
自分も騎士であるからには戦うのが本来の仕事だからな。
「一人で戦うな! 危なくなったら、スイッチしろ! 常に仲間が隣にいることを意識するんだ!」
「「「「「はい!」」」」」
部下たちも優秀なので俺の指示通りに動いてくれる。
一体、二体と集団戦で魔物たちを撃退していく。
長期戦にはなったが、段々と魔物たちの猛攻も落ち着いてきた。
そして最後の一体を倒し……
「ふぅ……ようやく全部やったか。今回も中々にハードな依頼だったな」
「こりゃ、帰ったらマッサージ師に揉んでもらわないと明日に響くぜ」
戦闘を終え、安堵する騎士たち。
帰ろうという雰囲気が漂う中、俺は異変を察知した。
「ちょっと待て。何かが来る……」
俺の声に雑談を止める部下たち。
瞬間。
森の奥から紅い光が次々と現れた。
「う、ウソだろ……」
「お、おいおい冗談じゃないぜ」
光の正体は魔物の眼光。
そして無数の眼光から巨大な魔物の群れだと分かる。
数は50、60……いや、そんなもんじゃないな。
「ひ、光が増えていく……」
「マジかよ……完全に囲まれているっ!?」
恐らくこれが今回の依頼の大目玉だったのだろう。
予め、大規模な討伐任務になるだろうとは言われていたが……
「100、200……いや、それ以上いるぞ!」
突然の来客に慌て始める騎士たち。
こんなことは今までなかった。
これでも俺の部隊は魔物討伐に特化した部隊だ。
大量討伐の経験はそれなりにある。
だが、今回ばかりは例外だった。
ここまでの数が一気に出てくることはなかったからだ。
(みんな長い戦いで疲弊している。このまま戦闘を続行させるのはリスクがあるか……)
指導者たるもの、自分の身を考える前に部下のことを考えるべし。
俺なりの教訓だ。
となれば、ここは大技で一気に蹴りをつけるしかない。
奥義剣術『幻影一刀術』で。
「みんな下がれ。ここは俺がやる」
「そんな……いくら隊長でもこの数は無理が……」
「いいから下がるんだ。俺を信じろ」
止めてくる部下たちにそう言い聞かせ、全員を安全圏まで下がらせる。
「さて、ここから俺の仕事だな」
柄に手を当て、抜刀の態勢を取る。
目を瞑り、姿勢を低く保つ。
そして魔力を心臓から剣へと集中させ、魂を込める。
全ては決着をつける一刀のために。
「幻影一刀――」
腰に力を入れ、力強い一歩を踏み込む。
同時に勢いよく剣を抜き……
「『雷鳴』!!」
刹那の速さで振り切る。
その剣撃は一体の魔物に命中する。
が、それはあくまで攻撃の基点に過ぎない。
命中した瞬間に魔物の身体に雷が発生すると、次々に他の魔物へと伝播していった。
10、20、50、100と威圧感を放っていた魔物たちがドミノのように次々と倒れていく。
そしてものの数秒で無数にあった光は森の中から消え去った。
「ば、バカな。たった一人であの数を殺っただと?」
「相変わらず剣筋が全く見えねぇ……」
「やっぱ異次元だわ、あの人は……」
所々から聞こえてくる部下たちの囁き。
注目が一気に集まる中、俺は今一度周りに異常がないか確認する。
「よし、これで本当に終わりだな」
魔物の気配も痕跡もない。
これでようやく任務完了だ。
「みんな、本部に帰るぞ~」
「「「「「は、はい!!」」」」」
茫然と立ち尽くす部下たちに一声かけると、騎士団の本部へ向けて歩み始める。
今日は任務報告等の書類仕事さえ終われば帰れる日。
週に一度の早上がりデ―だ。
いつもはこの後に夜間の要人警護の任務とか諸々の雑務の仕事が控えているため、日を跨ぐまで仕事がある。
最初はきつかったが、今となってはもう慣れた。
だから週に一度訪れる早上がりの日は気分が高まる。
(今日は久々に飲みにでもいこうかな)
そんな小さな楽しみを頭に浮かべながら、帰途を辿る。
が、この時の俺は考えもしていなかった。
自分の身に、火の粉が降りかかろうとしているということを。
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※今日はあと2~3話ほど更新予定です。