第23話 迷いの森VS銀狐隊
――アキナシ領西の山林内
(失態なの! まんまと騙されたの!)
魔導結社【迷いの森】の首魁――アリス・レンレン・ローレライは、薄暗い森の中で己の軽率極まりない判断でこんな魔境に足を踏み込んだことへの後悔の念を繰り返していた。
間違いない。あの流通した魔導書の噂自体が罠だった。あんな強力な超越者を操っているのだ。十中八九、母国のローレライからの刺客だ。
(いつから、ローレライは、あんな超越者たちと契約できるほどの魔導技術を得たの?)
一度相対したから分かる。あの超越者たちは、常軌を逸していた。あれほど強力な超越者は、エルフという種の観測史上初かもしれない。
(ちがう、それはないの)
あれらは常人が契約できるレベルの超越者ではない。しかも複数なことからいって、エルフに突然変異の怪物が現れた。そう理解すべきなのかもしれない。
だとすれば、この世界の勢力図は一気に変貌する。
「アリス様、完璧に囲まれています」
百戦錬磨の部下たちの憔悴しきった報告に、暗い淵に引きずり込まれたような虚脱感に襲われ、蹲りたくなる気持ちを全力で抑えながら、
「突破口を開くの! ここから全力で退避するの!」
到底叶わぬ希望を叫んでいた。
『そなたたちは、合格でありんす』
森の奥から透き通るような美しい女の声が鼓膜を震わせる。
そして次々に出現する美しい銀色の毛並みの狐たち。その狐たちに囲まれるように九本の尾を持った女が姿を現す。
膝付近まで伸びた銀色の艶やかでサラサラの髪に、真っ白な肌の女性らしい体躯。月明かりに照らされた女神のごとく美しい容姿は、見たこともない異国の衣服と相まって幻想的な雰囲気を作り出していた。
「ご、合格なの?」
『これは妾の愛しい旦那様の下した試練。そなたたちは、此度、その勇者の役を担う権利を得たのでありんす』
アリスに近づくと、一つのスクロールをそっと渡してくる。
「これは?」
『それはその計画の書かれた勅書。この遊戯、精一杯、励むでありんす』
その言葉を最後に、まるで始めから存在しなかったかのようにその存在を消失させる。
あの女の超越者の口ぶりから言って、これは祖国であるローレライとは無関係。というか、あのクラスの超越者との契約は、最大級に運が良くてトントン。通常、逆に隷属させられてしまう。それをあそこまで、魅了するなど、もはやエルフという種には不可能だ。
祖国の追手でないのなら、まだやりようはある。
アリスは書簡の中を確認するべく、その紐をほどいていく。
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