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第24話 無能者と蔑まれた少年 ローゼマリー・ロト・アメリア


「すごい……」


 口から漏れ出たのはローゼマリーの嘘偽りのない感想だった。

 アメリア王国は、女であっても王となるものは幼少期から武術と魔法を徹底的に叩きこまれる。民のみを戦場に立たせるな。いかなる苦難の際も己が剣と杖をとって民のために立ちあがれ。それが初代の王の残した訓示であり、長年脈々と受け継がれてきた伝統。

 だからこそ、武術に関しては目だけは肥えている。そう自負していた。なのに、二人の剣術はローゼの理解の遥か上をいっていた。

 アルノルトから放たれた鋭い斬撃が踏み込んだジグニールに放たれるも、その鼻先を通過する。そして、懐へもぐりこんだジグニールの二つの斬閃をアルノルトは力任せに大剣を振るい、後方へ吹き飛ばす。

 ジグニールが持ち前の敏捷性を生かして上空、地面を高速疾駆し、死角からの怒涛の乱撃を浴びせれば、アルノルトはそれら全てを大剣で受けて立つ。

 月明かりに照られた激しく打ち合う長剣と大剣の舞は、これほどかというほど美しかった。


「これが獅子王と剣帝との闘い……」


 隣のアンナが魂の抜かれたような顔でそんな素朴な感想を口にする。


「ええ、私も真の達人同士の命懸けの戦闘など目にするのは初めて。これほどのものだとは」

 

 二人の剣術はもはや人類が及ぶ事のできる至高の域にある。そして、わかったのは二人の剣の技量が完全に同格ということ。加えてアルノルトは、ジグニールの剣撃を全て大剣で受け切っているのだ。これは即ち――。


「騎士長、勝てるでしょうか?」


 濃厚な不安に彩られた表情で、たった今、ローゼが結論付けた事項を尋ねてくる。


「剣帝ではアルノルトには勝てません」

「え? でもどうみても互角じゃ?」

「互角だから勝てないんです」

「うーん、えと……」


 頭を傾けて考え込むアンナに苦笑しながらも、


「アルノルトは剣帝のあの高速の斬撃を大剣だけで受け切っている。そして大剣と長剣、威力は圧倒的に大剣が上です。それに剣帝もあの運動量をずっと続けるわけにもいかないはず」


 ほらみろ、そろそろ綻びが見えてきた。

 アルノルトの大剣が豪風を纏ってジグニールの胴体を横断せんと迫る。ジグニールはそれを上空に跳躍して避けようとするが、滑って一呼吸遅れる。


「うおおおぉぉぉぉっーーー!!」


 アルノルトは獣のような唸り声を上げつつも、大剣の軌道を変えてジグニールの跳躍した先へと向けて振りぬいた。

 大剣が真面にクリーンヒットし、ジグニールは剣で受けた状態で数回転して吹き飛ばされてしまう。受け身をとり直ぐに起き上がるが、ジグニールに向けて大剣を上段に構えたままアルノルトが疾走していた。

 無駄だ。一呼吸遅い。勝負あり。アルノルトの勝利だ。

 アルノルトは無傷。あの剣帝が倒れれば、逃げることくらいできるはず。

 しかし、そのローゼマリーの淡い期待は――


「ぐっ!」


 アルノルトの右足に噛みつく一匹の蛇により、粉々に打ち砕かれた。

 不自然に動きが止まったアルノルトにジグニールの剣が袈裟懸けに振り下ろされて、俯せに倒れ込む。

 ジグニールは暫し肩で息をしながら倒れるアルノルトを見下ろしていたが、その右足に今も噛みつく蛇を視界に入れて、額に太い青筋を張らせる。


「エンズぅっ!! なぜ、俺達の決闘の邪魔をしたぁぁッ!!?」


 灰色坊主の男を激高する。


「これは皇帝陛下の勅命による戦争の一環なのだ。ここでお前が倒れれば王女に逃げられるかもしれん。無論、その可能性は低いが、万が一がありえる。お前のくだらんプライドなどそれに比べれば些細なことだ」

「くだらんだと? 貴様、俺の剣士の誇りを愚弄するつもりかぁぁッーー!!?」


 据わった目でジグニールは灰色坊主の男エンズに剣先を向けると重心を低くした。


「そんなつもりはないんだがね。だが、仕掛けられたならば全力で抗わせてもらおう」


 エンズも両手をゴキリと鳴らして、構えをとる。

 黒ローブたちの注意は二人に集中しており、ローゼたちから離れている。今ならアルノルトを担いで森の中に逃げ込み、まいたら回復魔法をかける。それしか手段がない。


(いまっ!)


 アルノルトへ向けて走り出そうとしたとき、あっさり羽交い絞めにされてしまう。


「だーめ、逃がしませんよぉ」


 背後を振り返ると、光悦な表情でフラクトンの部下の騎士の一人がローゼを見下ろしていた。


「は、はなせぇ!!」


 アンナの怒号が鼓膜を震わせる。唯一動かせる顔だけ声の方に向けると、アンナに覆いかぶさる髭面で小太りな年配の騎士。


「なあ、この女は俺達が貰ってもいいんだよな?」


 髭面小太りの騎士の悍ましい問いかけに、


「かまわん。好きにしろ」


 視線すら合わせず、エンズは肯定する。


「おーい、好きにしていいってさ。早い者勝ちだぜ!」

「や、止めなさいっ!」


 必死に声を上げるも、誰も聞く耳すら持たない。


「姫様、アンナが女になる瞬間、見てやってくださいよぉ」


 小太りの騎士の仲間の一人が暴れるアンナの両腕を掴み、馬乗りになる年配小太りの騎士がアンナの鎧を引っ剝がす。


「やだ! 離せ! 離せよぉ!!」


 既にアンナの声は涙声に変わってしまっている。


「アンナから離れなさい!! 貴方たちは恥というものを知らないのですかっ!」

「もちろん、知ってますよぉ。でもですねぇ、敗者は勝者に従うのも、それは(いくさ)の理でしょぉ」


 年配の小太りの騎士がアンナの上着を引き裂くと、二つの大きな双丘が夜空の空気にさらされる。


「いやあぁぁぁッ!!」


 アンナの悲鳴が響きわたる。

 ジグニールは襲われているアンナを横目で一瞬見ると、舌打ちをして剣を鞘に納めて森の中へと歩き出す。灰色坊主の男も肩を竦めると構えを解き、黒ローブたちに目で合図をする。

黒ローブたち数人がゆっくりとローゼに近づいてくる。

 こんなの酷い! 酷すぎる! ギルバートは血を分けた弟だ。なのにローゼを帝国にあっさり売り渡した。そして、ギルバートの部下の騎士たちは、ローゼの大切な妹同然の少女にこんな非道を働く。ローゼが帝国にいけば、きっとこの者達は素知らぬ顔で元の生活を続けるんだろう。いや、きっとこの愚行の功績によりギルバートから重用される。

 ――アンナを辱めておきながら!

 ――ローゼを帝国に売り渡しておきながら!

 このアメリア王国を極限まで汚濁するのだ。

 許せない! 許せるわけがない! こんな恥知らずどもなんて全員死んでしまえばいい! 

 神、いや、悪魔でもいい。誰でもいい! この恥知らずどもからアンナを守って!!


「助けてよぉぉぉぉ!!」


 喉が潰れん限りの絶叫を上げる。

 ――突如、アンナに覆いかぶさり、今にもアンナの双丘に触れようとした年配で小太りの騎士の身体が持ち上がる。より正確には、黒色の異国の服を着た男性の右手により、頭部を鷲掴みにされて持ち上げられていた。こちらからは、背中しか見えない。だから、わかるのは中肉中背の黒髪ということだけ。


「ぎひっ‼ 痛だっ! ぎががががっ!」 


 悲鳴は絶叫へ、そして言葉にすらならぬ奇声へと変わる。ローゼが瞬きを一度したとき、年配の騎士の頭部は果実のように弾け飛んでしまっていた。地面へと落下する頭部を失った年配の騎士の(むくろ)


「あらまぁ、この程度で砕けるのか。やっぱりだ。迷宮最弱の魔物よりも耐久力がない。現実世界の強者と弱者の差って相当激しいのかもな」


 たった今、人を殺したというのにその男からはまったくそれに対する忌避感のようなものが感じられない。まるで、それは果実でも捥ぎ取るかのよう。彼にとってその程度の感慨しか覚えていないようだった。


「ひぃやぁぁっ!!」


 同僚の騎士が殺されて、アンナの両腕を抑えている男が金切り声を上げるが、


「うるさい」


 黒髪の男は手袋に付着した血を払いながらも、その声を張り上げる騎士の頭部を蹴り上げる。

 やはり、頭部が弾け飛び、噴水のようにまき散らされる血液。

 思考がついていかない。あんな攻撃にすらならないような手段で二人の騎士が死んでしまった。

 しかも、さっき蟲でも踏み潰すがごとく殺された二人は、王国の中でもそれなりに腕の立つ騎士だったのだ。アメリア王国は、まごうことなき大国。その中での上級騎士はまさに世界でも有数の武力を有しているといえる。それが、あんなあっさり……。

 黒髪の男は初めてグルリと周囲を見渡す。その顔を一目見たとき、ローゼの心臓は激しく動悸する。それは、あの無能者と蔑まれたカイ・ハイネマンだったのだ。


 次回はカイの視点です。あと数話は一章の山場で私が結構好きなシーンが多数出てきます。カイの相手は現剣帝と精霊王と契約する召喚士です。お楽しみに!


【読者の皆様へのお願い】

 少しでも「面白い」、「先が読みたい」と感じましたら、ブックマークと評価をお願いしますっ! 作者は部屋の個室で盆踊りで歓喜を表現します! (^^)/

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― 新着の感想 ―
楽しく拝見しております。 視点が王女視点だと認識しておりますが、部分的にアンナの問いかけと重なり合うようで分かりにくく感じました。 また、「ほらみろ」という表現を王女がするかな?と思いました。 ここか…
[気になる点] というか今回がこの物語全体のピークでしょ ここから面白くなる要素が見当たらないもの
[気になる点] なんでだろ? 凄く読みにくい。
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