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第1話 この世で一番の無能

 城塞都市ラムール。人口約5万であり、神聖アメリア王国ではありふれた中規模都市にすぎない。

だがこのラムールは一つ、世界中でも稀にみる大きな特徴がある。時代の転換期になると決まって特別な恩恵(ギフト)を持つ子供たちが多数生まれ出るということ。

 そして、近年の四大魔王の一柱――アシュメディアの攻勢により、アメリア王国は未曾有の危機を迎える。この動きに聖女であり、アメリア王国第一王女ローゼマリー・ロト・アメリアが勇者様、賢者様を立て続けに召喚。それに呼応するかのように剣聖、槍王、大魔導士のギフトを有する子供たちがこのラムールに登場する。

 そして、その槍王のギフトを有する少年が本日の僕の模擬戦の相手だ。


「おら、おら、どうしたぁ⁉ 世界一の無能さんよぉ!!」


 頭部、胸部、腹部目掛けて繰り出される、茶髪の美少年の木の棒による突きをかろうじて防ぐ。もっとも、防ぐといっても茶髪の少年は片手でしかも、お遊び半分に棒を操作しているに過ぎない。それでも、僕にはかわすことが精一杯。


「違うよ、ローマン、世界一の無能じゃなくて、この世で一番の無能さっ!!」


 茶髪の少年、ローマンの仲間の金髪イケメン少年からヤジが飛び、訓練を受けている同じ道場の男子たちからドッと嘲笑が漏れる。


「おら、もらったぁ!」


 ローマンの弾むような声の直後、額に棒がブチ込まれ、僕の意識はあっさり刈り取られてしまう。



 頬を討つ心地よい風と額への痛みから、瞼を開けると心配に堪えない顔で僕の顔を覗き込んでいる美しい金髪の少女が視界に入る。


「ライラ?」


 首を動かし確認すると、そこは模擬戦の決戦場の隅の木陰。傍の道場からは剣術の模擬戦の掛け声が聞こえてきた。


「カイ、大丈夫? 顔にかなりまともに入ったみたいですけど?」


 風で揺れるウエーブがかかった長いブロンドの髪を押さえながら、彼女は尋ねてきた。

彼女、ライラ・ヘルナーは僕、カイ・ハイネマンの許嫁だったが、13 歳のときのあの神殿の天啓により、僕のギフトが【この世で一番の無能】であるとわかると直ちに解消されてしまう。


「うん、たん瘤作ったくらいかな」


 さらに僕の額を覗き込んでくる幼馴染。益々迫る黒色で統一された衣服を押し上げる二つの大きな胸の膨らみに、己の頬が熱くなるのを自覚する。それに気付かれまいと、慌てて起き上がり、右手を額に当ててみると少し瘤にはなっていた。

 【この世で一番の無能】のギフトが発現してから、僕の身体能力は著しく低くなり、いくら訓練しても肉体強度は向上しなくなる。今や鍛えていない女子供よりも虚弱。それが僕だ。むしろ、たん瘤一つで済んだのは僥倖なのだ。

 ライラは僕の額にそっと触れると深く息を吐く。よほど心配させてしまったようだ。


「カイは、もうすぐ王都に行くんですの?」

「うん、この地は少々僕には居づらいからね」


 この地ラムールは、今まで世界に有益な恩恵(ギフト)ホルダーを放出してきたという自負故か、ギフト至上主義のアメリア王国の中でも特に僕のような屑ギフトを有するものを冷遇する。さっきのローマンのような扱いなど日常茶飯事だ。赤の他人から罵声を浴びせられることも、石さえ投げられたこともある。

 母さんが王都に来るように厳命したのも、きっとそれを見かねてのことだろう。


「では、王都で就職するつもりですか?」

「母さんはそれを望んでいるみたいだけど、僕はお隣の【世界魔導院(バベル)】で探すつもり。ほら、あそこ中立都市だし、僕のようなクズギフト持ちでも就職できそうだしさ」


 中立学園都市――【世界魔導院(バベル)】。世界各国の要人の子息子女が通う複数の学園が存在する巨大学術都市。元来ギフトを持たない種族も学びに来ているから僕のようなクズギフトホルダーに対する差別は大したことはない。就職口も案外あっさり見つかると考えている。


「そうですか、バベルに……」 


 ライラは、意外にもあっさり頷く。

 幼馴染の僕やレーナと離れることに彼女は当初かなりの拒絶反応を示していたが、この様子からすると、彼女も気持ちの整理がついたんだと思う。


「手紙を書くよ」

「不要ですわ。だって――」


 柔らかな微笑を浮かべながら何かをいいかけるが、口を閉じて立ち上がる。


「部屋の荷物の整理がありますから、私は失礼しますわ。じゃあ、カイ、またね」

「う、うん。また」


 妙なニュアンスの挨拶に首を傾げながらも、右手を上げて僕も立ち上がる。

 さて、お爺ちゃんに最後の挨拶をしてくるとしよう。

 そう考え、腰を上げたとき、


「おい!」


 ライラと入れ替わるようにローマンが僕に近づいてくるとドスのきいた声を上げてくる。


「うん? 何?」

「僕は槍王のギフトホルダーだ!」


 随分唐突だね。まあ、いつものことか。


「そのようだね」

「もう、お前とライラさんは許嫁じゃない! 分家だが僕もハイネマン家の一員。彼女と添い遂げる権利がある。いや、僕しかいない!」


 僕とローマンは従弟同士。どうもローマンはライラに昔からポッポらしく、このようなあからさまな対抗意識を燃やしてくる。

 ローマンのギフトは、【槍王】。いわば未来の国家の最高戦力といっても過言ではない。当然のごとく、アメリア王国政府はレーナやキース同様、王都で修行を強く主張した。

 だが、ローマンはそれを固辞し、このラムールでの修行を希望する。もちろん、アメリア政府は当初それに難色を示したが、ローマンが一向に折れぬと知ると、ハイネマン家での修行を欠かさず行うことを条件に最終的には許可を出す。

 多分、ローマンがこうも頑なにこのラムールでの修行を主張したのは、ライラが政府からのスカウトを蹴り、このラムールでの生活を望んだからだと思う。


「それはライラが決めることさ」


 ライラは僕との許嫁が解消されてからほどなく、自分の相手は自分で選ぶとヘルナー家に宣言している。元々、家の古臭いしきたりには反対の立場だったし、それも彼女らしいと言えば彼女らしい。僕との許嫁の解消は、家から距離をとるためのいい切っ掛けになったんだと思う。


「随分な自信だな? ライラさんがお前のような無能者を選ぶと思ってんのか?」

「いや、君と僕とでは彼女に対する気持ちの質が違う。それは不要な心配だよ」


 僕とライラは兄妹のように育っている。今更、結婚とか言われてもお互い当惑するだけだろう。


「それはどういう――」

「ローマン、そんな劣等者などと話し込んでないで早く戻れっ! 模擬戦の続きだ!」


 師範代の一人である顎の割れている坊主に巨躯の男――シガが僕に侮蔑の視線を向けながらもローマンを大声で叱咤する。あれでも、僕があの称号を得るまでは好意的だったんだから、人間とは変わるものだ。


「シガ師範のいう通りさ。そんな能無しの人生の落伍者に僕らの貴重な時間を割くなんて愚か者のすることだよ?」

 

 シガ師範の隣にいる金髪のイケメン少年リクが嘲笑を浮かべながら、ローマンを諭す。


「くそっ! わかってるさ! ライラさんにこれ以上、近づくなよ!」


 舌打ちするとそんな捨て台詞を吐いて、ローマンは小走りに駆けていく。

 軽いため息を吐くと僕もお爺ちゃんのいる母屋へ向かう。



「今までお世話になりました」


 姿勢を正して会釈すると、


「散々振り回してしまってすまんな」


 お爺ちゃんは謝罪の言葉を述べてくる。


「何がです?」

「ライラとの婚約解消の件や、事実上、ここから追い出すようになってしまったことじゃ」

「ライラとは兄妹のような関係でしたし、王都やバベルにいくことも夢ではありました。だから僕は全く悲観などしちゃいませんよ」


 これは本心だ。ハンターのメッカであるバベルに行ってハンターの資格をとることが僕の秘かな夢だった。だから、僅かでもそのチャンスが巡ってきたことは素直に嬉しい。ライラの件も彼女自身が変われる契機になったようだしね。


「いつでも戻ってきてよいのだぞ?」

「いえ、ここには僕の居場所はありませんよ。もう二度と――」

「いいから、たまには顔見せに戻ってこい!」


 僕が返答し終わる前に、お爺ちゃんは怒ったようにそう叫ぶと、立ち上がって部屋を出ていってしまった。

 それもそうか。幼い頃から次期当主としてずっとお爺ちゃんに面倒みてもらっていたんだ。たとえ僕がどうしょうもない出来損ないの落ちこぼれでも、それで家族の情がなくなるわけじゃない。

 僕は感謝を込めて、もう一度頭を深く下げた。


 いつも読んでくれてありがとうございます! すごく嬉しいです!


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― 新着の感想 ―
[一言] よくあるなろうの流れだとおもう。 けどギフトが最低という設定を主人公が覆したとしても世界の価値観は変わらないわけで、主人公だけがこの先評価されても他の弱者の立場を考えるとモヤモヤしてしまう。…
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