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第58話 運命の分かれ道 その3 ソムニ・バレル

 老紳士が案内したのは、一般学生の居住区にある古ぼけた屋敷だった。てっきり、どこぞの王族の屋敷にでも案内されると思っていたソムニが目を白黒させていると、その屋敷の居間のような部屋の前までくる。

 老紳士は扉の前で振り返ると、


「いいですか。この中にいるのはごく一部を除いてこの世の誰よりも強く恐ろしい方々ばかりです。くれぐれも礼儀を忘れずに行動してくださいね」


 悪質極まりない笑みを浮かべてそう念を押してくる。耳元近くまで吊り上がった口角に、紅に染まった両眼。その人とは思えぬ様相に生唾を飲み込み、


「は、はい!」


 顎を引いて了承する。これは動物的な危機意識というやつかもれない。この時、ソムニはこの老紳士には絶対に逆らってはならぬ。そう確信をもって実感していた。

 老紳士は顔を微笑に戻して満足そうに頷くと、木製の扉を叩く。


『入れ』


 野太い男の声とともに、扉はゆっくりと開かれる。


「ひっ!?」


 ソムニの口から出たものは悲鳴。この時ばかりは自分をチキンとは責められない。なぜなら、部屋の中にいる大部分は人とは思えぬ形相をしていたのだから。

 巨大な鼻の長い怪物に、獅子の頭部をもつ化け物、竜の頭の男、背中に朱色の翼を生やした赤髪の青年、九本の尾をもった美しい銀髪の女性、額に角のある三白眼の長身の男が威風堂々と佇んでいた。


(マズイッ!)


 なぜだろう? あれらは絶対にマズイ。それだけは嫌というほど理解できていた。

 飛び出るほど高鳴る心臓に荒い息。視界までぼやけてくる震える膝にムチ打ち必死に、意識をつなぎとめようとしていると、


『ほう、人間にしては珍しく、我らの力を把握するか。中々勘が鋭いと見える』


 朱色の翼を有する青年の言葉に、


『勘っていうレベルかぁ? この坊主、俺っちたちについてかなり正確に理解してるぜぇ』


 額に角を生やした三白眼の男が腕を組みつつもしみじみ呟く。


『人間には窮地に陥ると特殊な能力を発現するものがいると聞く。大方それではないのか?』


 興味深そうに発言する獅子の頭部を有する怪物に、


『少なくともあの身の程知らずのアンデッドどもよかぁ、ましだわなぁ』


 三白眼の男が相槌を打つ。


『とりあえず、このままというわけにはいくまい』


 鼻の長い怪物が両手をパンと打ち鳴らす。途端に今まであったとびっきりの恐怖が消失してしまう。


『見かけによらず、器用でありんすねぇ』


 感心したように呟く銀髪の女性に、


『はっ! そやつは昔からみみっちい小手先の術はやけに得意だったからのぉ』


 竜の頭部を有する怪物が悪態をつくと、


『力押ししかできぬトカゲに言われたくはないな』


 鼻の長い怪物が吐き捨てるように叫ぶ。


『根暗畜生風情が、我らをトカゲと呼ぶか?』


 竜の頭部を有する怪物が血走った双眼で睨みながら、口から小さな火柱を吐き、鼻の長い怪物の三つ目が怪しく輝く。


『ベルゼバブデブー♬ ベルゼブブデブー♪』


 奇妙な鼻歌とともに、部屋の中心に忽然と現れる二足歩行の蠅。

 同時に部屋の奥の扉に向けて二足歩行の蠅は跪く。今までの険悪な雰囲気から一転、異形たちも一斉に同じ方向を向いて跪いた。

 老紳士と黒色の骸骨男が恭しくも扉を開けると、数人の者たちが部屋に入ってくる。

 その中心にいる黒髪の少年を視界に入れて――。


「――ッ⁉」


 驚愕の声を出してしまう。それもそうだろう。フードを頭からかぶった男女の中心にいる黒髪の少年は少し前までソムニが特大の背信者として蔑んできたカイ・ハイネマンだったのだから。

 




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